コラム 2015.02.22

全国有数の超進学校、灘高校はラグビーでも高みを目指す!

全国有数の超進学校、灘高校はラグビーでも高みを目指す!

 灘高校はお勉強だけではありません。ラグビーもこっそり強いんです。

 今年1月の第66回近畿大会兵庫県予選兼新人戦は神戸市立科学技術高校に14-48で敗れましたが、ベスト8に進出しました。

 偏差値の高さは相変わらず。学校が公式発表していないため、正確なデーターはありません。しかし、2014年春の東京大学合格者数は103人前後で東京・開成高校の160人前後に次ぎ、全国2位と言われています。一学年の生徒数約220人中、現役の東大合格は約80人。約30%が赤門をくぐるというすごい数字を叩き出しています。

 そんな中にあって、1948年創部。県内で3番目に古いチームは現在、新3年生16人、新2年生8人の計24人構成です。
 その特徴は校風同様に自由さです。灘高には制服も補習も進路指導も基本的にはありません。生徒自身の自主性に任されます。
 ラグビー部が他校と違うのは大きく3点。
(1) 塾通い許可。
(2) クラブの掛け持ちOK。
(3) 学習のための長期休暇あり。

 ラグビー部監督で体育教員の武藤暢生先生は言います。
「厳しい練習をしようと思えばできます。でもそれをすると、この子たちをプレッシャーでつぶしてしまう可能性があります」
 1978年生まれの武藤先生は36歳。県立御影高校から日本体育大学に進学。大学時代はFLとして関東対抗戦で早慶明などと勝ち負けにこだわったラグビーをしました。それでもたたき上げの指導はしません。学校の性質と生徒の気質を理解しています。

 主将でFLの葛(かつ)淳一君(新3年)は、毎週火、金曜日に国語と英語強化のため予備校に通っています。
 志望は東大文?(法学系)です。
「僕はアホなんで、学校の勉強だけじゃ追い付きません。塾に行かせてもらえるような自由な環境やからこそ、ラグビーも続けられると思っています」
 葛君、「アホ」という言葉の使い方を間違えています。

 WTBの辻本一樹君(新3年)は、奈良のキッズラグビーとりみ出身にも関わらず、クラブ3つを掛け持ちしています。ラグビー、サッカー、バンド。5人構成のグループではギターを担当しています。
「ラグビーもサッカーも両方好きやし、やってみたいと思いました。音楽も面白い。毎日楽しいです」
 辻本君は高校生の理想を追いかけます。
 週における配分はラグビー2日、サッカー2日、バンド1日。土曜日は試合のあるクラブに出て、日曜日はオフです。
 志望は学部未定も東大です。

 新3年生は新人戦に負けた直後から3月上旬の期末試験が終了するまで、約2か月弱の集中学習期間が設けられています。3年生の引退は5月の春の県総体を終え、6月の甲南高校との定期戦終了後です。通常、秋の全国大会予選には参加しません。

 ところが、その花園予選までの残留を決めているのはHOの木村平蔵君(新3年)です。
「今はそこまでやるつもりです。僕は中学受験に失敗して、高校で入学したリベンジ組です。だから本格的にラグビーを始めてまだ2年。満足していません」
 主将の葛君は言います。
「ぼくも続けたいんですけど、木村ほど頭がよくないんで」
 葛君、それは灘高の中での相対ですね。
 木村君の父・祥悟さんは同志社大学OB。FW2、3列目として1980年代の大学選手権で4回全国制覇するチームを支えました。その血を受け継いでいます。
 志望は東大理?(工学系)。受験突破すれば、体育会でラグビーをする予定です。

 もちろん他校に出してもヒケを取らない選手もいます。
 SOの中田都来君(新2年)はタテへのスピード、横への瞬発など県選抜レベル。50メートル走6秒8、ベンチプレス105キロを誇ります。「トライ」の名前に負けていません。西神戸ラグビースクール出身。お母さんが開業医のため、志望は国公立大の医学部です。
「筋トレは毎日昼休みなどにやっています、大学でもラグビー続けたいです」

 勝利の源は勉強の時に発揮する集中力。約2時間の練習ではボールから目を切りません。武藤先生は笑います。
「何も言わなければ、ずーっとタッチフットをしてますよ。ウチはこういう状況でどれだけ勝負できるかがカギですね」
 葛君は最後の春の目標を口にします。
「新人戦はベスト8だったので、まずベスト4を目指します。個人的には灘中の時に試合した報徳学園に勝ちたい。その時は今ほどインパクトがなかった。やっぱり兵庫のラグビーと言えば自分の中では報徳ですから」
 灘高は「キャラの宝庫」を利用してさらなる高みを目指します。

(文:鎮 勝也)

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社)がある。

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