【連載】プロクラブのすすめ⑧ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 2022-23シーズン振り返り。「静岡は本当に良いところです」
日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛けを山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。
8回目となる今回は、2022-23シーズンをさまざまな角度から振り返ってもらった。(取材日5月8日)
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――まずは、リーグ戦最終節を振り返ってください。ヤマハスタジアムに1万2000人を超える観客が入りました。
ホスト開幕戦(第2節)で目標の1万人を達成できなかったり、シーズン中盤も集客は苦戦していた中で迎えた最終戦でしたが、社員のみんながもう一度1万人超え、そしてジュビロ磐田の(Jリーグ)開幕戦1万1000人超えを目指して、強い意志を持ってやってくれました。本当に直前までビラ配りや情報発信をしてくれていました。
チームが前節でワイルドナイツに勝てたことは大きかったです。チケットの売れ行きは週明けにグッと伸びました。
ただ、1週間でこうした成果が出るわけではないので、地道な努力が実ったのだと思います。昨シーズンの開幕戦(第4節)は3000人にも届かなかったことを考えれば、大きな成長でした。
――有料比率はどのくらいだったのでしょうか。
6割弱だったと思います。本来であればもう少し伸ばしたいところですが、今季は売上よりも観客数にこだわってきました。企業の方をご招待したり、協定を結んでいる市町の方などを対象に抽選でご招待した場合でも必ず(無料の)ファンクラブ会員になってもらい、データを得る(分析する)。もしくはスポンサーの営業活動につながる招待です。これは将来への投資になります。
――会場一体となって、レヴズを応援する雰囲気ができていたと思います。まさにホームアドバンテージを作れていました。
ラグビー界ではホスト&ビジターの感覚はまだまだ受け入れられていないのも事実ですが、われわれはホストのスタジアムではホームのチームを応援して、ホームを勝たせるような雰囲気を作りたいと思っています。それは相手チームを蔑ろにしたり、リスペクトしないということではまったくありません。
最終戦では「(音楽に合わせて)シ・ズ・オ・カ」や「GO! GO! レヴズ」と声を出す流れが定着してきていることを感じられましたし、ファンの方々も声を出せて楽しいと言ってくれました。
――なかでも、子どもたちが大きな声を出してくれていたのが印象的でした。
最終戦には鎌倉と宇都宮のラグビースクールの子どもたちを招待しました。宇都宮は八木澤(龍翔/LO)選手の出身スクールです。球技専用のスタジアムでラグビーができる経験は貴重で、子どもたちはとても喜んでいると言っていただけるので、レヴズ所属選手の出身ラグビースクールの皆さんの招待は積極的にやっていきたいですね。
――チームの成績でいえば、2年連続の8位という悔しい結果に終わりました。
事業面ではすべての面で数字を伸ばすことができた一方で、競技の戦績が伸び悩んでいるのは事実です。あくまでわれわれのメインの商品はラグビーであり、試合内容であり、勝ち負け。いまの状態で満足することはまったくありません。
チームを強くすることができれば、お客さんがより入り、お客さんが入ればスポンサーが付き、その収益でさらにチームに投資するという良いサイクルを作れる。リーグワンのトップ4に入ることは急務だと思っています。
5人の選手で戦うバスケであれば1人良い選手を獲得できればチームが変わるかもしれませんが、ラグビーはそうはいきません。良い選手を獲得して、さらにその選手を生かしたチーム作りをする。ただし、その選手だけに頼らないチーム作りもしていく。けが人が出ても戦えるように、層を厚くする必要があります。
この2年間はリーグ戦が始まってから試行錯誤し過ぎてしまったと感じています。もちろん、けが人が多く出てプランを変えざるを得ないことがあったとは思いますが、もっとプレシーズンで一貫性のある型をつくらなければならない。シーズン開幕の時には、選手たちの頭や心がクリアな状態で臨めるようにしなければならないと思っています。
ここからまた長いプレシーズンが始まりますが、新たにチームが変わるんだというワクワク感を届けたり、今シーズンは強そうだなと期待いただけるような雰囲気を醸し出したいですね。そのための選手補強も検討しています。発表を楽しみにしていてください。
