コラム 2015.02.05

強さの理由  直江光信(スポーツライター)

強さの理由
 直江光信(スポーツライター)

 圧勝。快勝。完勝。高校、大学、社会人それぞれの頂点をかけた3つのファイナルは、いずれもチャンピオンクラブの強さと充実ぶりが際立つ結果となった。

 ラグビーのスタイルやカラーは異なるものの、東福岡高校、帝京大学、パナソニックの三者にはいくつかの共通点があった。強靭なフィジカル。卓越した状況判断力。そして堅牢な組織ディフェンスである。

 フィジカルについては、言うまでもなく日頃のたゆまぬ努力の賜物だろう。状況判断力に関しても、普段の練習からその部分を意識して取り組んでいることがプレーの随所に浮かび上がった。一滴の水さえ漏らさないような鉄壁の防御だって、最初からあれほど統制がとれていたのではなく、地道な鍛錬の積み重ねの成果に違いない(もちろん1対1で負けないフィジカルがあるからこそ、余裕を持って状況判断でき、しつこく守り続けられるという側面はあるが)。

 東福岡は、他校を圧倒する個々のタレントを擁しながら、倒れてから起き上がるまでの早さや次のプレーに向かう意識といった、通常なら挑む側が全身全霊をささげて勝負をかけるような分野で絶対に一歩を譲らなかった。御所実業との決勝戦の映像をお持ちの方は、ぜひ再度確認してほしい。タックラーがすばやく起きてディフェンスラインに戻り、15人全員が立って守るシーンが、何度もあった。

 帝京大、パナソニックも同様のことが言える。特にこの2チームが他のチームに比べ傑出しているのは、フロントロー陣のディフェンス時の仕事量の多さだ。100キロを優に超える巨漢が、まるでフランカーのように動いては鋭いタックルを繰り出し、しぶとくボールに絡む。スクラムの最前線で激しく格闘しながら、なおかつそれだけの重労働をこなすのだから、その貢献度は計り知れない。

 戦術が発達した現代ラグビーにおけるディフェンスのカギは、「チャンスが来るまで待つ」ということだ。レベルが上がれば上がるほど、相手も組織だった攻撃を仕掛けてくるから、一発のディフェンスでボールを奪い返すのは難しくなる。だから相手がハンドリングエラーをしたり、こちらが思い切り前に飛び出してビッグタックルを狙えるようなチャンスの状況が来るまで、辛抱強く網を張り続けられるかが大きなポイントとなる。

 ところが多くのチームは、この「チャンスが来るまで待つ」ことができない。ディフェンスの時間が長く続くのは誰だって辛い。フェーズが重なってじわじわ前進されると、つい無理をして早くボールを取り返したくなる。とりわけ消耗が激しくなる試合終盤はそうだ。その結果、ディフェンスラインに生じたギャップを突かれたり、ペナルティを取られてタッチキックで大きく陣地を進められたりする。昨今、世界中のコーチが呪文のように「ディシプリン」や「規律」といった言葉を口にするのは、そのためだ。

 強い(勝てる)チームとそうでないチームの大きな分かれ目が、まさにそこにある。東福岡、帝京大、パナソニックには、チャンスが来るまで我慢できる粘り強さがどこよりもあった。だから相手につけ入る隙を許さず、結果として大差試合や完勝を続けて頂点に立つことができた。

 そして、そうしたみずからを律する厳しさ、我慢比べの局面をことごとく制する精神と肉体両面の強さを育んでいるのが、普段の練習であることも忘れてはならない。帝京大学ラグビー部には、一日の練習、ひとつのプレーもおろそかにしないという意識が隅々まで浸透している。パナソニックの揺るがぬ中軸、日本人スーパーラグビープレーヤーのパイオニアでもあるSH田中史朗はかつて、「僕にしろ堀江(翔太)にしろ、人の2倍、3倍努力してこの立場を勝ち取ったということは理解してほしい。スーパーラグビーではどんなにしんどくても練習で休む奴はいない。しんどくても横にいる人に負けたくないから、誰もが必死にやるんです」と語っている。

 昨春、東福岡の練習を取材した時に感じた印象を、本コラムで書いた。ここにあらためてその内容を記したい。

『ハードなコンタクト練習の合間に行うシャトルランで、全員がきちんとラインをまたぎ、両手を地面について折り返す。コーナーを曲がる時にショートカットするような選手もいない。コーチに強制されてそうするのではなく、「それが当然」という空気がグラウンドに充満している』

 この3チームは、それぞれのカテゴリーで従来のレベルを超越するパフォーマンスを発揮して覇権をつかんだ。願わくは彼らに追いつき、追い越すチームがひとつでも多く現れることを期待したい。そうなれば日本ラグビー全体が活気づき、進歩の速度も大きく加速するはずだ。

【筆者プロフィール】
直江光信(なおえ・みつのぶ)
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。

(写真撮影:早浪章弘)

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