コラム 2014.11.13

滋賀学園ラグビー部の挑戦

滋賀学園ラグビー部の挑戦

 滋賀県東近江市の学校法人滋賀学園は、大学・短期大学・高等学校・中学校・幼稚園・保育園を設置する総合学園である。同学園が、高校、中学でのラグビー部創部を発表したのは、2012年夏のことだ。ゼネラルマネージャーに就任したのは元日本代表CTBで、同志社大学、ワールド、NECなどで活躍した向山昌利さん。向山さんは同志社大学大学院総合政策科学研究科で学び、現在は、同学園が運営するびわこ学院大学短期大学部の講師を務めている。

 正式にラグビー部が設立されたのは、2013年春のことだ。監督は早稲田大学ラグビー部OBの堺裕介さん(26歳)。堺監督は福岡県の筑紫高校時代は秦一平(NTTドコモSH)とHB団を組んだスタンドオフである。早稲田大学スポーツ科学部に進んだが、怪我もあって選手生活を断念し、4年生では主務としてチームを支えた。現在、コカ・コーラでプレーする山下昂大キャプテン、神戸製鋼の井口剛志バイスキャプテンの時代である。4年のラグビー部生活を終え、大学に残って大学の後輩の指導や、ワセダクラブなどでコーチの勉強をしていたのだが、4年時の辻高志監督が滋賀県にできる新チームの監督として推薦してくれた。向山GMと辻氏はNECでともにプレーした仲間だ。

「高校時代、ラグビー部の西村寛久監督が『お前は教員免許をとれ』と言ってくださった。プレーはできなくなったのですが、ラグビーから離れられずにコーチの勉強をしていました。この年齢で監督のチャンスはそう来るものではない。福岡に帰れば知人の中で安心して指導ができるかもしれませんが、誰も知り合いのいない土地で、自分がどれくらいできるのかチャレンジしてみたかった。こちらの選択肢の方が、自分が成長できると思ったのです」

 しかし、現実は厳しかった。滋賀県の高校ラグビーチームは強豪・光泉など県南部に集中している。東部の東近江市には中学のラグビー部もない。滋賀学園は東近江市で初の中学ラグビー部であり、県内10校目の高校ラグビー部だった。創部時の部員は4名。ラグビースクールの経験者が1名だった。堺監督は保健体育科の教員でもあるため、ラグビーの指導だけが仕事ではない。「高校ラグビーの監督というのは、こんなに大変なのだと痛感しました」。それでも地道に各中学との合同練習を続け、中学生たちに「一緒にがんばろう、歴史を作って行こう」と声をかけた。今春は、11名の新入部員を迎えることができた。

 現在は高校が16名、中学2名の部員で活動している。高校生の3名は学園の留学制度で約一年にわたるニュージーランド留学中だ。英語を学び、ラグビーのクラブチームにも所属している。この制度に魅力を感じ、遠方から来ている生徒もいるそうだ。ただし、これは例外で基本的には地元に根差したリクルーティングでチーム強化を図っている。

「大切にしているのは、人間性の部分です。高校の西村監督、大学では中竹竜二監督、辻高志監督、そしてコーチ時代は後藤禎和監督のもとで学びました。それぞれ教え方は違いますが、共通するのは人間性を大事にする部分です。僕は人に感動を与えたいと思って生きてきました。感動は応援してくださる人の多さ、深さによって変わる。人に与えた感動は自分に返ってくる。応援されることで自分も頑張れるし感動できる。応援される人間になるために、当たり前のことが当たり前にできる人になってほしい。生徒たちには、ラグビーをやめても次のステップで活躍できるように、さまざまな物事への取り組み方を3年間で学んでほしいと思っています」

 取材に訪れた日は、布引グリーンスタジアムのふかふかの芝生の上で練習が行われていた。ハンドリング、ステップワークが巧みな選手も多い。「ラグビースクールの経験者もいますから」。今年の全国高校大会滋賀県予選では、玉川高校、彦根工業高校との合同チームで、1回戦を突破。光泉に敗れたものの確かな足跡を残した。「来春、1年生が入学すれば初めて単独チームで15人制の公式戦に出られます。目標は全国大会出場です。創部の頃は何年かかるだろうと考えたりもしましたが、最初に来てくれた生徒が3年のときに勝負をかけないと、彼らに失礼だと思うようになりました」

 7人制大会では、すでに単独チームで公式戦に参加しているが、来る11月22日には、滋賀県内の高校1年生大会があり、名門の八幡工業、瀬田工業と対戦する。一つ一つがチームの歴史として刻まれるのだ。一瞬も無駄にすることなく大切に戦いたい。滋賀学園の選手たちと堺監督の挑戦は始まったばかりだ。


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個々がよく考えて動くラグビーを伝える堺裕介監督。選手が集中力を欠けば、戒める



<追記>
滋賀学園の練習終了後の布引グリーンスタジアムでは、文部科学省委託事業「2019年ラグビーワールドカップ普及啓発事業」の一環である「放課後ラグビープログラム」が行われていた。向山昌利さんが指導員を務め、地元の小学生、中学生と楽しく楕円球を追いかける。東近江市ラグビー協会も協力し、プログラムは週一度程度行われている。ご興味のある方は放課後ラグビープログラムのホームページでご確認を。
http://www.houkagorugby.info/



また、東近江市ラグビー協会は、毎週金曜日の夜に、幼稚園から小学6年生までを対象にしたタグラグビー教室も行い、熱心に普及活動を行っている。


(文:村上晃一)


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向山昌利さんによる放課後ラグビープログラム


【筆者プロフィール】
村上晃一(むらかみ・こういち) ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度西日本学生代表として東西対抗に出場。87年 4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーラン スの編集者、記者として活動。ラグビーマガジン、ナンバー(文藝春秋)などにラグビーについて寄稿。J SPORTSのラグビー解説も98年より継続中。99年、03年、07年、11年のワールドカップでは現地よりコメンテーターを務めた。著書に、「ラグ ビー愛好日記トークライブ集」(ベースボール・マガジン社)3巻、「仲間を信じて」(岩波ジュニア新書)などがある。BS朝日ラグビーウィークリーにもコ メンテーターとして出演中。


〔トップ写真:滋賀学園高校ラグビー部(中学生も1人)。布引グリーンスタジアムにて〕

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