ラグビーと仲間と人生、勉強。廣瀬俊朗と湯原祐希が若者へ熱を注入。
(撮影/松本かおり)
少年や若者たちと向き合って、フランクな雰囲気で始まった。
「みんながワールドカップを見たかどうか。それから始めてみようよ」
ジャパンを陰でまとめたリーダーが、司会役の学習院大ラグビー部新キャプテン、中川秀平にそう提案した。同主将が会場を埋めた100人の若きラグビーマンたちに問いかける。
「ワールドカップを見た人、手を挙げてください」
ほとんど全員が手を挙げ、拍手した。
「僕らふたり、試合に出てたの知ってる?」
廣瀬俊朗が笑顔で、みんなにそう話しかけた。
「出てない。出てない」
どこからか声が飛び、笑い声が起こった。
「お、本当に見てたみたいやな」
南アフリカを倒し、3勝1敗の好成績を残した昨年のワールドカップ。イングランドに向かった31人のジャパンには選ばれたものの試合出場機会はなかった。しかし、それぞれがチームマンとなって自分のできることに徹し、チームを支えたSO/WTB廣瀬、HO湯原祐希(ともに東芝)が3月6日、学習院大で講演とラグビークリニックをおこなった。
参加した学習院中等科、高等科、大学のラグビー部と獨協中学、高校の約100人は、肩の力を抜いて接してくれたふたりの話と指導に終始笑顔だった。スポーツ推薦とは無縁の各ラグビー部。文武両道を実践してきた人生が参考になると、関係者を通じて廣瀬にオファーが届けられた。快諾したリーダーは、周囲に慕われる好漢、湯原を誘って目白のキャンパスに登場した。学習院高等科、大学OBで2015年度のトップリーグ・トライ王となったサントリーWTB江見翔太も駆けつけ、若者たちにとっては憧れの存在が揃う3時間半となった。
ラグビーの話より人生についての話が多かった講演会は、中川キャプテンの好リードで、廣瀬、湯原の人間性が伝わって来た。ジャパンの成功の理由や、個人としての振る舞いについて問われたふたりは、それぞれの思いを実直に話した。
試合出場機会に恵まれぬ間、どうモチベーションを保ったのか。湯原は穏やかな語り口で話した。
「試合にでるために、まず100%を尽くす。そしてメンバーが発表されてそこに自分の名前がなければ裏方にまわる。相手になりきって練習の台になったり、そのときの自分の役割を100%やり切ることです。その繰り返し」
こうも言った。
「自分の強みは忘れないでください。もし出場が叶わなくても、その部分では上回っていると自信を持ってさらに高め、足りない部分を克服する時間にする。その時間もプラスと考えよう」
ジャパンでも多くの仲間に安心感を与えた廣瀬は、リーダーシップについて多く話した。
司会の中川キャプテンは過去に主将経験がなく、大学4年になっての大役に不安があると相談した。
「チームを好きになる。仲間を好きになる。そうしたら信頼が生まれ、みんなが支えてくれる。それでええやん。キミと接していたら、ウラ、オモテがないことがすぐ分かる。一生懸命なのが伝わってくる。自分がチームのことを本当に好きになれたら、勝手にみんなも動いてくれるようになる」
文武両道やモチベーションについてついての質問についても、自分のスタイルを口にした。
「ラグビーも人生も一緒。起きたことに対処していく。ものごとは、とらえ方ひとつで変わるからね。試合に出られなかったり、怪我しても、おもろないなーと思うか、普段できないことをやれると思うか。僕は最初からラグビーがうまかったわけでなく、小さいことを積み重ねてジャパンになった。勉強も同じ。時間があり余っているより、限られた時間だから大事に過ごす。まずは目標をしっかり決めることですね」
講演会が終わると、たっぷり2時間、グラウンドでラグビークリニックをおこなった。楽しく頭と体を動かすウォーミングアップから、ジャパンでも学生レベルでも変わらぬ基本プレーの伝授まで。予定の時間を過ぎても個々の質問に丁寧に答えるなど、許される限り若者たちとの時間を楽しんだ。
「一生懸命な人たちと触れ合って、こちらもピュアになれました」
笑顔を見せた廣瀬に続き、湯原も言った。
「みんなの知りたい意欲を感じました。チームメートをリスペクトしていたら、サポートしたくなる気持ちを知ってほしかった」
中川キャプテンは「たくさんのことを学べる時間でした。いいチームは、一人ひとりがチームのことを好き。感銘を受けました」と話し、ラストシーズンを悔いなく過ごすことを誓った。