国内 2020.02.20

4連勝で4位のクボタに名人芸あり。クロッティが示すラグビーのおもしろさとは。

[ 向 風見也 ]
4連勝で4位のクボタに名人芸あり。クロッティが示すラグビーのおもしろさとは。
オールブラックスのいぶし銀だったクロッティはクボタでも上位進出のカギを握る(撮影:大泉謙也)


 ラグビーは格闘技であり、何より球技でもある。そう思わせるのには十分な名人芸だった。

 2月16日、雨に降られた東京・江東区夢の島競技場。クボタの13番で先発のライアン・クロッティは前半16分、チーム2本目のトライをアシストする。

 ハーフ線付近左中間でのスクラムでフリーキックを得たチームは、日本代表2キャップ(国代表戦出場数)の井上大介、オーストラリア代表71キャップのバーナード・フォーリー、日本代表55キャップの立川理道主将と順に左へ展開。それぞれが目の前の防御を引き付けて球を離した結果、ニュージーランド代表48キャップのクロッティが左中間のスペースを破る。

 愛好家をうならせたのは、ここからだった。

 クロッティは2人の防御の間を抜きにかかり、敵陣22メートル線付近まで進むと一気にギアを入れる。2人のうち向かって左側の選手を置き去りにし、右側の選手に腰をつかまれたところで左端の空洞へパスを送る。

 最後はバトンを受け継いだWTBのタウモハパイ ホネティがゴールラインを割り、14-0と点差を広げた。

「引き付けて、キャッチ&パスがうまくいった。内側のフォーリーとハルがいい仕事をしていた」

 殊勲のクロッティがこう語ったのは、日野とぶつかったこの一戦を49-12で制した直後のこと。正門付近に集まるファンと記念撮影をしたのち、即席インタビューに応じた。

 タウモハパイへのラストパスを出す際に意識した点は、簡潔だった。

「(相手に迫る時の)足のスピードのコントロール、ディフェンスを寄せ付けるタイミング」

 チームは、南アフリカ出身のフラン・ルディケ ヘッドコーチ体制4シーズン目を迎えている。2019年には、ニュージーランドでのプレー経験や日本代表での指導歴がある田邉淳アシスタントコーチが就任。多角度的にスペースを攻略できるよう、各種技能とシステムを涵養(かんよう)する。

 今度の日野戦でも、かねてパスとランが得意だった立川主将が防御の裏へのキックで後半36分のトライを演出する。さかのぼって同11分頃には、敵陣22メートル線付近右から左大外へのキックパスを試みている。

「もともと日野のバックスペース(防御網の背後)が空くという分析があって、それをいつ使うか、でした」

 2020年1月開幕の国内トップリーグでは、日野戦までの5戦で通算4勝1敗。過去最高の6位を上回る4位につけ、22日には昨季4強のトヨタ自動車とぶつかる(愛知・パロマ瑞穂ラグビー場)。立川が強調するのは、スタイルを信じる心だ。

「大きなけが人もなく、メンバーがあまり代わらずに(試合が)できているのが(好調の)ひとつの要因。厳しい試合を勝ち切れたのも大きい。あとは、僕らがバックボーンと呼んでいるメンバーに入らなかった仲間も貢献してくれている。これから新しい歴史を作るうえでは、あまり先を見ずに一試合、一試合勝っていくのが近道。毎試合、自分たちのプランを信じてチャレンジしたいです」

 さらに組織力を高めているのが、昨季オフの大型補強。ルディケの眼鏡にかなうビッグネームのチームマンが勢ぞろいしていて、そのひとりがフォーリーで、そのまたひとりがクロッティだった。採用に携わるスタッフが他の外国人BKの獲得を推薦していたなか、ルディケがクロッティを求めたとの証言もある。

 この日のクロッティは前半38分頃にも、自陣10メートル線付近右でフォーリー、立川のホットラインからパスをもらう。ほんの少し弧を描くような走路を取り、一度は敵陣10メートル線あたりで相手に倒されながらもすぐに起立。約20メートル前進し、左側をサポートするWTBの近藤英人にオフロードパスを渡している。後半7分に立川主将が止めを刺すまでの連続攻撃の間も、この人の仕掛けとつなぎが光っていた。

 身長181センチ、体重94キロの31歳。井上いわく、前所属先である母国ニュージーランドのクルセイダーズで「ディパーチャータイム」を意識していたようだ。

 味方のボール保持者がパスを出しやすいタイミングで加速し、球を呼び込む。その塩梅が「ディパーチャータイム」と名付けられている様子だ。パスを投げる間合いといい、パスをもらう間合いといい、動作の背景に競技への造詣の深さがにじむ。

 強豪クルセイダーズの主力として国際リーグのスーパーラグビー3連覇に携わったのは、身体能力の高いライバルに知恵とタフネスで挑んできた結果だ。

 クボタのスタッフによれば、加入1年目にして「練習中に誰よりも声を出している」という名脇役。去り際の一言に、矜持をにじませる。

「大きく、強くなくてはダメということではない。賢くやってきました」

 球技としてのラグビーのおもしろさを、口笛を吹くように表現する。

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