東京オリンピックへ。男子7人制日本代表の彦坂匡克が語る「準備」の重要性。
今年3月、この夏開催予定だった東京オリンピックの1年延期が決まった。
多くのアスリートが岐路に立たされ、男子7人制ラグビー日本代表の候補選手の間でも主将経験のある桑水流裕策ら多くの実力者が最前線から離れることにした。引き続き選出を目指す選手からも、決定当初はモチベーションの維持が難しかったという声が漏れた。
ところが、彦坂匡克は違ったようだ。力強い走りを繰り出す29歳のムードメーカーは、声を弾ませた。
「個人的には自粛期間やオリンピックの延期をそんなにネガティブには考えていなくて。練習できない期間はあったんですけど、それまでにたくさん練習をしてきたので、あ、これは休めるなぁ、と、思い切って休んじゃいましたね! ストレス、ほぼなかったですね。皆に会えないのが若干、寂しくてストレスでした!」
双子の弟である圭克とともにトヨタ自動車に所属。15人制ではWTBを務め、筑波大時代には20歳以下日本代表になったこともある。
7人制日本代表としては2016年にはリオデジャネイロオリンピックで4位入賞。特にプール初戦では強豪のニュージーランド代表を倒し、話題を集めた。
「リオの時には、いい準備ができていることが大切だと思いました。対戦相手が決まってからは長い時間をかけて研究し、準備できた。自分たちのやること、どういうテンポで試合に入るかもすべて決めていた。明確でわかりやすかったです」
当時からメンバーを一部入れ替えて臨みそうな東京オリンピックへも「準備の大切さは伝えられたらと思います」。もっとも現在のチームでは、より個々が主体的になったのではと彦坂は見る。以前は分析担当の中島正太らに委ねていた相手の分析やゲームプランの策定に、現在は選手もかかわるようになったからだ。
「いまは自分たちで『ゲームプランはこういうのがいいんじゃないか』とコーチに言ったりもしていますね」
さらに、自身が一時的に代表活動を離れている間、新たにセブンズに注力し始めた選手が世界サーキットであるワールドシリーズへのフル参戦も果たしている。彦坂は「緊張感のなかで強度の高い試合ができるのは貴重。それを1シーズン戦い切ったことは(当該選手の)財産になっている」と語り、現スコッド全体の経験値にも心強さを覚えている。
自身の立ち位置を問われれば、「リオの時からそんなに変わっていないと思っていて」と続ける。
「明るくいるのが自分の立ち位置かなと。そこは変わっていないですね。周りもそういう感じで見てくれているのかなという感じです!」
雌伏期間を経て候補合宿が再開され、約2か月が経過した。6月下旬から複数の地域に散って活動してきた候補選手は、9月、一堂に会するようになった。7~13日は北海道で、23日からの5日間は東京で汗を流す。
彦坂が話したのは、後者にあたる「男子SDS(セブンズ・デベロップメント・スコッド)府中合宿」の2日目のことだ。練習強度や走行距離は右肩上がりのようで、彦坂も「S&Cコーチの坂田(貴宏)さん、目が輝いています。個人的にはけっこうきついですね」と笑う。
「きょうは午前中にはユニットトレーニングとウェイトトレーニングを。午後にはスプリント(短距離)とフィットネス(持久走)が合わさったの(メニュー)を3種類くらいやった後にスキル練習をやって、メダルチャレンジと言われる90秒間ずっと動き続けるやつを3セットやりました!」
少人数に分かれて活動していた頃、彦坂はおもに愛知、大分の組へ帯同。いまは東京で活動してきた藤田慶和、松井千士らの動きに触れ、舌を巻いている。
「東京のメンバーは走れていますね。そして、皆、めちゃめちゃいい顔をしています」
来季ワールドシリーズの開催も流動的で、オリンピックが本当に東京であるのかも未知数。しかし彦坂は「先のゲームのこととかはあまり考えていなくて。(頭にあるのは)次の合宿をどうしていくか、オフにどうリラックスするか、YouTubeをやっている選手(藤田ら複数の選手が挑戦)がどんな動画を上げるのかとか! そんなに先を考えずにやっています」。いまを楽しむ。
「個人としては東京オリンピックに出場して結果を残す(のが目標)。選ばれるか、選ばれないかはコントロールできないですが、選ばれるように準備していきたいです」