早大・下川甲嗣副将は言う。2連覇目指すには去年と同じではいけない。
関東大学対抗戦Aで開幕5連勝を決めた早大にあって、攻守で躍動したのが先発LOの下川甲嗣副将だ。
東京・秩父宮ラグビー場で2勝2敗の筑波大とぶつかった11月7日、14-7で迎えた前半22分に追加点を生む。
自陣10メートル線付近右での相手ボールラインアウトをスティールし、その周りでの連続攻撃のさなかにパスをもらう。持ち前のフットワークとハンドオフで防御をかわし、もともといた場所からやや左に動く。ラックを作る。
ここから左中間でパスをもらったCTBの長田智希の仕掛け、SHの小西泰聖のサポートを経て、左端にいたWTBの古賀由教が止めを刺した。19-7。
身長187センチ、体重105キロの下川は、かねて言っていた。
「僕はペネトレイト(大きく突破)できるスピードもそんなにない。ただ、1センチでも前に出て攻撃に勢いを与えるという役割がある」
38分頃にも役目を果たす。31-10と大きくリードした早大が果敢に攻めるなか、自陣10メートル線付近右の接点からPRの小林賢太、下川の作ったユニットへボールが渡る。
最初に捕球した小林は、相手をひきつけ左隣へパスを放つ。
その弾道へ下川は鋭角に駆け込み、守備網を突き破る。下川は相手の手に足をかけられながらもすぐに起き上がり、ボールをふわりと浮かせる。再度、援護に来ていた小林の突破を促す。
小林が敵陣中盤まで進むと、早大はその勢いで古賀の2トライ目を導いたのだった。
直後のゴールキック成功で38-10。
古賀のトライの過程では、NO8で途中出場の田中智幸がオフロードパスを投げている。相手に捕まれながらも放るオフロードパスに関し、下川は「日頃の練習から放る側ともらう側の意志が統一されているか(を大事にしている)」。この日は自身も宣言通り、局面ごとに投げるか、その場で接点を作るかをその都度ジャッジした。チームメイトも同種の動きができたと見て、こうまとめた。
「オフロードをすべきところでオフロードを決めて、無理に放らないほうがいいところではポイント(ラック)を作る…。これができていたと思います」
守ってもハーフタイム直前、自陣ゴールライン上でトライを防いだ。50-22とやや大味にも映るスコアに「気が抜けてしまったり、コミュニケーションのミスがあったりと課題も見つかった」と反省も忘れないが、目標達成に向け「一戦、一戦、成長する」とのスタンスは変えない。
「とにかく今日は勝てたことが前向きに捉えられる。きょう出た課題を(受けて)慶大戦(23日・秩父宮)に向けて、いい準備をしていきたいです」
福岡の修猷館高卒。ルーキーイヤーからFW第3列のNO8でレギュラーとなった。2年時は20歳以下日本代表にも名を連ね、部内で2列目のLOへ転じたのはこの時期からだ。
学生ラストイヤーとなる今年度は、自粛期間の長期化にも決してめげなかった。
「この時期も(ライバルの)帝京大、明大は成長しているんだと自分たちに言い聞かせてきた」
10月4日に秩父宮であった対抗戦初戦は欠場。前年度の入替戦に出た青学大に21-47とやや苦戦した。手首のけがで欠場していた下川はその様子を「初戦は皆、緊張しているなという感じ」。悠然と構えていた。
「連係のミスが多く、それが失点につながったし、得点も生めなかった。ただ、自分たちは一試合、一試合、成長する発展途上のチーム。(苦戦を)マイナスには捉えていなくて」
むしろ、問題点を抽出できたのがよかった。当時の解決課題のひとつは、今年度に見られるルール解釈の変化への対応だ。
攻撃中の接点において、相手に絡みつかれてからノット・リリース・ザ・ボール(寝たまま球を手放さない反則)の判定が下るまでのタイミングが短くなっていると下川は分析。そのため自身が戦列に戻る2戦目を前後し、接点で相手防御を引きはがす動きを重視したいと話していた。
「今年は思った以上に、ノット・リリースを取られるまでが速い。そこで(反則を)取られていたら、(テンポ良い攻めを目指す)自分たちのペースにはもっていけない」
下川の今季初先発は10月18日。埼玉・熊谷ラグビー場での日体大戦だ。赤と黒のジャージィーが接点という接点で影のように連なり、留学生のいる相手を70-5と大差で下した。
手にしたボールを相手に触れさせたくない。日体大戦前に下川が唱えたそんなイメージはいま、チーム全体の接点へのサポート、さらには下川自身が筑波大戦で披露した走りやパスに反映されている。チームが一歩ずつ進化した結果だ。
今季は2018年度の日本代表候補だったSHの齋藤直人前主将(サントリー)ら、前年度の主力が多く抜けている。下川はその現実を踏まえつつも、自分たちの方法で大学選手権2連覇を目指すのである。
「去年の4年生が抜けて、今年のいまいるチームメイトは誰も去年と同じことをして優勝できるとは思っていない。最後まで完ぺきになるとも思っていない。常に『これでいい』というのは、なし! いまのところ全員その意識でできていて、もっともっと精度を上げられると思っている。現状に満足しないで日々、成長することが必要だと思います」