コラム
2017.03.20
初の選抜に挑む 神戸市立科学技術高校
【写真】 初の選抜大会に出場する神戸市立科学技術高校。前列中央で黒いウインドブレイカーを着ているのが森田晶司監督、その右の紺のシャツが原田勇斗主将
科学技術高校は3月31日に開幕する第18回全国高校選抜大会に初出場する。
兵庫県にある神戸市立の工業系学校は、西日本から2校選ばれる実行委員会推薦枠に、崇徳(広島)とともに入った。
愛称は「カギコー」。監督は森田晶司だ。保健・体育教員でもある49歳は、日焼けしたこげ茶色の顔を緩め、そして引き締める。
「出させてもらえることはうれしいです。でも責任の重さもひしひしと感じている。みっともない試合はできません」
科技高は今年2月の近畿大会予選(新人戦)で報徳学園に0−76、昨年11月の全国大会予選では関西学院に7−19で敗れた。どちらも3位表彰を受ける。
県を代表する私学2強に及ばないものの、2番手グループの位置には長年つけている。
森田は思いを口にする。
「公立の希望の轍(わだち)になりたいですね。そのために、できない理由より、できる方法を探しています」
轍には「先例」の意味がある。
科技高は御影工と神戸工が統合され、2004年(平成16)に創立された。当時から監督を続ける森田は、部員獲得のため、いろいろな仕組みを作っている。
保護者の負担を減らすため、月々の部費はなし。学校からの部予算、それとは別の部活動後援費、さらにOB会にあたるが、保護者や一般人も2000円を払えば入会可能な「SSC」(Scitecs Supporters Club)をフル活用する。
「できるだけお金をかけないようにしています。ただ、菅平の夏合宿など年6回の遠征は実費を徴収します。20万円くらいですかね」
「Scitecs」は「Science」(科学)と「Technology」(技術)を合わせた造語だ。
3年間の試合や練習で使うウエアは入部時に一括で買いそろえる。63000円。これにはヘッドキャップ、夏用のポロシャツやハーフパンツ、用具入れのバックパックも含まれる。
「ブランドものではなく、学校に出入りする体操服の業者にお願いしました。3500円くらいする短パンが2000円くらいで入ります。ウチは無印良品を使っています」
費用はかからないようにしてはいるが、ドレスコードは大切にする。
「チームには秩序が必要ですから」
さらに森田が強調するのは出口保証だ。
「ラグビーのつながりはありがたいですね。神戸製鋼なんかはグループのいろいろな会社の求人をラグビー部に持ってきてくれます。生徒には『実力より少し上のところには入れるようにするから』と話しています」
機械工学科など4学科で学んだ部員の進路希望は進学、就職が半分ずつである。
OBコーチの塩足健太は、工業の教員1年目でもある。指定校推薦で立命館大理工学部に入り、ラグビー部に所属した。
神戸の中心駅、三宮から大阪寄りに1駅のJR灘に学校がある至便さも強みだ。
森田は御影工OBである。現役時代はFBだった。進学先は大阪体育大。徹底したウエイトトレで頑健な体を作った「ヘラクレス軍団」の最初の学年だ。4年時の第26回大学選手権(1989年度)では4強進出する。
卒業後は神戸大の大学院でも学び、修士の学位を持つ。修士論文は「熱中症予防に関する研究」だった。
ラグビー知識はコーチ研修で一緒になって以来、かわいがってもらっている土井崇司(東海大附属高校ラグビーコーディネーター)らから吸収したりもする。
その指導は部員の思いをくむ。
主将のCTB原田勇斗(新3年)は話す。
「平日は昼休みにリーダーが集まって、森田先生らと練習内容なんかを決めます」
その日のトレーニングが決まれば、グラウンド横に張り出され、46人(新3年18、新2年28)の部員たちに伝えられる。
新チームになった昨年12月は部員の総意で体作りに重点を置いた。
「僕たちのチームはFWから流れを作るので、ウエイトトレは欠かせません」
5メートルほどある直径30センチ近い丸太を3、4人でかかえてスクワットをしたり、持ち上げたりして、チームビルディングを兼ねたトレーニングを続けてきた。
その一体感は伝統だ。森田監督は言う。
「ウチはよく兄弟で来てくれます」
小2から神戸少年ラグビークラブで楕円球を持った原田も、9歳上の兄・翔太(現JR西日本)の背中を追いかけた。
「小学校からこのグラウンドに来ているけど、みんな仲がよくて、楽しそうにやっていました。それもあってここを選びました」
快適さはチームワークの土壌である。
創部14年目にして初となる全国規模の大会に向け、原田は決意する。
「僕らは推薦枠です。どのチームも格上だと思うので、最後の最後まであきらめない、しぶといラグビーをしたいです」
ジャージーの色は神戸製鋼と同じ深紅。ステージは違えども、同様に神戸を所在地とするトップリーグの雄に、知名度も、強さも、少しでも近づきたい。
(文:鎮 勝也)