各国代表 2019.08.04

トンガ代表の胸に「入ル」の文字。W杯へ挑む男たちとスポンサーの幸せな関係。

[ 編集部 ]
トンガ代表の胸に「入ル」の文字。W杯へ挑む男たちとスポンサーの幸せな関係。
胸に「入ル」。トンガ代表はワールドカップ本番でも花園で戦う。(撮影/YOSHIO ENOMOTO)
トンガ代表の情熱に応えた山崎一さん。



 鳩のエンブレムの横に「入ル」(いる)とあった。
 イルは韓国語の「1」。入ルは関西で路地を表す。
 8月3日に日本代表と戦ったトンガ代表のジャージーに入ったメインスポンサーのロゴは、「株式会社SOME GET TOWN」が経営する韓国食堂『入ル』(大阪/東京)のものだ。
 同社の社長は山崎一(やまざき・はじめ)さん。お店は路地を入ったところにある。

 今回の花園での試合限定でスポンサーについた。知人を通し、初めて話を耳にしたのが2週間前。連絡はタウファ統悦(元近鉄)から来た。今回の来日時にチームリエゾン(世話役)を務めたトンガ出身の元日本代表が縁をつないだ。
「トンガ協会からの現場(代表チーム)への現金支給が十分でなく、日本滞在中の諸経費が足りないので、と」
 切実な思いが伝わってきた。

 山崎さんはハンドボール、東京トライスターズのサポートもしている。目標に向かっている人たちを応援する気持ちがあるから、トンガ代表の話を聞いて手を挙げようと考えた。
 ただ、予定されていた期日にジャージーが届かなかった。そのため、胸にスポンサー名をプリントする時間が足りなくなり、一時はご破算になりそうになる。
 しかしギリギリのところで間に合い、無事に契約が成立する。
 試合前日のことだった。

 トウタイ・ケフ ヘッドコーチから現場の情熱とチームの置かれた状況を聞き、彼らがプレーに集中できて、笑顔になれる一助になるならと判断した。
「大企業でない飲食店でも、ナショナルチームのサポートができる。そういう前例を作れたら、この先にいい影響を与えられるかもしれない。そんな思いもありました」
 世界中に散らばっている選手たちが、ワールドカップ直前に集まり、時間のない中で力を結束していく。恵まれた日本代表とのあまりの違いに驚いた。
 少なくない金額だが、社員にもその意義を説明したうえでの決断だった。

 山崎社長はラグビーマンだ。
 摂陵高校(現・早稲田摂陵)時代に楕円球を追い始め、関西外国語大学、文の里クラブでプレーした。ポジションはHO。今年4月に38歳になった。
 大学卒業後はサラリーマンを経て、28歳で飲食の世界に入った。韓国調理技能士1級を女性で初めて取得した母・朴三淳(パク・サムスン)の起こした家業を継いでいる。
「統悦さんが、試合前日にチームがおこなったジャージープレゼンテーションの動画を送ってくれました。選手たちはみんな純粋。その表情を見ていたら、お金のことはどうでもよくなったとは言いませんが、彼らとの距離が近くなって良かった。心の底から、そう思いました」

 試合直前になって、試合のチケットが一枚確保できたとチームから連絡が入った。スポンサー待遇も何もないけれど、そんな小さな心づかいが嬉しかった。
 試合は7-41で完敗するも、試合を観戦した山崎さんは、「これまでとまったく違う気持ちになった」と話した。
「ラグビーが好きです。ジャパンも応援しています。そして今回のトンガ。彼らがプレーしている背景も知っていますから、もうスコアは途中で頭の中から消えました。これまでより、ラグビーを見る喜びが何倍にもなった感じでした」

 トンガの応援団がいる席での観戦。かつての名ジャパン、シナリ・ラトゥさんとも話す機会があった。多くの人たちから感謝の言葉が届いた。
 でもこの数日間、貴重な経験ができたのは、自分だって同じだ。
「こちらこそお礼が言いたいくらいでした」
 自然と、そんな気持ちが湧き出た。


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