国内 2021.02.24

24-26の深層。敗軍の将は「自滅」。殊勲のペレナラは「落ち着いていました」。

[ 向 風見也 ]
24-26の深層。敗軍の将は「自滅」。殊勲のペレナラは「落ち着いていました」。
ドコモデビュー戦でNZ代表のすごさを見せつけたTJ・ペレナラ(撮影:高塩 隆)


 東京は町田GIONスタジアムのメインスタンド上段から、「チェーーーイス」と聞こえる。声の主はきっと、キヤノンの沢木敬介新監督だ。

 NTTドコモとのトップリーグ第1節は後半35分頃に突入。折しもキヤノンは、FLで途中出場の安井龍太のトライなどで24-23と勝ち越していた。

 自陣22メートル線付近中央から、FBに入っていた小倉順平がキック。球は転々と敵陣22メートルエリアへ転がる。しかしキヤノンは、弾道を追うさなかレイトチャージの反則を犯す。

 上段からまた響く。

「(所定の立ち位置へ)戻れ、速く」

 NTTドコモは自陣10メートルエリア右でペナルティキックを得て、エリアを獲る。フェーズを重ね、ジャッカルを試みるキヤノンの反則を誘う。

 場内のホーンがラストワンプレーを告げる。

 NTTドコモに移籍1年目のSO、川向瑛がペナルティゴールを決める。

 24-26。ノーサイド。

「自分たちがやろうとしているラグビーには程遠く、スキルレベルも、ナレッジ(知識)の部分もまだまだ改善していかなきゃいけない」

 敗れた沢木監督は、オンライン会見で漏らす。手痛い逆転負けを喫して振り返るのは、試合全体を通しての過ごし方だ。

「ああいう(終盤まで競った)展開になるまで仕留め切れてないというのがそもそもの問題で…。最後がどうのとかじゃなく、チャンスを仕留める(かどうか)。それが、最後の結果につながっている」

 序盤からモール、スクラムで次々とペナルティキックをもらい、前半9分、敵陣ゴール前でNTTドコモの右PRの北島大をシンビンで一時的に退けた。ここまでの間、キヤノン陣営からは「丁寧に、丁寧に」との指示が伝わる。粘り強く球を保持すれば、おのずと加点できるとの思いがあったか。

 数的優位を確保すると、キヤノンはそれまで優勢だったスクラムを選ぶ。さらに押し込む。

 ところが最後列のNO8、コーバス・ファンダイクの足元へ、対するSHのTJ・ペレナラが飛びつく。球を抑え込む。

 序盤の得点機を逃したキヤノンはその後も攻め続けるが、前半14分頃、グラウンド中盤右で孤立した走者が相手CTBのパエア ミフィポセチに絡まれる。ノット・リリース・ザ・ボールの反則を犯す。

 続く17分、キヤノンは自陣でも笛を鳴らされた。0-3。NTTドコモの北島が戻る前に先制点を許した。SOの田村優主将はこうだ。

「まずはスクラムにこだわって(相手側から)もう1人シンビンを出せるか、スクラムでトライが取れるかとも思いましたが、レフリーからは僕らの望んだコールがもらえず、本当の勝負どころのスクラムで、ターンオーバーされてしまった。でも、それ以上に僕らのアタックの時のリアクションがよくなかったです。そこは改善しなくてはいけない」

 キヤノンの波状攻撃は際立った。

 前半29分、敵陣中盤左にオーバーラップした田村が右手前のCTB、ジェシー・クリエルからパスを受け取り、さらに左へ回り込んだWTBの山田聖也へさばく。

 最後は左タッチライン際でWTBのホセア・サウマキがボールを手に、3人のタックルにびくともせずゴールエリアで踊りながらフィニッシュした。ゴールキック成功で7-3。サウマキは後半途中に脳しんとうの疑いで退くまで(正式な交代は35分)、自軍キックオフ後の強烈なタックルでも光った。

 1点差に迫られていた34分には、敵陣中盤左のスクラムからクリエル、LOのジャン・デクラークらが少しずつ壁を破って田村がオフロードパス。CTBのマイケル・ボンドが抜け出し、クリエルのトライをお膳立てした。

 ここでもゴールキックが決まって14-6としたが、パスを乱したり接点でのボールを失ったりと、ミスで流れを断つこともあった。沢木監督も、こううなずくほかなかった。

「たぶん、前半4トライくらい取れるチャンスがあったし、そこでフィニッシュできてないのがチームの現状。まだまだがまん強さってものがない。こんなもんでしょ、まず。現状しっかり受け入れないと成長しないので。また、改善できるように取り組みます」

 最後にシーズンが成立した2018年度に16チーム中12位と低迷したキヤノンは、元サントリー監督の沢木のもと復権を期す。2019年度に2季ぶりにトップリーグへ昇格のNTTドコモもまた、スーパーラグビーのライオンズを強化したヨハン・アッカーマン新ヘッドコーチのもと浮上を図っている。

 劇的な逆転劇に至るまで、ニュージーランド代表69キャップ(代表戦出場数)のペレナラは緩急自在の試合運びを披露。防御の裏のスペースへキックを転がしたり、密集の後ろで腰を落とし、左右に目を配りながら、一転、鋭く球を投げたり。

 後半26分には、タップキックからの速攻でスコア(17-18と一時勝ち越し)をお膳立てした。

「ペナルティからラックを作って攻め立てるのは難しい。そこで、思い切りました」

 さかのぼって後半18分には、抜け出した味方へのサポートで自身初トライを生んだ(川向のゴールキック成功で14-13と追い上げた)。

「9番(SH)は、ボールの近くに常にいるのが仕事。それをやっただけです」

 アッカーマン ヘッドコーチに「コントロールすべきところをコントロールしてくれた」とたたえられ、笑顔でグラウンドを去る。ラストワンプレーまでの流れは、このように述懐した。

「実際の現場では落ち着いていました。キヤノンがトライを獲った後でも主将が率先して集まり、『もしゴールキックが決まれば(逆転されれば)競り合うキックオフを蹴った後にがまん強く攻めて立てよう。決まらなければ(1点リードを守れれば)落ち着いて時間を稼ごう』と明確に示してくれた。やりやすかったです」

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