海外 2023.01.30

【Vol.1】「私たちには信念がある」。ユーゴ・モラHC[スタッド・トゥールーザン]インタビュー

[ 福本美由紀 ]
【Vol.1】「私たちには信念がある」。ユーゴ・モラHC[スタッド・トゥールーザン]インタビュー
情熱家のモラHC。スタッド・トゥールーザンは現在(1月29日現在)トップ14の首位。(©Stade Toulousain Rugby)



 静岡ブルーレヴズが今季初勝利を挙げた。
 1月29日のNECグリーンロケッツ戦に21-0。前節の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦に27-27と引き分けたチームが、今季6試合目にして手にした白星だった。

 そのブルーレヴズは、フランスのトップ14の名門、スタッド・トゥールーザンとパートナーシップ協定を提携している。
 スタッド・トゥールーザンは多くのフランス代表選手を擁し、今季のトップ14でも首位を走っている。1月29日におこなわれたモンペリエ戦にも23-9と快勝した。

 同クラブのユーゴ・モラ ヘッドコーチ(以下、HC)に話を訊く機会を得た。同HCは、会見などで率直な発言をすることで知られている。
 試合中、表情豊かな指揮官を中継のカメラがよく捉える。ピッチサイドから大きな声で選手を鼓舞し、指示を出す。情熱が溢れる。

 モラHCは1990年、17歳でスタッド・トゥルーザンに入団。WTB/FBとして活躍した。
 フランスチャンピオン3回(1994、1995、1996年)、ヨーロッパチャンピオン1回(1996年)と、クラブに栄光の歴史をもたらしたメンバーのひとりだ。

 フランス代表としても活躍した。
 1997年のファイブネーションズ(当時)でフランス代表デビューを果たして12キャップを得た。
 1999年のワールドカップにも出場。準決勝のニュージーランド戦で歴史的勝利(43-31)を挙げた代表メンバーでもある。

 モラHCが、愛するスタッド・トゥールーザンを紹介する。
「この30年間、たくさん勝っているクラブです。財政的により潤う年もあるでしょう。昨季はヨーロッパチャンピオンズカップもトップ14も準決勝止まりでしたが、直近3年(コロナで中止になった年も含めると4年)で3つのタイトルを獲得しました」と話す。

「私たちにとって大切なことなのです。というのは、クラブの経済モデルはラグビーの成績の上に成り立っており、結果を出すことがとても重要なのです。多くの選手を育てることが大事と考えています。育成に力を入れていくことも私たちの経済にとって重要な要素です」

 プレッシャーは感じませんか?
「いいえ。私はこのクラブに15〜16歳の時に入団し、プレーしました。その後、ほかのクラブにも所属しました。私にとって、現在の責務は自然なことです。結果を出さなければならない。そのプレッシャーは、このクラブのカルチャーでありDNAの一部です。チームが勝てない時、すぐに適切な解決法を見つけることが求められます。プレー、ラグビー、グラウンドで感じる喜び。これらは、私たちにとって大切な要素です」

 昨秋のフランス×日本のテストマッチを同HCは見た。「がっかり」という言葉を口にした。
「日本は無理にニュージーランド式のラグビーをしようとしているように感じました。日本人に合ったプレーをしていないのが残念に思えました」と印象を話す。

 自チームを例に出して続けた。
「私はスタッド・トゥルーザンを信じています。スタッド・トゥルーザンにはカルチャーがあります。それは無意識に浸透しているもの。どこにも書かれていません。口伝えされているわけでもありませんが、しっかり根付いているのです。私たちのカルチャーはプレーを継続することです。ジュニアカテゴリーのチームでもボールを生かしてプレーを続けてほしいのです」

「現在のラグビーはとても構築され、システム化されています。自由にプレーできる余地が少なくなっています。日本チームのプレーはとても構築されています。エディー・ジョーンズがHCだった頃も、とても構築され、システム化されていました。ただ、「おおおおお!」と熱狂し、目を見張るプレーがありました。それがなくなってしまった」

