コラム 2017.10.04

【小林深緑郎コラム】 皆さん、非常時です。

【小林深緑郎コラム】 皆さん、非常時です。
10月2日、サンウルブズの新ヘッドコーチ就任会見。日本代表ヘッドコーチのジョセフ氏が、兼任でサンウルブズの指揮を執ることになった
10月2日、サンウルブズ新ヘッドコーチ就任会見。日本代表ヘッドコーチのジョセフ氏が、兼任でサンウルブズの指揮を執ることになった(撮影:松本かおり)
▼国家プロジェクト並みのジャパンの強化へ、オールジャパンのサポートを
 ラグビーワールドカップ(RWC)2019日本大会を成功させるために、いま何ができるのか。そして何を成すべきか。
 そんなことを考えると眠れなくなることがある。RWC2019では、開催国としてジャパンが最低限の目標におくのがベスト8、準々決勝進出だ。
 まあ、前回のRWC2015では開催国のイングランドが、オーストラリア、ウエールズ、フィジーなどと同じプールに入ってしまい、いわゆる『死のプール』の洗礼を受けて、グループリーグでの敗退という思わぬ出来事が起きてしまった。このおかげで、ジャパンが、これで開催国『初の』グループリーグ敗退と呼ばれることはなくなった。だから、変なプレッシャーもかからなくなるのだろうが、それでも、もし日本がグループリーグで消え去ってしまうなら、今後はいわゆるラグビーの伝統勢力以外の国では、RWCが開きにくくなってしまうことだろう。
 
 今年5月にはRWC2019の組み分け抽選会があって、アイルランド、スコットランドと同じプールに入った日本への期待感は一時的に高まったものだ。ところが、6月のアイルランド来日で雲行きが少し変わった。ジャパンが2テストマッチに敗れた結果、初めは登攀可能に思えた山々が、予想外の険しさでそびえていることに気づかされ、冷徹に現在のジャパンの立ち位置を思い知らされることとなったからである。
 それでも、RWC2015のブライトンでの南アフリカ・スプリングボクス戦における、ジャパンによる近代スポーツ史上でも最上位に位置づけられるフェーマス・ビクトリーと、その後のサモアとアメリカを相手に、過去にはなかった紛れのない勝ち方を示せたことが、いまも遺産として残っている。
 そのことを示したのが、昨年11月のカーディフでのウエールズ戦だった。ジャパンが示したアタック力は通用していた。ウエールズ戦は結果として、相手のSOサム・デイヴィスのDGにより3点差で敗れはしたが、新しいチームの集合から短期間の間に、アルゼンチン、ジョージア、ウエールズと3試合を戦ううちに、ジャパンの戦い方が吸収され、消化されて、血となり肉となっていったことが実感されたのだから、今後のチームの成熟ぶりは、練習時間をいったいどれだけ確保できるのか、という点が重要なポイントになるはずである。
 自国でRWCを開催するというのは、実質的に国家プロジェクト並の大イベントを行なうに等しい。ここからの2年間は、日本ラグビー界のオールジャパンの総力を、ワールドカップのために注ぎ込むことが求められるはずである。これなくして、大会の成功、ジャパンの8強入りの実現は容易ではない。そして、後になってから、あのときこうしておけば良かった、などということが決してあってはならない。
 ここから、RWCの成功のためにやるべきことは、大会の1年前にあたる2018年のうちに、ジャパンがもう一回世界の8強国の一角を倒して、本番での期待値をあげることが求められるだろう。強敵を倒すという予告編効果によって、ジャパンがワールドカップの舞台で勝つ試合をイメージできる。そして、実際に生で見てみたいという、新たなラグビーファンを生み出す効果も期待できるだろう。
 それを可能にするための唯一の方法には、ジャパンの候補選手を、出来る限り長期間に渡って、ひとつのチームとして強化し、練習に専念してもらうというプロジェクトを開始することである。幸いにも、漏れ伝わってくるところでは、ジャパンのジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチの考えも、今後はスーパーラグビーのサンウルブズによる活動を含めて、より長期にジャパンの活動時間を確保するという方向にあるようだ。
 繰り返すが、RWCの成功は国家プロジェクト並に失敗が許されない。
 それだけに、RWCを日本でやる以上は、これからの2年間を非常時ととらえて、徹底的にジャパンの強化を図ってもらいたいのである。そのためには、代表候補の選手の所属するトップリーグのチームにも、ここからの2年間は非常時なのだという認識を受け入れていただいて、ジャパンへの強力なサポートをお願いしたいのである。
【筆者プロフィール】
小林深緑郎(こばやし・しんろくろう)
ラグビージャーナリスト。1949(昭和24)年、東京生まれ。立教大卒。貿易商社勤務を経て画家に。現在、Jスポーツのラグビー放送コメンテーターも務める。幼少時より様々なスポーツの観戦に親しむ。自らは陸上競技に励む一方で、昭和20年代からラグビー観戦に情熱を注ぐ。国際ラグビーに対する並々ならぬ探究心で、造詣と愛情深いコラムを執筆。スティーブ小林の名で、世界に広く知られている。ラグビーマガジン誌では『トライライン』を連載中。著書に『世界ラグビー基礎知識』(ベースボール・マガジン社)がある。

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