2023年こそは。早大・齋藤直人、日本代表W杯8強入りに何を思った?
チャレンジャーに、頑張る隙さえ与えなかった。
早大SHの齋藤直人主将は、11月4日に東京・駒沢陸上競技場で関東大学対抗戦Aの後半戦開幕節に挑む。昨季2位のチームで背番号9をつけた船頭役は、同8位の成蹊大を高速展開で翻弄。比較的防御が整えやすいグラウンド端のラックからの攻撃でも、球の出どころへの到達までの時間と捕球とパスのスピードを極限までにスリム化。相手の目が追い付かぬうちに、防御の隙間を射抜いていった。さらにゴールキックは16本中14本も成功させ、守っても接点で相手の球に絡むジャッカルを何度も成功させる。
後半23分までプレーし、結局120-0で大勝。同じ高校(神奈川・桐蔭学園)、大学出身で元日本代表SHの後藤翔太コーチは、こう褒めた。
「ファーストレシーバーが(齋藤のパスを)もらった頃にはまだ相手は1歩くらいしか出られていない感じ。投げるところへのこだわり、フィジカルのトレーニング、彼の能力を踏まえれば、当然のパフォーマンスだと思います。自分の理想に対して追求しようという姿勢は超一流。代表クラスと変わらない。彼がそれを狙っているので、当たり前だと思いますが」
折しも、ラグビーワールドカップ日本大会が閉幕して2日が経った頃だ。同大会で8強入りした日本代表について、当の本人は複雑なまなざしを向けていた。何かを口にしかけて「…あ、これはやめときます」と再考するなどし、丁寧に言葉を選んだ。
「日本代表が勝ったのは嬉しい反面、僕がこの舞台に立てていたらどうだったんだろうと思いました。あとは、日本代表が勝った後のいろんな選手のインタビュー、リーチ(マイケル主将)さんが出ている『情熱大陸』(TBSのドキュメンタリー番組)で、『信じることが大事』というようなことを言われていた。それを見ると…自分は、まだまだ日本代表に選ばれるにはふさわしくないなと思いました」
あの舞台で活躍したいとは思っていたが、戦前から勝つと信じてあの舞台に立てたかどうかはわからない。その、複雑な心境を言葉にする。
「チャレンジしてみたい気持ちは、高まりました」
身長165センチ、体重75キロ。昨年8月には、ワールドカップに向けたトレーニングスコッド(日本代表候補)に大学生で唯一選ばれていた。さかのぼって春から夏にかけては、若手主体のジャパンAに入ってスーパーラグビー(国際リーグ)の予備軍とぶつかり、そのスーパーラグビーへ参加する日本のサンウルブズの練習生にもなった。早大の相良南海夫監督は今季、代表側の要請があれば主将の齋藤をチームから送り出すつもりでいた。
しかし現実的には、2月に始動したワールドカップトレーニングスコッドキャンプには不参加。一時は同合宿をしていた東京・キヤノンスポーツパークへ練習見学に訪れたものの、5月に腰をけがしたこともあり吉報は得られなかった。
早大は大会中、全体練習のタイミングを日本代表の試合時間と重ならぬよう配慮していた様子。もっとも齋藤は「皆が生で観ている時――人が練習していない時――もトレーニングをする」と、あえて個人練習の予定を詰めた。
9月28日のアイルランド戦勝利も、録画でチェックしたという。
「(生で観た試合も)ありますけど、練習を切り上げて観るくらいなら、自分の成長を優先しよう、やることをやってから試合を観ようと思いました」
いま目指すのは、2023年のワールドカップ・フランス大会出場だ。そのためにまず、来年7月のイングランド戦で代表デビューを果たしたい。短期目標は早大で日本一を達成すること、参加確実な国内トップリーグで存在感を示すことだ。
「人って目標がないと頑張れないと思うんですけど、テストマッチ(代表戦)の日程が出ているのは頑張るモチベーションになります。目標から逆算して、自分の計画を立てています。フィットネスを活かしたテンポ、キックを織り交ぜたアタックをしながら、ディフェンスでも信頼されたい。小さいからあれができない、これができないではなく、それを言い訳にしない選手になる」
トップリーグが来年1月中旬に始まるのに対し、サンウルブズは2月1日にスーパーラグビー初戦を迎える。齋藤自身としては国際レベルに身を置きたいとしながら、「考えはありますけど、まずは自分の実力が伴っていなきゃいけない。頭だけ先走ってもただの恥ずかしい人になる」と足元も見つめる。
「(トップリーグのクラブへは)いつ合流できるかわかりませんが、ラグビーを続ける身としては、人生で一番遊べると言われる大学4年の1~3月も絶対トレーニングをしたいといまは思います。具体的にどんなトレーニングをするかはわかりませんが、(その時々で)いま何が必要かを考えて取り組むのが大事だと思います」
そう。約束できるのは、どんなチャンスが来ても力を出せるよう準備することだ。一時的に日本代表入りへ指の先を引っかけたことで、気づいたこともあるという。
「自分の強みを出しながらも、チームのラグビーに適応できる選手にもなりたいです。『その選手にチーム全体が合わせる』ということは、その人がよっぽどの選手でないと起こりえない。それよりも、どんなラグビーにも適応できるくらいのスキルを備えることが大切。満遍なく、練習します」
早大は10日、東京・秩父宮ラグビー場で帝京大と激突する。まずは一昨季まで大学選手権9連覇というビッグクラブに対し、圧巻の試合運びを披露したい。