コラム 2013.02.01

ハイランダーズの本拠スタジアムに 『キッカーの鬼門』のレッテル  小林深緑郎(ラグビージャーナリスト)

ハイランダーズの本拠スタジアムに
『キッカーの鬼門』のレッテル
 小林深緑郎(ラグビージャーナリスト)

 ダニーデンにあるフォーサイスバー・スタジアム(当時はオタゴ・スタジアムの名称)は、あのキックの名人、ジョニー・ウィルキンソン(イングランド代表、現トゥーロン所属)が、2011年のワールドカップ(W杯)NZ大会で、PGとコンヴァージョンを計14回蹴って、成功7回(成功率50%)だけという競技場である。



 今年2月から、NZのスーパーラグビー・チームのハイランダーズの一員として、ワイルドナイツの田中史朗がプレーする本拠地がここになる。この競技場はW杯の直前に完成し、天然芝のピッチの上空37メートルの高さに太陽光を通す天井と、その上の屋根に覆われた完全な屋内施設で、ラグビー試合の収容人数は30,748人とされている。



 さて、いま、フォーサイスバー・スタジアムには、『キッカーの鬼門』というレッテルが貼られている。前述のウィルキンソン以外にも、こんなテータがあるのだ。



▼2011年W杯の4試合で、プレースキック59本中、成功32回(成功率54.2%)。



▼2012年スーパーラグビー8試合では、97本中、成功64回(同66%)。



▼2012年9月15日のザ・ラグビー・チャンピオンシップ、オールブラックス対スプリングボクス戦では、16本中、成功6回(37.5%)。個別には、南アのキック名人のモルネ・ステインが5本蹴って成功1回(20%)、NZのアーロン・クルーデンが7本蹴って成功4回(57.1%)に終わった。



 その一方で、W杯ではイングランドのトビー・フラッドが12本蹴って9回成功(75%)、アイルランドのローナン・オガーラが7本蹴って6回成功(85.7%)という戦果を残した強者もいる。



 おおむねキック不振の原因としてやり玉にあげられるのが、「ボールが悪い」というやつだ。2007年のW杯フランス大会では、ウィルキンソンはじめ「ボールが悪い」の大合唱が起きたのだが、スコットランドのクリス・パターソンが大会中のプレースキック17本を1本も外さずに決めて、騒ぎを鎮静させた。



 フォーサイスバー・スタジアムの異変原因を、空気の流れが少ない室内空間では、ボールのど真ん中を外したキックは、強い気流のある空間よりも大きく外れると解く科学者が現れた。



 それとも、スタジアムの責任者が言うように、「単にキックが下手なだけ、言い訳だ」が真相なのか、今年のスーパーラグビーでは、キックにも注目したいところである。



 ところで、日本代表、ヤマハ発動機ジュビロのFB五郎丸歩のキック成功率は昨年のジャパン戦、今季のトップリーグを通じて75%だった。光るのは、そのうちのパシフィック・ネーションズカップ3戦と、欧州遠征の2テスト戦という重要試合に限ると、成功率が80%まで上昇するこの頼もしさだ。



(文・小林深緑郎)


 


 


【筆者プロフィール】


小林深緑郎(こばやし・しんろくろう)


ラグビージャーナリスト。1949(昭和24)年、東京生まれ。立教大卒。貿易商社勤務を経て画家に。現在、Jスポーツのラグビー放送コメンテーターも務める。幼少時より様々なスポーツの観戦に親しむ。自らは陸上競技に励む一方で、昭和20年代からラグビー観戦に情熱を注ぐ。国際ラグビーに対する並々ならぬ探究心で、造詣と愛情深いコラムを執筆。スティーブ小林の名で、世界に広く知られている。ラグビーマガジン誌では『トライライン』を連載中。著書に『世界ラグビー基礎知識』(ベースボール・マガジン社)がある。


 



(写真:フォーサイスバー・スタジアム/撮影:BBM)

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