コラム 2017.02.02

創部19年目で初の地区決勝へ。大阪・関西福祉大学金光藤蔭高校

創部19年目で初の地区決勝へ。大阪・関西福祉大学金光藤蔭高校
創部19年目にして初の大阪大会決勝に進出した関西福祉大学金光藤蔭高校の
久保玲王奈監督、SHの村山幹哉主将、右PRの山田裕至副将(左から)
 輝かしいトピックスが部史に追記された。
 関西福祉大学金光藤蔭高校が初の大阪大会決勝に進む。1月29日、第68回近畿大会予選Bブロック準決勝で関大北陽を15−12で破る。創部19年目で初めてのことだった。
 スキンヘッドの監督・久保玲王奈(れおな)は、眼鏡の奥の目じりを下げた。
「クジ運がよかっただけですよ。それと、関大北陽さんとは、よく練習試合をさせてもらったりしているので、手の内がわかっていたこともあると思います」
 謙虚さがある。威圧感はない。地歴公民、情報と2つの教員を兼務する43歳。家庭では6歳と1歳の2児の父である。
 珍しい名は、ノーベル物理学賞を得た江崎玲於奈にあやかって父・勝義がつけた。
「画数の関係で漢字は変えています」
 父は鉄鋼関係の町工場を学校所在地と同じ大阪市生野区で経営している。
 久保の登校時間は午前6時30分。隣の奈良県香芝の自宅から毎朝始発で通う。
「練習にくる子がいるので、校門やトレーニング室のカギを開けてあげたり、事故を起こさないように見ないといけません」
 しかし朝練習は強制ではない。任意である。
「朝が早いと授業中に寝る子も出てくる。そうなれば高校生としては本末転倒なので、自主練にしているのです」
 入学相談をされ、学力や素行などを理由にいったん断った生徒も、最終的には受け入れ、ラグビーをさせる。
「自分は情にもろいかもしれません。でも、自分が面倒をみないと、誰も見るものがいないんじゃないか、と思ったりしてしまいます」
 赴任当時はあえて非常勤講師での契約を望み、空き時間はトラックに乗って、父の鉄工所の製品を納品していた。障害のある弟がいることも人間的な優しさを深める。
 久保は大阪・成器高校(現大阪学芸)でラグビーを始めた。現役時代のポジションはFLやSH。神戸国際大学を出て、サラリーマン生活をした後、教員になった。社会人チーム、大阪教員団でもプレーした。その時のコネクションが進学勧誘に生きている。
 着任は1999年4月。浪花女子が男女共学制に移行し、前校名の金光藤蔭になった時だった。すぐに同好会を立ち上げた。
 今ではその人望で国体の選抜チーム、オール大阪のコーチもつとめる。その中で、恩師を同じくする8歳下の東海大仰星の監督・湯浅大智に尊敬の念を持つ。湯浅は就任4年目で全国高校大会優勝2回、準優勝1回を記録した。
「僕にとってはスーパースターです。戦術面も含め、どうすればチームの力を引き出せるか常に考えている。年に1回くらい試合をさせてもらいますが、常に勉強になります」
 現在は大阪・喜連(きれ)中で教鞭をとる木越忠に、久保は高校、湯浅は大阪・中野中で体当たりの指導を受けた。それらの縁も久保の指導を形作っている。
 使用するグラウンドは狭い。人工芝化はされてはいるが、基本的には縦24メートル×横40メートル。フルサイズラグビー場では22メートル陣内の約半分の大きさだ。
「もともとは女子校だったので。体育館は2つあるのですが」
 久保が言うように学校的性格により、野球などの広大な運動場は必要としなかった。
 試合形式の練習はできない。キックはミートでネットに当てるのみ。それでもハンディを嘆かず、できることに専念する。
「スクラム、モール、ブレイクダウンですね。この3つは時間をかけています」
 8対8や10対10で行う激しいコンタクトの日常は痛みを伴う。昨年11月、右PR山田裕至は右大腿骨を骨折する。全治半年。それでもここでのトレーニングにひるまない。
「僕たちのチームはやり合いが必要です。そうしないと勝てません」
 新チームで副将に指名された山田は、松葉杖をつきながら、水を運んだり、声を出す。できる限りのサポートを続けている。
 今年は、従来のFWの力強さに加え、器用さが加わる。部員50人をまとめる主将であり、学力校内トップのSH村山幹哉がハンドリング練習を提案。久保は受け入れた。
 横並びでする4人パスなど、毎日最低20分のパス練習を導入。新チーム移行から3か月がたち、村山は成果を実感する。
「大学の先生に『今まで来た中で一番うまい。ミスなく体が操れている』と言われました」
 週1でグラウンドを借りる近畿大学のチームディレクター・神本健司の言葉だった。
 村山も個人的に、入部時は50キロだった体重を久保が用意する補食のおにぎりなどで、20キロ増の70キロにしている。
 決勝の相手は11回の全国大会出場歴がある大阪桐蔭。昨年11月の全国大会府予選準決勝では0−58と大敗した。村山は言う。
「今回は自信を持って試合ができると思います。勝って近畿大会に行きたいです」
 そのジャージーはスクールカラーでもあり校名にも入っている藤色。薄紫の花の開花時期は、春から初夏にかけてだが、一足早い満開を高校ラグビー界に知らしめたい。
 雪辱のキックオフは2月5日(日)、午前11時20分。東大阪市花園ラグビー場第2グラウンドである。
(文:鎮 勝也)

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