『地域との絆』をテーマにした楽しめるスタジアムづくり。三菱重工相模原ダイナボアーズの取り組み
強いチームを作る。試合で結果を残す。国内最高峰のリーグを構成する一員なのだから、それらはもちろん大事なことだ。
ただし、トップリーグクラブが果たすべき役割は、それだけではない。ラグビーを通して地域を活気づけ、地元の人々に愛される存在になること。そして競技の本質的価値を体現し、ラグビーを文化として根づかせること。それもまた、選手とチームに託された大切な使命である。
2月20日に開幕したジャパンラグビー トップリーグ2021では、ほぼ1年にもおよんだ空白期間の渇望を満たすように、毎節各地で熱戦が繰り広げられている。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から入場者数を限定しての開催が続いているのは惜しまれるが、多くの制限がある中で、各クラブはラグビーの普及と発展のためにさまざまな活動に取り組んでいる。ここでは、昨季12年ぶりにトップリーグに復帰した三菱重工相模原ダイナボアーズの事例を紹介したい。
第1節のサントリー戦に続き、第4節のNTTコミュニケーションズ戦をホームタウンである神奈川県相模原市の相模原ギオンスタジアムで戦ったダイナボアーズ。試合は一進一退の手に汗握る展開で進み、後半32分のPRシャムベックラー・ブイのトライで同点に追いついてドローに持ち込むという、劇的な幕切れとなった。
今季初勝利を挙げた第2節の宗像サニックス戦以来となる勝ち点をつかんだこのゲームで、選手たちを後押ししたのが、熱気あふれるファンの存在だった。チャンスやピンチになるとどこからともなく自然発生的にエールの手拍子が湧き起こり、たちまちスタジアム中に広がる。感染対策で声援を送れない状況でも、これぞホーム開催といえる空気を作り出してくれたファンのサポートが、強豪を相手に引き分ける要因となったのは明らかだった。
そして、そんな一体感が生まれた背景には、ダイナボアーズが長い年月をかけて築いてきた自治体や神奈川県協会との密接な関係と、『地域との絆』をテーマに根気強くおこなってきた普及活動があった。
ダイナボアーズは2018年12月の入替戦で再昇格を決めて以来、神奈川県に本拠地を置く唯一のトップリーグクラブとして、地域の人々がよりラグビーを身近に感じ、観戦に行きやすい環境づくりに努めてきた。テーマは、『一日中楽しんでもらうスタジアム』。県内でおこなわれる公式戦は神奈川県協会が興行主となって試合運営を担当し、ダイナボアーズは来場者に試合を楽しんでもらうためのスタジアム演出を担った。
ゲーム当日はメンバー外の選手たちが、積極的に試合前イベントに参加。記念撮影やラグビー体験会、グッズ販売等を通じて、ファンとの交流をおこなってきた。今シーズンはコロナ禍により残念ながら選手たちの参加は見送られたものの、工夫を凝らした仕掛けにより、スタジアムは多くの笑顔であふれた。
会場内には神奈川県警察や自衛隊、パートナー企業による車両展示と試乗ブースが設けられたほか、スタンドに大きく掲げられたビッグフラッグの前に選手の等身大パネルを据えたフォトスポットを設置。ずらりと並んだキッチンカーも大盛況で、活気に満ちた雰囲気に包まれた。
ちなみに応援のためのオリジナルグッズは、ダイナボアーズのパートナーである学校法人岩崎学園との産学連携事業の一環として、同学園の学生の豊かな発想力と若い目線に立ったアイデアを参考に制作されたもの。多くのファンが、とりどりのグッズを身につけて観戦を楽しんだ。
また第1節のサントリー戦では周辺道路に渋滞が発生した教訓から、第4節では相模原ギオンスタジアムの最寄り駅となる原当麻駅から歩いて来場してもらうことを目的に、『ウォーキングキャンペーン』を実施。駅〜スタジアム間の道中にチェックポイントを定め、参加賞の提供や素敵な賞品が当たる抽選券を配布し、約400名がこのイベントに参加した。今後多くの観客を呼び込むための施策として、大きなヒントを得る試みとなった。
応援席に目を向けると、普段タグラグビーや総合学習の授業等で交流している地元小学校の子どもたちや先生が、数多く来場してくれた。ダイナボアーズは例年、延べ1,000名を超える子どもたちに体育の授業でタグラグビー教室を実施しているほか、100以上の普及活動をおこなっており、ラグビーが地域の文化となるべく日頃から積極的にラグビーの楽しさを伝えることの大切さを、あらためて実感する機会にもなった。
多くのサポーターの応援がチームにとって大きな力となり、その力によってチームが熱戦を繰り広げることで、観戦に訪れた人々がラグビーの魅力に触れ、さらにサポートの輪が広がっていく。そんな幸福なサイクルが、相模原の地に根づきつつある。