ピッチの上の声、空気に学ぶ。帝京大CTB園木邦弥、成長の日々。
(撮影/松本かおり)
頭では理解しているつもりだった。その知識に血が通う。あるいは厚味が出る。実戦を経験するとは、そういうことだ。
5月24日におこなわれた東海大戦に59-19と完勝し、関東大学春季大会で3連勝の帝京大。法大に121-0、流経大に67-12と開幕から圧倒を続けていることからも、昨季以上の足どりで前進していることが伝わってくる。さらに、その確かな足跡がファーストフィフティーンだけの力で残したものではないところにチームの充実がある。
例えば東海大戦。先発メンバーには、昨季まではトップチームの経験が少ない選手も多数いた。その中のひとりがCTB園木邦弥(そのき・くにや)だ。勝利に貢献したインサイドCTBは、春季大会3試合のすべてに先発出場している。
知識と経験の関係。冒頭のにあるような感覚を口にしたのが園木だった。昨季までAチームでプレーしたことのなかった男は、3年生になって初めて経験した1軍のピッチで強く感じた。
「周囲の人たちが試合中に話しているレベルが凄く高いんですよ。とても具体的で、それぞれのいいところを引き出すような内容なんです。例えば(東海大戦には出場していなかったが)重(一生/FB)は僕に余裕を持たす声をいつも出してくれるし、竹山(晃暉)は1年生とは思えない高度なビジョンからの指示を出す。そこに立ってみないと分からなかったそういう声や空気が、いま、自分を成長させてくれていると感じています」
愛知・春日丘から入学した。中学時代はサッカーとラグビーの両方をプレーしていたが、高校から楕円球一本に。大学入学後、1、2年生の頃は余裕もなく、目の前のことに必死に取り組むだけだった。それが3年生になってラグビーとの向き合い方が変わった。
「体作りなどを地道に積み重ねてきたこともあって、少し余裕を持っていろんなことを見ることが出来るようになったり、取り組めるようになったと思います。それが、いま試合に出られることに結びついています」
日本一を目指しているチームの一員だ。自分も日本一のCTBにならなければ。そんな高い目標も持てるようになった。
同じポジションには、1年時から試合経験を重ねている森谷圭介、副将の金田瑛司の4年生や、U20日本代表に選ばれる岡田優輝(2年)、ルーキーで192cmの矢澤蒼など、才能にあふれる選手たちがひしめく。そのライバルたちが怪我からの復帰途中にある状況とはいえ、学生王者の12番を背負う責任と喜び。園木はそれらを胸に、貴重な時間を過ごしている。
「このチャンスを活かしきろう。この機会に多くのことを学び取ろう。両方の意識を持ってやっています。他の選手にない、自分の強みを出していきたいですね。それは前に出る強さです。特にデイフェンス時の周囲とのコミュニケーションなどは課題だと思っているので、そのあたりは改善していきたい」
1年時からチームの中枢を担うSO松田力也は同期。「頼りになる男」(園木)の横に立ってプレーできる喜びを「アイツは僕を活そうとしてくれています。だから僕も彼のやりたいことを実現できるように、要求に応えられるようにプレーしたい」と語る。
トップチームの空気を吸い込む。骨のある相手との戦いを体感する。これまでにない濃密な日々が、175cm、95kgの体躯にさらにパワーを吹き込んでいる。