国内 2017.03.10

4年連続ベストホイッスル賞受賞 麻生彰久レフェリー インタビュー

4年連続ベストホイッスル賞受賞 麻生彰久レフェリー インタビュー
麻生彰久レフェリー(コカ・コーラレッドスパークス所属)



「僕の存在にとらわれず 存在を気にせずに ゲームに集中できる環境をつくることが僕の仕事」



 4年連続4回目のベストホイッスル賞を獲得した麻生彰久レフェリー。グラウンドに立つ全ての選手をリスペクトし、また全てのファンに最高の試合を観てもらうことだけを考えて笛を吹き続ける。大舞台でのレフェリングだけが勲章だとは考えていない。日本ラグビー界のためにもっと自分が何ができるのか? 試行錯誤を続けながら試合をメーキングする。





 ワールドカップを終えて2年目のシーズンでしたが、観客数も含め全体的に右肩上がりにはなっていないと感じましたね。私自身はいい試合をファンに観て欲しいと毎回思いながら笛を吹いてきました。レフェリーカメラをつけたりしてファンの方に楽しんでもらうために試行錯誤していますが、使い方も含めもっと臨場感が伝わるようにしたいとレフェリーの間でも話しています。



―4年連続4回目の受賞ですがどこが評価されたと感じていますか?



 だいたい1試合で200回以上ブレイクダウンはあるんです。今年はそのコンテストをしっかり見ることができたと思っています。すぐに笛を吹くのではなく選手たちのプレーの結果を見ながら吹けました。この賞を頂くということは、各チームの監督さんやメディアの方から評価していただいているというのは純粋に嬉しいことです。評価をもらった結果として大舞台で吹けたらいいなと思いますけど、やっぱりラグビーの一番の楽しさコンテストの部分、スクラムやブレイクダウンなど一つ一つのコンテストを正確にジャッジしていきたいですね。大きな国際試合でもトップリーグでも大学生の試合でもどこのカテゴリでも吹いていて楽しいんです。今年は高校生の試合は吹きませんでしたけど(笑)。大学生は大学生のいいところもあります。帝京大学がサントリーに挑んだ試合は楽しかったです。帝京大学はトップリーグのチームと比べても遜色なかったですね。ボールも動くし、あの試合はインプレー時間が非常に長い試合だったと感じています。レフェリーがそう感じる試合は見ているファンも楽しいと思いますよ。



―最近のレフェリングで変わったところはありますか?



 最近はTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)の使い方もよくなってきていると思います。僕らはフルバージョンと言って、トライシーンだけでなく反則などもレフェリーだけでなくTMOの方から情報をもらうようにしています。なかなか使い方の統一感がなかったりしたので、そこをもっと良くしていかないといけません。



―九州電力と近鉄の入替戦、序盤に2回のTMOを使いました。2回目はモニターを見るために一度グラウンドから出ていかれましたね?



 僕たちの中のプロトコルがあって、花園のようなビジョンがない試合会場ではシーズン序盤はTMOに判断をお任せするという流れでした。しかし、インフィールドのところはレフェリーがジャッジしないといけないと思います。ビッグビジョンがない会場でもTMOに全てを任せきるのではなく、自分自身で見て判断する必要があったんです。スタンドの下にテレビがあって、見に行ってノートライと判断したんです。シーズン後半に僕たちが話し合って決めたことなので、来シーズンからはビジョンがない会場ではそういったシーンも増えるかもしれませんね。

 九州電力さんが最後の最後までタックルに行っていました。思い切ってジャッジすることも大切ですが、選手の人生に関わることなのでレフェリーの目とTMOのダブルチェックは不可欠なものですね。「昔は目で見ていたんだよ」って言う方もいますが、今のラグビーはスピーディーになって微妙なジャッジが増えてきていますしね。大学生の試合でも準決勝以上はTMOを導入するなど検討して欲しいですね(笑)。



―シンビン、イエローカードを出すのは勇気がいることですか?



 そこは危険なプレーに関しては厳しくやっていこうと思っています。あとは以前に比べて反則の繰り返しがすごく減りました。これはジャパンの影響もあると思います。各チーム規律に対して重きを置いているのを吹いていて感じます。

 あと各チームのキャプテンが本当に素晴らしいです。上から目線ですみません(笑)。質問するタイミングなども勉強しているのかもと思います。昔みたいに文句を言ってくるようなキャプテンもプレーヤーもほとんどいなくなりました。あと、観客からのヤジも減りましたね(笑)。でもこれが普通なのかもしれませんね(笑)。


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トップリーグ2016-2017年間表彰式にて



 バックスしかしたことのない私はスクラムの反則がイマイチ分からない。最後に、「スクラムはどっちが落としたかはどこで判断するんですか?」と聞いてみた。麻生レフェリーはすかさず立ち上がって実際に私と1対1で組んで説明してくれた。そしてバインドのポジションや落とす時の選手の動きを細かく指導してくれた。

 今回の取材で私の中ではっきりしたことがある。テレビ中継に解説者として元選手がいるが、その横にレフェリーが座っていたらラグビー中継は絶対におもしろくなる。なんでその笛を吹いたのか? この局面、レフェリーはどこに着眼しているか? そんな見方ができたらコアなラグビーファンはさらなる楽しみを覚えるだろう。

 年々試合中の走行距離が増えているという麻生レフェリー。来シーズンはもっと増えることが予想され今シーズンより2キロ体重を落とすと笑いながら話していた。ただジャッジするだけでなく、選手の人生を変えうる使命感のもと、笛を吹き続けるその姿に改めて尊敬の念を抱いた取材だった。



(記事・写真 提供/『NOW RIVALS』)

※ 2017年2月17日発行 ISSUE 19 より転載



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