海外 2016.05.24

ベンチスタートになったサンウルブズ堀江 「チームとは違うアイデア」とは。

ベンチスタートになったサンウルブズ堀江 「チームとは違うアイデア」とは。
レッズと競ったサンウルブズ。写真中央がキャプテンのHO堀江翔太(撮影:?塩隆)
 国際リーグのスーパーラグビーは終盤戦に突入。日本から初参戦するサンウルブズは、5月21日、ブリスベンはサンコープスタジアムで第13節に挑んだ。
 堀江翔太主将が登場したのは、後半8分だった。シンガポール・ナショナルスタジアムでストーマーズと17−17で引き分けた14日の前節を含め、堀江主将は2戦連続でのベンチスタート。「ハマー」ことマーク・ハメット ヘッドコーチ(HC)に体調面を配慮してもらい、ゲーム主将を立川理道に譲っていた。
 開幕4週間前に初顔合わせをした、いわば急造チームのリーダーだ。
 各国から集まった選手の意見を引き出し、首脳陣と意見を交わし、対外的に前向きなメッセージを発する。途中では4戦全敗に終わったシンガポール、南アフリカツアーも経験した。稀有な道を歩んでいる。
 ここまでわずか1勝のクラブにあって、心身は疲弊していよう。代役でゲーム主将を担った立川も、「自分にフォーカスを当てているだけではなく、いろんなところを気にかけなきゃならない。皆のことを考える時間も多くて、責任も重い。翔太さんは、毎試合、毎試合、そういったところをずっとやって来てくれていた…」と慮ったほどだ。
 堀江本人も、控えに回っている話題に触れてこう吐露していた。
「試合数が多いなか、ハマーさんが(コンディションについて)コントロールしてくれていると感じますね。自分のなかでも身体がきついなという思いは少しありましたし」
 芝に立てば、魅せる。「一歩、後ろを引いてチームを見渡せる」。7点差を追う後半15分、敵陣ゴール前右で相手守備網の凸凹した区画へ駆け込む。ボールを受け取ると、目の前のタックラーを引きつける。大外で待っていたFLのリアキ・モリへパス。絶妙。「(モリが)余ってたんで、呼んで、放っただけです。誰でもできるんとちゃいますか」。トライを援護し、25−25と同点に追いついた。
 堀江のHOというポジションは、密集近辺でぶつかり合いに備えるのがセオリー。しかし背番号16の船頭は、ベンチスタートの立場から全体を俯瞰。モリのスコアを演出したように、接点から離れたところで攻撃に彩を加えた。
「外に立つようにしました。(ベンチから)前半の試合を観て、そこにスペースがあるように感じましたし…」
 主将としての堀江は、開幕前から「まず戦術を理解したい」。チームの型を自分と周りに落とし込むよう意識していた。試合の多くをプレーする1人として、試合で多くおこなわれるプレーは完全にマスターした。
 ただ、ひとたびリザーブに回れば、型を知ったうえでその型をあえて破る。モリの得点シーンを振り返り、こう語った。
「(ポジショニングを変えることで)ああいうことが、できてくる。シーズンも終盤に入ってきた。こういうチームの決まりと違う動きというか、アイデアも入れていければいいかなと思いますね」
 身長180センチ、体重104キロの30歳。相手の死角をえぐるための位置取りやハンドリング、ランには自信を持っている。いまでは自身が蹴ることのないプレースキックの練習にも顔を出すなど、スキルアップへの意欲を保っている。「外」に立った際にチームへ与える果実も、決して少なくない。
 国内所属先のパナソニックでも、主将就任1季目の2013年、その「違う動き、アイデア」を活かしたことがあった。
 9月29日、栃木は足利市総合運動公園陸上競技場。日本最高峰トップリーグのファーストステージ第4節、対するクボタと10−10の同点で競っていた後半6分から登場。1分後、接点から離れた位置でパスをもらうと、グラバーキックを転がす。俊足の北川智規が勝ち越した。クボタの一員だった立川が「翔太さん、あれは、ないです」と驚いた頃には、パナソニックが34−16で勝っていた。
 当時の堀江は、レベルズの一員としてスーパーラグビーでの激しさに慣れてきた頃だった。国内シーズン開幕当初はぶつかり合いに専心していた。しかし、それではチームの調子が上がらなかったという。
「トップリーグ仕様。スーパーラグビーではタイトに、タイトに、目の前のボールを出すために頑張ってたんですけど、こっちではその辺で味方を信じて、ちょっと自分にルーズなところを持っておこうと思って」
 レッズ戦は結局、25−35で敗れた。「もう少しっすね。後半からアタックはいい感じの流れをつかんでいたんですけど…」。これでサンウルブズは9敗目だが、歴史的な初年度の道のりはもう少し続く。全体を俯瞰する視座を採り入れた堀江はいま、主将としての思いをこう明かす。
「目の前の試合で何が起こるかを考え、いい準備をしていきたいと思います」
 28日には休息前最後の一戦となるブランビーズとの第14節が、キャンベラのGIOスタジアムである。
(文:向 風見也)

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