コラム
2018.09.19
関西の学生クラブを見守り続ける。廣島治(ひろしま・おさむ)
関西学生クラブ選手権を運営する学生委員たち。世話役をつとめる
廣島治さん(中列左から2人目)、学生委員長の萩本裕貴くん(中列左から4人目)
ラグビーは趣味のひとつです。
4年間でやりたいことはいっぱいある。勝ち負けにしのぎを削る体育会はきつい。初めて楕円球に触れてみた。そんな大学生たちのために学生クラブはある。
寄り添う大人は廣島治だ。
関西協会のクラブ委員会学生担当である。
「2000年くらいからつながりを持たせてもらっているから、20年くらいは経っているかなあ。頼られると、嫌とは言われへん、損な性格なんです」
B級レフェリーの資格を持つ53歳は目じりを下げる。
廣島は秋にある一大イベント「関西学生クラブ選手権」の運営を助ける。今年で28回目を迎えた。開幕前日の9月15日、学生委員を集めて、選手権の説明が行われる。
前日、そして公式戦にも関わらず、いきなり、人数不足を理由に、数試合の棄権を申し出てきたチームがあった。
「ウチは1回生が多く、入学して半年して、やりたいことができてしまったようで…」
廣島は優しい。
「それは仕方がない。せやけど、選手を集める努力はしんとな。今、ここで諦めたら、チームはなくなるで」
さらに、そのチームは公式戦を棄権しながら、同日に開催される地元での別の試合には出場したい、と申し出る。
ムシがよすぎる話を、さらにかぶせてきても、廣島が声を荒げることはない。
「そっちは行くねんな?」
学生は蚊の鳴くような声で答える。
「試合場所が近いと部員が集まるんです」
廣島は諭すように言う。
「チームの方針やから仕方ないけど、どこに属してるのかを考えてな」
そして、続ける。
「その地元での試合は絶対にやってな。チームでゲームをすんのは大事やから。帰属意識を持たさないとバラバラになる。チームなんてすぐになくなる。必ずその試合を次につなげるんやで。それをみんなに認識させてや」
廣島は生き仏かもしれない。
どうして、怒らないんですか?
「怒ってもしゃーない。なんも変わらんし。それなら、先を考える方がいい。それに、自分も学生時代はあったからね」
学生から出てくる案件をバサバサ処理する。
「人数が足りません」
「ほかのチームから借りる」
「フロントローがいてません」
「ノーコンテストでええやん」
「ジャージーが破れていて、23番までそろいません」
「24番以降は作ってへんの?」
「ありませーん」
「縫えー」
廣島は神戸高でラグビーを始めた。部は神戸一中時代の1926年(昭和元)に作られる。兵庫県では最長の部史、公立校としてはトップの進学率を誇る。今は亡き父・茂、兄・昇もともにラグビー部OBだった。
同志社大に進学後は、地元のクラブチームでプレーする。並行しながら、母校のコーチとして15年ほどを過ごした。そこで、若い人たちへの対応力が養われる。
学生クラブの委員長・萩本裕貴(関西大3年)は信頼を寄せる。
「初めての経験でバタついていますが、ヒロシマさんがいてくれるから大丈夫です」
ラグビーの小人数校である奈良・高田高出身。学内の工学部ラグビー部の流れをくむKUEに属し、LOとしてプレーする。
「強いチームにいなかったので、ゆったりしたいと思いました。今は楽しいです。ガチガチじゃないから続けていけます」
廣島が補佐するのは学生だけではない。
阪神タイガースのオーナー・坂井信也がラグビー観戦をする時には横で解説をする。
「オーナーが阪神電鉄の経理部長の時からお供をしているから、20年くらい経つかなあ。高校の後輩ということやと思う」
廣島からは謙遜が出る。勤め先は阪急阪神ホールディングス。関西の一大コンツェルンは日本有数のプロ野球球団を抱えている。
廣島が携わる選手権の優勝候補は関西学院上ヶ原。1969年(昭和44)創部の名門で、頂点に立てば4年連続9回目となる。
「フィットネスの高さで一歩リードしてる」
廣島は戦前予想をする。
選手権のスタートは予選からだ。
KUE、関西学院上ヶ原、それに、立命館グラスルーツ、立命館バーバリアンズ、同志社H&T、近大ドルフィンズ、京都大医学部、大阪大医・歯学部、KG.CHAPPIESの9チームを3つに割り、リーグ戦を行う。
その後、トーナメントで優勝を決める。
勝者は、関東の1位と「第17回東西学生クラブ対抗試合」を戦い、2018年度の学生クラブ日本一が決定される。
廣島は学生たちへの希望を語る。
「レベルが上がるのに、こしたことはないけれど、やってよかった、というような充足感を持って終わってほしいなあ」
ラグビーを学生生活の軸に据えたか、否かはさしたることではない。大切なのはその学生なりに、どうラグビーにコミットしたか、そして、楽しく思い出に残る4年間を過ごせたかどうか、である。
人生は自己満足でできあがっている。
廣島はそのことを知っている。
(文:鎮 勝也)