国内 2013.05.16

【直江光信コラム】 帰るべき場所

【直江光信コラム】 帰るべき場所


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 マイボールのキックオフで蹴り込んだボールを切り返され一気に自軍インゴールまで運ばれた。ここはボールの下に体をねじ込んで辛くもトライを阻止。その後もゴール前に釘付けにされ、大型FWの豪快な縦突進にまたもトライラインを越えられたが、しぶとく球に絡んで今度はノッコンを誘った。この間、わずか5分足らず。並みのチームならこの時点で0−14、大敗必至の展開だ。



 ところが御所実業はそうはならない。泥臭く、ひたすら粘って失点を最小限にとどめ、いつの間にか際どい接戦に持ち込んでいる。数少ないチャンスを着実にスコアにつなげ、気がつけば勝利は目前――。冒頭のような立ち上がりとなった5月5日のサニックスワールドユース順位決定トーナメント、東福岡戦も、まさにそんな試合だった(結果は26−21で御所実業が勝利)。



 どんな相手とのどの試合でも、常に「自分たちのラグビー」を展開する。過去5年で2回の花園決勝進出、すっかり全国屈指の強豪に定着した御所実業の強さを表現すれば、そのひと言に尽きると思う。多くのチームが「自分たちのラグビー」をさせてもらえぬまま敗れていく中、御所実業はいつも「御所のラグビー」に持ち込んでひたひたと勝利へ肉薄する。ボロボロに崩されて敗れるようなケースはまずない。なぜか。



 本年2月、『ラグビークリニック』誌の取材で同校を訪ねた際、竹田寛行監督からこんな話を聞かせてもらった。



「エラーが起きたとき、自分たちが帰るポイントを知っている、ということだと思います。苦しくてどうしようもないとき、どーんという家があれば、そこへ帰ってきたらいい。そういうホーム、家を作っているんです」



 御所実業にとっての揺るぎなき「ホーム」は、いうまでもなくディフェンスだ。たとえ攻め込まれても、素早く戻って防御網を再構築し、粘りに粘って最後にボールを奪い取る。そこに絶対の自信を持っているからこそ、劣勢の時間が続いても心が折れたり、パニックに陥ったりすることがない。



 同じく今回のワールドユースに参加、竹田監督を師と慕う長崎南山の市山良充監督が、御所実業の戦いぶりを評して興味深い解説をしてくれた。



「キックでエリアをとっても、相手ボールになってそこから攻め込まれれば、結局は意味がない。御所はエリアをとった後、きっちりディフェンスしてそこで試合を進められる。だからこそエリアをとった価値がより高まるんです」



 人口3万弱の小都市の公立高校。当然ながら都会の強豪私立のように潤沢なリクルーティングはかなわない。それでも純朴な若者たちをとびきりの情熱でたくましく育て上げ、渾身の勝負を仕掛けては日本一の旗に肉薄する。水も漏らさぬ鉄壁の防御と、針の穴を通す精緻な攻撃。極限まで細部を突き詰めた精密機械のようなラグビーは、ファンだけでなく多くの指導者、関係者から高い評価を受けている。



 高校ラグビーに限らず様々な取材現場で、「御所があそこまでできるんだから」という指導者の言葉をこれまで何度も聞いた。「だから自分たちも戦力や練習環境といった条件を言い訳にはできない」という意味だ。近年の全国大会では上位進出校の大半が御所実業と頻繁に合同練習会を行う「御所ファミリー」ということも珍しくはない。竹田監督の教えを請うべく、全国各地から御所の地を訪れるチームやコーチはいまなお増え続けている。



 それはとりもなおさず、同じ指導者という立場だからこそわかる竹田監督のすごみゆえであり、御所実業のラグビーがいかに奥深く、魅力的であるかの証だろう。


 


 


【筆者プロフィール】
直江光信(なおえ・みつのぶ)
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。


 


 


(写真:サニックス2013ワールドユースで国内勢最高位の5位と健闘した御所実業/撮影:Hiroaki. UENO)


 

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