コラム
2016.06.13
ライバルでもあり、仲間でもある。報徳学園・西條裕朗監督&関西学院高等部・安藤昌宏監督
ライバルでも仲の良い報徳学園・西條裕朗監督(左)と関西学院高等部・安藤昌宏監督
ライバルは目も合わせないし、口もきかない、というのが定説です。
でも、ここ兵庫県の高校ラグビー界は違います。
全国大会出場41回を誇る報徳学園と同6回の関西学院高等部の監督2人は、実の兄弟のように慕い合っています。
西條裕朗さんと安藤昌宏さんです。
今年46歳になる関学高・安藤さんは報徳・西條さんの懐の深さが大好きです。
「尊敬する人は西條先生です。負けたら悔しいはずなのに、全国大会前にはいつも激励メールをくれはるんです。そういうことをせんとあかんなあ、と気づかせてくれる。ラグビースピリットですよね」
西條さんは冗談が口を突きます。
「尊敬されてもねえ…。それやったら、試合で『負けて』って言いたいわ」
8学年下でアンちゃんと呼ぶ安藤さんを認めています。
「生徒たちと信頼関係ができ上がっています。ミーティングで集まった時にわかりますよ。生徒みんながアンちゃんの顔を見て、話を聞いている。普通は何人か横を向いている奴がいるんやけど。さすがやなあ、と思います」
2人は顧問会の後などにお酒を飲んで親交を深め続けています。安藤さんは言います。
「年5回くらいは行きますよ」
そのスタートの記憶は2人にとって違いがあります。
安藤さんが覚えているのは1993年。天理大を卒業して、関学高に保健体育教員として赴任した年です。当時は監督ではなく、部長でした。その時、法政大を卒業して、県立伊丹北で地歴公民を教えていた西條さんが、チームを率いてグラウンドに来てくれた、と言います。
西條さんが覚えているのは、安藤さんが監督になった1997年。同年、西條さんも母校の報徳に戻り、ラグビー部監督になりました。
「アンちゃんから『練習に行かして下さい』って電話がありました。僕は『どうぞ』って。来るものは拒まずやから。でもね、アンちゃんすごいな、と思ったよ。関学も古いOBがたくさんおるから、行ったら非難されるかもしれん。それでも来たもんね」
関学高の創部は1948年(昭和23)。県下では3番目の歴史を持ち、関西を代表する有名私立校として政財界に人物を輩出しています。その誇り高きチームのトップが、4年後の1952年できたチームに頭を下げたのです。驚きは西條さんの胸に残ります。
安藤さんは強くなりたい一心でした。監督就任までの花園出場回数は1対27。2校の間には圧倒的な差がありました。
2人が監督に就任してから今年で20年目。全国大会県予選決勝で対戦したのは昨年も含め12回になります。安藤さんの努力が実り、ここ7年は常に同じ顔合わせです。トータルでは6勝4敗2分と報徳が上回っています。監督での全国大会出場回数は西條さん14に対して安藤さんは5。
それでも西條さんは言います。
「全国大会での成績が違います」
4強はともに1回ずつ。8強は2回と1回。
「ベスト8は報徳が1回多いけど、ベスト4は僕が就任した年。だから僕が強くしたのではないですよ。前任者のお蔭です」
安藤さんへの気配りが示す4強入りは1997年度の77回大会です。準々決勝では、FL野澤武史さん(元日本代表、現ラグビーモチベーター)率いる慶應義塾を倒して、チームは現在も含めての最高位に立ちました。
一方、関学高は2010年度の90回大会。NO8徳永祥尭さん(現東芝)らを擁して、同じ高みに至っています。
2人の仲の良さを裏付けるエピソードには事欠きません。
「西條さんの携帯電話を機種変更するのに、一緒に開店前に行って、車の中で待った」
「夏合宿の菅平のホテルは一緒で、部屋は真向い。お互い鍵をかけず、安藤さんはモーニングコーヒーを飲みに入る」
西條さんには持論があります。
「グラウンドなら、『くそっ。あいつに負けるか』ってなるでしょう。でも、すんのは子どもで、指導者やない。今はチーム関係者や親の手前、仲良くできないような風潮が出て来ている。でも、そんなんは本来関係ないはずです。こんな厳粛な、15人みんなが全力でやらんといかんスポーツ、友だちになったところで八百長なんてできないんやから」
西條さんは今年3月、大阪経済大元監督の岡本昌夫さんの告別式に参列しました。報徳を全国レベルにした、先代監督の前田豊彦さん(故人)がよくしてもらったからです。
「前田先生は鹿児島出身でした。だから知り合いがいない。その時、岡本先生は優しくして下さった、と聞いています。進学先としても、ウチはほんまにお世話になりました」
式には岡本さんの母校である日本体育大のOBが全国から集まりました。
帝京大の基礎を築いた増村昭策(現名誉顧問)、中京大総監督の金澤睦、伏見工・京都工学院総監督の山口良治、國學院久我山を全国屈指の強豪にした中村誠さん(現埼玉・昌平総監督)たちです。
「読経の間、前に座った金澤先生は『マサオ、マサオよ』と声を上げて悼んでおられた。その姿が忘れられません。昔の人は一緒にラグビーをやった人を大切にした。それは今も変わらないはず。ラグビーは仲間作りじゃないんかな、と思います」
つらく、きつい時を過ごしたから、チームは違えども、通じるものはある。そして、培われた友情は、チームという小さい組織にとらわれるべきではない。
報徳と関学高の指導者は身をもってそれを示しています。
6月12日、県春季大会決勝がありました。報徳は関学高を33−7で下しました。
試合後、1時間ほどして西條さんから安藤さんに電話がありました。
勝者から敗者へのいたわりとかと思いきや、試合の話はまったく出ず。お尋ね事でした。安藤さんは普通に問い合わせて、回答を送りました。
お互いが通じ合っているからこその出来事ですね。
秋の全国大会予選ではどんな勝負を見せるのか。両チームはシード校として組み合わせの大外になるため、順調に行けば決勝での対戦になります。
この顔合わせになれば8年連続です。
(文:鎮 勝也)