コラム 2013.05.10

タトゥーありや、なしや。  小林深緑郎(ラグビージャーナリスト)

タトゥーありや、なしや。
 小林深緑郎(ラグビージャーナリスト)

 今年もゴールデンウィークは、福岡県宗像のグローバルアリーナで開かれたサニックス2013・ワールドラグビーユース大会を、短期間ながら観戦できた。


 



 決勝は初来日高同士の対戦となり、今季のイングランドチャンピオン校のハートプリーカレッジ(グロスター)を、昨年のNZチャンピオン校のセント・ケンティガン・カレッジ(オークランド私立)が圧倒して(40-8)初優勝を飾った。


 



 この決勝戦、観戦記者の間で話題となったのが、両校すべての選手たちの脚と腕の外から見える部分にタトゥーがなかったことだった。試合後、ストッキングを下げたハートプリー高の選手1人にタトゥーが見受けられた。また、セント・ケンティガンの側でも、チーム帯同の通訳氏が「見えない所にありますよ」、と教えてくれたのだが、とにかく目に触れる場所にはタトゥーはなかった。因に、両校とも、少し生活レベルの高い家庭の子が学ぶ高校だそうである。


 



 タトゥーはデリケートな面をはらんでいて、一括りに論じ難いのだが、ラグビー界では、一方に(A)民族的な伝統や習慣としてタトゥーの文化を持つ南太平洋諸国およびその地域出身の選手たちがおり、他方(B)タトゥーの広範な伝統文化を持たない文化圏の選手が存在する。


 



 (A)圏では元サモア代表、スーパー12時代のハリケーンズ活躍したWTBロミ・ファータウの、遠目にはまるで褐色のタイツを穿いているような見事なタトゥーが代表的な存在だった。


 



 (B)圏では、カナダ代表としてW杯4大会に出場し、イングランドのロンドン・ワスプスでプレーしていたたSOガレス・リースが、来日戦の練習の後、ソックスを下げて、外から見えない内側のくるぶし辺りに彫った、控えめな赤いメープルリーフのタトゥーを見せてくれたことがある。「カナダへの帰属心の証しだ」と話していた。


 



 また、祖父母がシチリア出身という資格でイタリア代表となったPRマルティン・カストロジョヴァンニの両太腿には、サモア遠征時に入れたタトゥーがあるのだが、母国アルゼンチンのパラナに居る母親ステラさんの強い要望に従って、試合のときには人目に触れぬようサポーターで包み隠している。


 



 このわずかな例からも、(B)圏の欧米で、今やタトゥーは公認のファッションであるとの考えには疑いを持つべきだろう。目に触れないように隠すし、生活レベルによって容認・否定の反応に差があるものと理解しておくべきなのだ。アメリカのカリフォルニア州でタトゥー除去施術に補助金を出すことにした際、数万人が申請し、順番待ちとなったというラジオの現地報告を聞いた覚えもある。


 



 針から肝炎感染の恐れがあり、タトゥーのある者への入場禁止場所も多く、就業不能の職種もあるというデメリットは多い。加えて、RMI画像診断でタトゥーの染料の鉄分が発熱したり、画像が映らぬこともあると知った。除去(完全には消えない)のときも痛みと出費がかさむ。(B)圏の若者よ、思い立っても、急がず熟慮すべし。


 


 



【筆者プロフィール】
小林深緑郎(こばやし・しんろくろう)
ラグビージャーナリスト。1949(昭和24)年、東京生まれ。立教大卒。貿易商社勤務を経て画家に。現在、Jスポーツのラグビー放送コメンテーターも務める。幼少時より様々なスポーツの観戦に親しむ。自らは陸上競技に励む一方で、昭和20年代からラグビー観戦に情熱を注ぐ。国際ラグビーに対する並々ならぬ探究心で、造詣と愛情深いコラムを執筆。スティーブ小林の名で、世界に広く知られている。ラグビーマガジン誌では『トライライン』を連載中。著書に『世界ラグビー基礎知識』(ベースボール・マガジン社)がある。


 


 


 


(写真:今年の大会のファイナルに臨む両校の選手たち/撮影:Hiroaki Ueno)

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