ラグビーW杯に便乗してできることがないかも考えているところです。国際交流試合をやりたかったのですが、今年は難しそうです。選手を海外に派遣することは検討しています。
――部門ごとに今季の振り返りをお願いします。
まず、スポンサーは契約社数が前年比の1.2倍(129→150)でしたが、売り上げは横ばいでした。1年目に期待以上の成果を出せたこともありましたが、正直伸び悩みました。
ここはすでにテコ入れをしています。僕がスポンサーの責任者を兼務していて細かく見られなかったので、新たに別の責任者を置きました。営業担当の数も増やしていきます。
実は来シーズンに向けて検討してくれている多くのスポンサー候補の企業の皆さまをホスト最終戦に呼べて、反応がとても良かったんです。これからそれらの企業を回っていくので、幸先良いスタートを切れるのではないかと思ってます。
ファンクラブの会員数は1.5倍、普及活動の回数は2倍以上、そして特に伸びたのはグッズの売り上げです。前年比の1.5倍で、目標以上の成果を出してくれました。
9000人入った開幕戦(第2節)では売り上げが200万円ほどで、観客数に対して売り上げが少ないのが課題でした。
ただ、最終節では観客数3000人増に対して、倍以上の500万円を売り上げることができた。魅力的なアイテムを増やし、事前の告知をしっかりやって、当日は売り場を増やし、売り場の面積を広げるなどの改善ができていました。
――平均観客数は5350人。前年は3620人でしたので、こちらも150%アップです。
目標の平均6000人には届かず、奇しくもチームの成績と同じで全体8位でした。1位はサンゴリアスで平均8500人でしたが、われわれもそこを目指します。
地方都市で人口も違うし、すごいと褒めていただくことはありますが、僕は関係ないと思っているんです。どちらにもメリットとデメリットがありますし、静岡でもJリーグのチームはそのくらいの数字を出してますから。以前も話しましたが、東京は競合するものが多いです。他のスポーツ、他の娯楽がたくさんある。
われわれには地方メディアがあって、かなり大きく取り上げてくれます。ワイルドナイツ戦の試合翌日には、昨年の王者に勝利! 連勝を止めた! という大きな見出しで記事が出て、ラグビーをあまり知らない人にもすごいことをやったんだなと広く伝わりました。
娯楽も都心に比べて多くはないですし、地元への愛着心も強いです。だから僕は都心と地方でどちらのスポーツチームの経営者をやるか選べと言われたら、ひがみとかではなく(笑)、都心は選ばないと思います。
静岡は人口もそれなりに多く、メディアも充実していて、スポーツを応援するカルチャーもある。なによりラグビーにとっては2019年に日本代表が勝利した聖地。本当にいいところですよ。
他チームのことを言うのは余計なお世話かもしれませんが、日本中に魅力的な街はたくさんあります。もちろん、練習施設や工場の場所の関係で難しいと分かってはいるのですが、移転すること自体は集客や球団のビジネスの観点で言えば合理的な判断です。リーグワンが地域に根ざしたチームを作っていくことを掲げている以上は、大事なテーマだとも思います。
先日D-Rocksさんが試合をしていた、仙台は絶対いい場所ですよね。北海道も札幌ドームは日ハムが移転したので空いているのでなないでしょうか。ほかにも、福岡はラグビーのメッカで出身選手もあれだけたくさんいる。新潟、広島もいいと思います。
ラグビーW杯のことで絡めて言えば、どのスポーツでも日本代表の熱狂を持続させるためには、W杯やオリンピックなど大きなイベントの前に、地域に根ざしたプロリーグがしっかりとできていることが重要なんです。
ラグビーが2015年、2019年の盛り上がりを生かしきれなかったのは、ラグビーが日常になかったから。自分たちの地元チームの試合がみられる環境になかったからです。トップリーグの時のように試合を地方都市でやればいいのでは、という声もありますが、結局それも単発の打ち上げ花火。
でも、地元でラグビーを一生懸命普及させよう、ラグビー人気を高めようと必死に活動しているチームが全国各地にあれば、日本代表の頑張りやW杯の盛り上がりは全国津々浦々に伝わっていく。プロリーグはそのスポーツを全国に流通させる装置だと思っています。
いまはメディアに頼るしかありませんが、4年後や8年後、そして12年後に日本に再びラグビーW杯を誘致できた時に、熱狂を伝播できるような状態でありたいですね。
PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任
静岡ブルーレヴズ立ち上げの際の記事はこちら(ラグビーマガジン2021年9月号)
リーグワン2022を振り返った記事はこちら(ラグビーマガジン2022年7月号)