チャンスはつかむもの。NFLに近い男・栗原嵩、セブンズで成長中。
第14回男子セブンズシニアアカデミーにも参加する予定だ(撮影:松本かおり)
精悍な顔つき。シャープな体躯。スピードスターの空気を漂わせていた。
2月22日から27日まで開催されていた男子セブンズシニアアカデミー(2014年度 第13回@熊谷)。参加メンバーには、これで同アカデミーへの参加が3度目となる栗原嵩(くりはら・たかし)がいた。アメリカンフットボールのトッププレーヤーである栗原は、これまでと同様に今回も練習生としての参加だったものの、ラグビーの知識と経験を順調に重ねている。今後の飛躍を期待されている。
栗原は日本のアメリカンフットボール選手として『NFL(米ナショナル・フットボール・リーグ)にもっとも近い選手』として知られている。法政大学トマホークスのエースWR(ワイドレシーバー)として活躍した後、パナソニックに入社。怪我に苦しむ時期もあったが、2012年シーズンにはチームを優勝に導いた。
同年にパナソニックを退社した栗原は翌年渡米。前年のスーパーボウル王者ボルティモア・レイブンズからルーキーキャンプ(若き才能を探すための場)への参加招待を受けた。そして実力を存分に発揮し、同チームの本キャンプへ「契約前提の参加を」との誘い。しかし夢は叶わなかった。ビザの問題もあり、キャンプ招集は見送られたのだ。
翌年(2014年)もルーキーキャンプに参加した。しかし、怪我で本来の実力を発揮できなかった栗原は、すべてを懸けて今年(2015年)もNFLへ挑戦するつもりでいる。3月下旬に開かれるNFLのコンバイン(合同トライアウトのようなもの)に参加予定。ただ、世界最高峰リーグへの挑戦は今年を最後にするつもりだ。年齢的なことも含め、自身の絶頂期でないと勝負できない世界と理解しているからだ。
そんな中でのセブンズ挑戦は、思わぬことがきっかけとなり実現した。昨年、ラグビー元日本代表の大畑大介氏と共演した際、栗原の高い能力を知った大畑氏が日本ラグビー協会にその情報を提供。その後、セブンズ強化サイドから声がかかり、今年になってアカデミー参加が実現したのだ。
「もともとラグビーは好きで、気にはなっていました。実際にやってみて、アスリートとして総合的に能力が上がるのは間違いない。そう思っています。体の使い方、使う筋肉がまったく違いますし、感覚的なところも刺激される」
動きが連続するところや、プレーの流れの中で、いい状況でボールをもらうのは難しいが、相手と1対1、スペースのあるシチュエーションなら自身の武器を活かせることは実感できた。
「まだまだ勉強中で、課題もたくさんあるのですが、コーチからは、はやめにボールをもらって勝負する形に持っていくようにアドバイスされていますし、自分が(実戦的な練習で)WTBに入ったときには周囲もそうしてくれるように意識してくれています。目の前の相手とサイドラインを意識して勝負するのは、アメリカンフッドールでの自分の動きと似ている。得意な状況をどう作っていくか。そこを考えてやっていきたい」
最近50メートル走のタイムを計ったら5秒7だった。そのスピードを持った上で、緩急をつけた動きで相手を崩す。「0から100」、「100から0」という急加速、急減速のギアチェンジも自在。さらにステップのキレも抜群だ。抜く技術の高さは、アカデミーで時間をともにした首脳陣、周囲も認めている。攻撃力は、競技理解の深まりと慣れによってもっと輝きを増すことは間違いないから、防御面の動きを高められたなら、その能力が日本のセブンズ界で活かされる日もやって来るかもしれない。
今回のアカデミーでは試合形式の練習中、デイフェンスにまわったときに頭部を打撲する場面もあった。「アメリカンフットボールのタックルは、ラグビーとは頭の入れ方が逆なので、つい」と本人。『逆ヘッド』でタックルした際に、相手の膝が頭部にぶつかった。
「アメリカンフットボールだと、(向かって)右に来た選手に対しては左肩でヒットし、首をグイッと押し込んで相手側に倒すようにするんです。練習ではラグビー式のを意識できていたのに、動きの中ではクセが出てしまって。ヘルメットも被っていないから、ゴツンとなった(笑)」
現在はIBMビッグブルーに所属し、プロ選手として活動している。7月にはアメリカンフットボールのワールドカップも開催され、同大会に出場する日本代表にも選出されそう。その一方で、セブンズでも自分の可能性を追い求め、新しく目の前に現れたオリンピック出場という夢もつかみたいと笑顔を見せる。
「いま、(ラグビーから)チャンスをもらえて本当に有り難いことです。でも、もらうだけでは意味がない」
180cm、85kg。得意の急加速で階段を駆け上がりたい。