 ラグビーは、いろんなことが変わった。情報が世に溢れる中、堅苦しくなった点もある。
 例えば、非公開のトレーニングが増えた。同HCは、「ニュージーランドやイングランドのような強豪国がそのようなことをしていますが、私はそういう姿勢に反対です」と言う。

「私たちはフランスで最も大きなクラブのひとつですが、常にすべてをオープンにしています。メディアにも、サポータにも常に開かれています」

 昨秋は日本代表の練習見学を望んだが叶わなかったという。
「エディー・ジョーンズは練習見学を申し込めば問題なく見せてくれました。しか今回、日本代表への依頼は叶いませんでした。うちのスタッフに1〜2日練習見学を許可してもらえるよう依頼したのですが。日本代表が、どのような練習方法を採り入れているか見せてもらいたかった。残念です」

「コーチにとって、とても大切なことは適応能力だと思っています」と言う。
「ラグビーはすごいスピードで進化しています。その進化に素早く適応していかなければならない。新しい世代の選手にも、グループにも、またライバルチームにも、また指導している場所のカルチャーにも適応できなくてはいけません」

「私はブリーヴ、カストル、アルビと、他のクラブでも指導してきました。すべてフランス南西部のクラブです。でもトゥールーズを他のクラブと同じように指導することはできません。トゥールーズの選手、グループに合わせた指導方法が必要です。もちろん自身の過去にも合わせなくてはなりません。これがとても重要なのです」

「適応することは最重要課題です。プレーに対する強い信念が必要です。私もスタッフも、ラグビーに対する強い信念を持っています。幸い勝つことができたので私たちの信念は正当化されました。しかし勝ち続けるためには、常に自己改革していく必要がある。(優勝に届かなかった)昨季はちょっとした適応力に欠けていました」

 スタッド・トゥールーザンには、14〜15人の代表選手(フランス代表以外も含む)が在籍している。しかしそれを、優勝を逃した言い訳にはしない。
「代表試合と国内リーグが並行して行われる期間を乗り切ることは簡単ではありません。しかしこれは、フランスラグビー独特の大会フォーマットで、昨季に始まったことではない」

「代表選手が多くいるということは決してハンディキャップではありません。アドバンテージです。シーズンの3分の2は、彼らと一緒にプレーします。残りの3分の1にあたる8〜9試合では代表選手が不在になる。しかしこれは、若手選手をトップレベルで試し、このクラブの育成を試す機会と考えます」

「2018-2019シーズンは優勝しました。シーズン序盤、若いチームでモンペリエに15-66と負けましたが、9か月後にはフランス国内チャンピオンになった。若い選手たちがモンペリエ戦で学んだからです。敗れた時の方が、勝った時よりはるかに多くのことを学びます」

 当然、苦しいときもある。
「厳しいのはネガティブなスパイラルです。負けが続き始めると、グループは、まとまりを維持することが難しくなります」と話す。

「グループが固く団結してこそチームの力は生まれます。グループがバラバラになると修復は難しい。昨季はコロナによる試合の延期や中止もあり、代表選手不在での試合数が多くなりました。しかも代表選手の数がとても多かった」

「代表選手たちはオールブラックスに勝利し、シックスネーションズでは全勝優勝してフランス代表でとてもポジティブな経験をしました。一方で、クラブに残された者はネガティブな経験をしていました。マネージャーとして、コーチとして、シーズンの終わりに全員をひとつにすることができなかった」

「グループ内に問題があったわけではありません。でも集団的経験値がなかった。集団的経験値は勝つため、優勝するためにとても重要です。いい経験だけではありません、厳しいことも共に経験して乗り越えなくてはならないのです。敗戦を共に経験し、自分たちを振り返ることが必要です」

「常に強いトゥールーズを期待されていますが、強いトゥールーズを見せることができない時もある。そういう時こそが教訓を得る時なのです。成長し続けるために学ぶ時なのです。努力し続けるため、ラグビーが中心にあり続けるために。トゥールーズでは、ラグビーと、そのプレーがすべての中心になっています。とても大切なことです」

※次回に続く。


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