コラム 2013.08.14

夏の菅平で見つけたダイヤの原石  直江光信(スポーツライター)

夏の菅平で見つけたダイヤの原石
 直江光信(スポーツライター)

 今年もいました。5年後、10年後をつい想像したくなるような原石が、そこここに。8月上旬、菅平で行われたコベルコカップ全国高校合同チーム大会での話である。



 全国9ブロックから選抜された精鋭たちがコンバインドチームで頂点を争うこの大会は、可能性を秘めた若者の生き生きとした才能に触れられる貴重な機会となっている。大会の模様や話題を集めた注目選手については、8月24日に発売されるラグビーマガジン10月号で詳しくお伝えする予定だ。誌面の都合上、残念ながらそこでは触れられなかったけれど、ぜひ名前を記しておきたいホープ、逸材、大器たちを、ここに紹介したい。



 高校2年生以下の世代のトッププレーヤーが勢揃いしたU17の部は、九州代表が攻守に図抜けた強さを発揮して優勝を遂げた。大学のリクルート担当者が目を輝かせそうな素材がこれでもかとひしめく中、とりわけ大物感漂う走りを見せたのが、WTB桑山聖生(鹿児島実業2年)だ。



 184センチ、81キロの大型ランナーで、100メートルを11秒台中盤で駆けるスピードを誇る。中学時代は陸上競技でも将来を嘱望される存在だった。ちなみに中学3年時に参加したセブンズアカデミーでは、5段跳びでU20日本代表のターゲットである13メートルをはるかに越える14メートルオーバーの記録を残している。力強く地面を蹴り上げながらグングン加速する姿は、さながらサラブレッドのよう。まだまだ高いレベルのラグビー経験が少なく、今大会では自慢の剛脚を披露する場面はあまりなかったが、潜在力は間違いなくピカイチの大器だ。



 U17関東代表のLO/NO8麻生健太朗(東海大相模2年)も、スケールという点では際立つ印象を残した。190センチ、99キロの堂々たる体格ながら動きに重々しさがなく、柔らかさとスピードを兼ね備える。ボールを持った時の迫力は魅力たっぷり。こちらも厳しいゲーム経験を重ねて上のレベルでもまれ、大きく育っていってほしい。



 今回、「久々にかつてのような能力の高い選手が揃っていた」と評判だったのが、U17東北代表だ。わけても強烈だったのは東北の伝統ともいうべきスクラム。ブルドーザーのように相手を押し込む様は圧巻だった。その原動力となった左PR齊藤剣は、バスケットボールの名門、決してラグビー強豪校ではない能代工業の2年生。野球部出身だそうだが、177センチ、120キロの巨体と大きな石臼のような腰回りは、まるでスクラムを押すために発達したかのように映る。CTB今要(仙台育英)は優れたアタックセンスを有し、ラン、パス、キックとスキルを兼ね備えた万能フットボーラー。リーダーとしてもよくチームを牽引していた。



 その東北を下し、プレートの部で優勝したU17中国代表は、チームのために体を張れる献身的な選手が多かった。ブロック最優秀選手に選ばれたFB福本航太は、広島県の崇徳高校に通う2年生。177センチ、76キロの均整のとれたスタイルで、たたずむ姿にアスリートとしての潜在力をうかがわせた。SO忽那鐘太(石見智翠館2年)は現時点では未完成の部分も多いが、ポテンシャルは現筑波大1年の兄・健太を上回るとも評される。ひと目でわかるスピードを有し、フィニッシャーらしい雰囲気をたたえたWTB長桂輔(大津緑洋2年)も楽しみな素材だ。



 少人数チームでプレーする選手のブロック選抜チームによって争われたU18の部にも、U17に引けを取らないような才気あふれる俊英は数多く存在した。中でも好選手が揃っていたのが九州代表だ。SH秋好颯太(大分・森3年)、SO大嶺景丸(宜野座3年)のHB陣はテンポのいい球さばきから的確にスペースへボールを配し、アタックにリズムを生み出し続けた。ゲーム理解度も高く、強豪チームに所属していたらもっと広く知られる存在だっただろう。186センチ、95キロの大型PR伊藤瑞月(昭和学園3年)も、ぜひ上のレベルでプレーする姿を見てみたい。



 東北代表のWTB布施孝洋(佐沼3年)は、昨春のジャパンセブンズ高校の部で2年生ながら大会MVPに選ばれたスピードスター。陸上競技で鍛えた抜群の脚力を武器にトライを量産し、どの相手チームからも「あいつを止めろ!」と名指しでマークされた。175センチ、67キロのスリムなシルエットはいかにもセブンズ向き。スペースがあればどこからでも走りきる東北の星だ。



 U18の部は少人数チームからセレクトされた選手とあって全般にプレーは荒削りだったが、希有な才能の片鱗を感じる場面も多く、「きちんとコーチングを受ければ…」と想像力をかき立てられるシーンが多々あった。聞けばラグビー部の運営に消極的な学校側に対し、選手や保護者がみずから立ち上がって指導者探しに奔走し、懸命に活動を継続しているようなケースもあるそうだ。



 ただ、この年代でそうした困難な状況に真正面から立ち向かい、乗り越えた経験は、きっと将来に役立つはず。ぜひこれからも、それぞれの進んだ先でラグビーを続けてほしい。


 



【筆者プロフィール】
直江光信(なおえ・みつのぶ)
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。


 



(写真:U18九州代表を初優勝に導いたSO大嶺景丸。センス抜群の司令塔だ/撮影:直江光信)

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