コラム 2020.12.25

【ラグリパWest】近大、激動の2020年、終わる。

[ 鎮 勝也 ]
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【ラグリパWest】近大、激動の2020年、終わる。
2020年を締めくくるグラウンドの大掃除をした後、部員に向けて話をする中島茂総監督(中央)。左端はPRの森田博斗主将


 しんちゃんは古都の魚屋である。

 四捨五入すると古希になる。スキンヘッド。お寺さんの風情を漂わせる。
 楕円球は持ったことがない。

 お店になじみの老妓が訪れる。
——何かいいお魚が入っていますか?
「今日はお肉にしといた方がよろしいで」
 耳元でささやく。

 夕方までに仕事をやっつけると、小さい頃から行きつけのお好み焼き屋に行く。
 生ビールのジョッキを3口くらいで飲み干す。テーブルにコインを置く。滞在5分ほど。鮮やかである。

 出身は近大の水産学科。
「生きもんが好きやってん」
 しんちゃんを含めた学びの積み上げは、不可能と言われたマグロの養殖に成功する。

 南紀で過ごした大学時代、覚えていることがある。養殖はハマチやクエに及んだ。ひもじい学生がつい手を出す。
「今月は行方不明が少し多いですねえ」
 教授はそういうセリフでたしなめる。

 そういうOBや校風を持つ近大のラグビー部の2020年が終わった。
 12月20日、東大阪市のキャンパス内にあるグラウンドを大掃除する。年内最後のチーム活動だった。

 激動の1年。コロナに2回見舞われた。
 関西Aリーグでは、天理大や同大もラグビー部寮を震源にしたクラスターが発生した。複数回は近大だけ。ただ、2回とも陽性反応者はそれぞれ1人。近大も専用寮を持っているが、クラスターはなかった。

 近大は2回とも即時にコロナ罹患をオープンにして、活動を停止した。逡巡はない。
「それが、近大なんやな」
 しんちゃんは対応の早さを解説する。

 最初のコロナは9月25日だった。
 チームディレクターの神本健司は言う。
「どこからうつったか、わかりませんでした」
 マスク着用、手洗い、うがいはもちろん、部屋の換気、「密」にならないようにしていた。行動追跡も思い当たるふしはない。

 大学の規約により、2週間の活動停止。交流試合(ウォーミングアップゲーム=リーグ戦の星勘定には関係せず)は、10月10日の京産大戦を辞退した。総監督の中島茂は話す。
「停止明け2日。体ができていませんでした」
 8日後の試合も不成立。関西学大も大学の指導により、調整遅れの状態だった。

 それから2か月ほどした12月2日、2人目の陽性部員が出る。
 同じく2週間の活動停止。12月6日の立命大との5、6位決定戦は辞退した。
 リーグ規約により最下位。公式戦の数はもっとも少ない3。14−28関西学大、0−50天理大、47−13摂南大と1勝2敗だった。

 主将の森田博斗はシーズンを振り返る。
「最後、コロナで試合を辞退しました。いい終わり方ではありませんでした。正直、まだ気持ちの整理はついていません」
 常翔学園出身の4年生プロップは176センチ、108キロ。ほうきを使うその大きな体は、しぼんで見えた。

 掃除をした20日、大学は閉鎖中だった。
 12月3日、大阪府に「医療非常事態宣言」が出される。それは今月29日まで伸びた。入構禁止の中で特別に許可を得る。

 本来なら、この活動は人工芝グラウンドを使うサッカー部と一緒にする予定だった。
 ところが、サッカー部は部員の大麻使用で無期限活動停止中。ラグビー部のみで掃除を終える。森田は最後のあいさつをする。

「キャプテンとして、チームを勝たせられなくて申し訳なかった。来年、3回生以下は環境なんかのせいにせず、ベクトルを自分に向けて頑張って下さい。そして、俺らの学年の思いを背負って、関西制覇をして下さい」

 近大のリーグ戦優勝はまだない。
 1949年(昭和24)を創部年と定めた青ジャージーの最高は2位。3回ある準優勝の最後は6勝1敗の2000年。
 そこからも20年が経つ。

「大学選手権にも出てほしい。OBのひとりとして見に行きたいですね」

 出場は9回。最高位は39回大会(2002年度)の8強。初戦で明大を48−43と逆転で破り、法大には56−31で破れている。最後の大会出場は8大会前の49回。この時は予選プールで3戦全敗している。

 森田の就職先は「パナソニック防災システムズ」。報知機などのセキュリティーを専門とする会社だ。本社は大阪にある。
「トップリーグに行きたかったですけど…」
 日本トップのチームを持つ一大企業の一員として、来年4月から働き始める。

 近大の活動再開は年明けの13日から。新主将にはCTBの福山竜斗、副将にはPR紙森陽太とSO河井優をそれぞれ選出した。

 2021年、近大はどのような戦いを見せるのか。

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