国内
2016.08.20
山下ワセダ、春はどうした? 夏の帝京大戦では「成果を結果で示す」。
菅平で合宿中の早稲田大。山下大悟新監督の眼が光る(撮影:福島宏治)
大学選手権では歴代最多の優勝15回を誇る早大は、今季、山下大悟新監督のもと8季ぶりの学生日本一を目指している。いまは長野・菅平で合宿中。21日には当地のサニアパークで、帝京大と練習試合をおこなう。
清宮克幸監督時代の2002年度主将として選手権優勝を果たした山下は、前年度まで日野自動車の選手として活動しながら母校ラグビー部をサポート。今季から満を持して監督となったが、春先に結果を残せなかった。「鎖のようにちぎれないチェーンディフェンス」というプランを掲げながら、始動後最初の公式大会である関東大学春季大会グループBでは1勝4敗、平均失点40.6とした。
成功体験を残せない部員の間では、漠とした戸惑いが生まれたようだ。それでも新指揮官は、動じなかった。動じないようにした。長らく優勝から遠ざかったチーム状況にあっては、春先はプランに即した「土台作り」に注力すべきと考えていた。ここでの土台とは、レスリングとウェイトトレーニングで作り上げる機能性重視の肉体、「チームディフェンス」とそれを支える2人がかりでのタックル(ダブルタックル)、伊藤雄大コーチが指導するスクラムを指していよう。
その計画があったから星取表に左右されなかったのだと、山下監督は言う。
「1つひとつの試合にも全力で取り組んだんですが、土台作りのところに時間がかかった。それは夏に入る前にきっちりとレビューして、選手にも提示して…。春に一番、我慢したのは選手で、それ以上に我慢したのは僕だと思うんですけど、今年1年、さらにこれから中長期を見据えたうえで、ラグビーの王道の部分(強豪とぶつかり合える土台)を作っていく、と。そうでないと、絵に描いた餅に終わっちゃうので」
春季大会の全日程を終えて迎えた7月、春先から継続していたストレングス強化に改めて注力。8月からの北海道・網走合宿で初めて、攻撃の練習を始めた。
チームの核をなす守備についても、「チームディフェンスを強みにしなきゃいけないことを改めてフィックスして、(守備の)出口を作って、アップデートした」という。「春は、あえてその出口を落とし込まなかった」とも。
例えば、密集戦をダブルタックルでしのいで相手が大外に逃げたらそこでボール奪取を狙うという「出口」を教えると、ダブルタックルをする選手までそのボール奪取という「出口」に意識が傾き、密集戦周辺を破られそうだ…。システムの前に、個々の勝負を…。そんな危惧を抱くあたりに、「土台作り」への意志を覗かせる。
「チームディフェンス」の「土台」にあたるダブルタックルについては、春にこんな反省をしたという。
「ダブルタックルはターンオーバーのための手段なのですけど、ダブルタックル自体が目的化してしまっていた。もっと『(タックルに入る)1人目、2人目がそれぞれどうしなきゃいけないか』『2人目の状態によって3人目(援護役)がどうするか』を。チームディフェンスとしては、もっと具体的に『ここでゲインラインを取る』『ここでターンオーバーを狙う』を…。それを明確に提示しました」
合宿地を長野・菅平に移して5日目の8月17日、早大セミナーハウスで中大を43−21で破る。スクラムで圧倒し、久々の勝利に選手が安堵するなか、山下監督もこう振り返った。
「まだ(本来の力を)出せていないところもいっぱいあるんですけど、総じていい集中力で戦ってくれたな、と。自分たちのやって来たことに対してしっかりとフィードバックできる内容だったので、その意味ではよかった」
21日にぶつかる帝京大は、大学選手権7連覇中の常勝集団。早大が王座につくには、この壁は避けて通れない。捲土重来へのプロローグとできるか、指揮官の意気込みはこう続くのだった。
「夏はターニングポイント。そのなかでもターニングポイントにしているのが、8.21です。帝京大さんとやる時に重要なのはキックの攻防。松田選手(力也・SO)にいい状態でキックを蹴らせないようにする。もちろん、最初の当ててくるところ(ランナーとタックラーのぶつかり合い)で負けてしまうと、話にならない…。当然、結果を求めますよ。そうでないと得るものを得られないので」
新人SOの岸岡智樹は、前年度の全国高校ラグビー大会を制した大阪・東海大仰星高時代よりも体重を7キロ増やした。SHは、岸岡と同大会決勝で対戦した神奈川・桐蔭学園高出身の齋藤直人。山下監督は「1年生にイニシアチブを取って欲しい」と強調しているのだ。
「自分たちのやっているところをどこまで出せたかを、ポジティブにフィードバックできれば。1年生もいっぱいいますが、プレッシャーのなかでアグレッシブにやって欲しい。成果を結果で示せと、よく言っています」
現役時代から特徴的だったスキンヘッドは、すっかり日焼けして真っ赤になっていた。
(文:向 風見也)