【小林深緑郎コラム】 鍵はブレイクダウン 世界に挑むセブンズ・ジャパン
秩父宮ラグビー場では、3月30(土)と31(日)の両日、インターナショナル・ラグビーボード(IRB)の7人制サーキット、セブンズワールドシリーズの一環を占める国際大会、『東京セブンズ』が開催される。昨年3月に行われた香港大会で、セブンズワールドシリーズに参加できる国の選別が行われた結果、ジャパンは常連メンバーのコアチームから漏れる事態となった。
捲土重来、1年を経た3月22〜24日に開催された今年の香港大会で、ジャパンはコアチーム昇格の第一ステップに挑み、あと1勝の時点まで無敗の進撃を続けていたのだが、一度勝った相手のグルジアに敗れ、2016年リオデジャネイロ五輪に向けての強化の青写真は大きくつまずいてしまった。
世界レベルと比べると、図抜けたスピードランナーがいないし、長身選手の数も少ない選手編成のなか、瀬川智広ヘッドコーチ(HC)が練り上げた作戦は、これまでのセブンズの常識とは180度異なるものとなった。セブンズのジャパンといえば、相手とのコンタクトは極力避けて、接点のポイントは作らないのが基本。この点、瀬川HCのアタックの考えは、逆にポイントを多く作ろうという逆転の発想からなっている。
代表チームで一番の経験者、桑水流裕策(コカ・コーラウエスト)によれば、「あえて数多くのブレイクダウンを作って、相手のディフェンスの裏側に半身出るようにしてボールをつなぐ。そのために、相手とは半分ズレた体勢で当たる」
「以前ならブレイクダウンの数は1試合に3〜4回、瀬川監督になってから14回。アジアではこの戦い方で勝てる。ただ、腕力の強い世界の相手となるとハーフブレイクは簡単にできない」、と力のある相手に対する課題を口にした。
そして、香港大会ではブレイクダウンのレフェリングが厳しくなったとも。日本がペナルティーをとられたプレイは、「2人目のサポートプレイヤーの頭が下がっているというものと、ボール争奪のジャッカルでボールの前に手をついていると判断されてオーバーザトップをとられるケース」だという。
瀬川HCは、「フィジーがトライをとるまでにブレイクダウンは1回あるかないか、ニュージーランドも少ない。われわれとは違うチームなんです。(日本は)ボール・ポゼッションを長くすることを目指している。そうしてアタックの機会を増やし、スペースにボールを運び、意図したトライをとるのが目的です。ボールのリサイクルを正しくやるために必要なのがブレイクダウン」なのだと説明し、「東京セブンズでは、ブレイクダウンが世界レベルの相手(ニュージーランド)に有効か、通用するかを試し、証明したい」と意欲的に語った。坂井克行主将(豊田自動織機)の針穴を通すようなニードル・キックオフと桑水流の高いキャッチ、そしてフィニッシャー羽野一志(中大)のランにも注目。
(文・小林深緑郎)
【筆者プロフィール】
小林深緑郎(こばやし・しんろくろう)
ラグビージャーナリスト。1949(昭和24)年、東京生まれ。立教大卒。貿易商社勤務を経て画家に。現在、Jスポーツのラグビー放送コメンテーターも務める。幼少時より様々なスポーツの観戦に親しむ。自らは陸上競技に励む一方で、昭和20年代からラグビー観戦に情熱を注ぐ。国際ラグビーに対する並々ならぬ探究心で、造詣と愛情深いコラムを執筆。スティーブ小林の名で、世界に広く知られている。ラグビーマガジン誌では『トライライン』を連載中。著書に『世界ラグビー基礎知識』(ベースボール・マガジン社)がある。
(写真:円陣を組む男子7人制日本代表/撮影:長尾亜紀)