コラム 2016.05.01

御所実に人工芝グラウンド完成 悲願の全国制覇へ加速

御所実に人工芝グラウンド完成 悲願の全国制覇へ加速
御所実チームスタッフの吉川博之さん(左)と竹田寛行監督。
 新しい「道場」が完成した。
 全国大会準優勝3回の奈良県立御所実業高校のグラウンド人工芝化が終了する。
 工事開始は昨年12月下旬。約4か月を費やした。
 主将のSO北村将大は声を弾ませる。
「いいグラウンドができて、とてもうれしいです。改めてたくさんの人々のサポートに感謝します」
 使用開始は4月29日。祝日である昭和の日に関西学院高等部(兵庫)を一泊で招待して、合同練習や20分ゲームが行われた。
 校舎西側には右に葛城山(標高959メートル)、左に金剛山(同1125メートル)がそびえる。近畿を代表する山々の濃淡の新緑に同じ深緑のグラウンドが映える。
 縦100メートル、横70メートルとラグビーにとってはフルサイズになった。インゴールは7メートル。野球部のバックネットを東側に移動したため、ピッチャーマウンドは障害物にならなくなった。サッカーの試合もできるように線引きがされている。
 芝はASTRO(アストロ)社製の最高級グレード。地中には緩衝材となる白いパッドが埋められている。帝京大や伏見工・京都工学院(京都)と同じだ。
 監督の竹田寛行は笑顔を浮かべ3年生LOの竹山晃稔(あきとし)を手招きする。
「このグラウンドがいかにふかふかかみんなにわかってもらいなさい」
 初夏の日差しの中、布団を敷いて寝る。
「とっても柔らかいです。少し暑いけど」
 帝京大の2年生WTB晃暉(こうき)を兄に持つ竹山はニッコリした。
 竹田と関学高監督・安藤昌宏は天理大OBで10歳違い。「アンちゃん」と可愛がられる後輩は、「これはいいわ」と感動を連発。スマートフォンで撮影をしていた。
 昼食を終えれば、すぐに部員たちは人工芝の上でパスやキックをしたり、抜き合ったりする。その姿を見て部長の中瀬古?成(よしあき)は目を細める。
「生徒たちは生き生きしています。以前なら、練習時間ギリギリになっても、こっちが呼ばないとグラウンドに出て来なかった。でも今は自分たちから進んで出てきます」
 施設の充実は、部員たちの自主性をも引き出している。
 グラウンドだけではなく、周囲の照明も12基がLEDになった。従来の18基の水銀灯と合わせ、その光度は倍近くに上がる。竹田は顔を崩して言った。
「これなら、いつまでも練習ができるな」
 県の公立高校としては初となる人工芝の利点を竹田は口にする。
「安全面からいっても大きい。なんでもできます。コンタクトを含めて、初心者に思い切った練習をさせられる。これまでの土のグラウンドと違って、ジャージーが汚れません。保護者や下宿生の洗濯の手間が省けます」
 それ以上に胸にあるのは、主将の北村同様、「感謝」の気持ちだ。
「知事を含め県や学校関係などたくさんの方々の協力でできあがりました。よろこびを感じ、大切に使わせていただきます。自分たちのホームを大事にする選手を育てたい」
 勝つためには、「感謝の念」を下地にした「人間的成長」が不可欠だとする竹田にとっては、その象徴を手に入れたことになる。
 御所実グラウンドは全国の高校チームが集まり、「道場」と呼ばれる。昨年7月に行われた「御所フェスティバル」には全国から32校が集まった。その理由は、御所工時代を含め同校で28年目を迎える竹田の人望だ。
「見られたら、また新しいのを作ればいい。応用して行けばいいだけです」
 胸襟を開く人付き合いは他に類を見ない。
 本格的使用は5月4日。こけら落としとして、御所実と縁の深い春日丘(愛知)、脇町(徳島)、摂津(大阪)など各地のチームを招待して試合が行われる。OB戦もあり、元日本代表主将でキャップ68を持つNO8菊谷崇(キヤノン)も出場する予定だ。
 御所実は今春、第17回全国高校選抜大会に出場。予選Cグループで準優勝する神奈川・桐蔭学園に31−31と引き分けるも、総得失点差で予選敗退となった。主将の北村は人工芝をリベンジのツールとする。
「選抜では最後まで走り切れず、バテて負けました。でもこのグラウンドがあれば、コンタクトも鍛えられるし、アジリティー(敏捷さ)、ハンドリングなんかも間違いなくよくなります」
 新入部は新寮を持ったこともあって42人。3年前から学区が撤廃され、全国から進学が可能になった。今年は宮崎、徳島、愛知などから新入生がやって来た。少子化の時代、部員数は部史上最多の92になる。
 奈良県の旧国名は大和。この地域は平城京に代表されるように古来より日本の中心だった。今、御所実が楕円球を志す15歳を、そして他校の指導者やチームを呼び寄せる。
 人工芝化したグラウンドでチームが目指すのは、悲願の全国制覇である。
(文:鎮 勝也)

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新しくできた人工芝グラウンドに布団を敷いて寝るLO竹山晃稔選手

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