【トップイーストDiv1】クリーンファイターズ山梨が地域一体の声援で今季初勝利
秩父宮に花園、国内に名スタジアムと呼ばれるラグビー場は数あるが、その景色の美しさという点で、筆者は山梨の御勅使南(みだいみなみ)ラグビー場を最高のラグビー場の一つに挙げたい。四方をアルプスの山々に囲まれた清浄な山の空気、なにより手入れの行き届いた天然芝のグラウンドは、山梨を訪れたビジターチームが口をえてその美しさを讃える。
そんな美しいグラウンドをホームに持つ、トップイーストDiv1クリーンファイターズ山梨が今シーズン開幕2連敗と苦しんでいる。初戦の横河武蔵野アトラスターズには25-42、第2節の東京ガスブルーフレームスには19-40と、個々の動きでは互角以上のプレーを見せるシーンもあるものの、苦杯を舐める試合が続いた。
今シーズンの山梨のキーマンは、リーグワンから移籍してきたロトアヘア・アマナキ大洋(前NECグリーンロケッツ東葛)、トニシオ バイフ(前三菱重工相模原ダイナボアーズ)、そしてもうひとり、ワーキングホリデーを利用してラグビーをするためにオランダからやってきた、ヨラン・スクーンマーカーだ。これらの新戦力がSO清水晶大(関西学院大)が引っ張る山梨のプレースタイルにシンクロできるかが鍵だ。そしてここまでの2試合はまだその融合が完成していなかったことが露呈してしまった結果と言えるだろう。

対する明治安田ホーリーズは山梨とは好敵手という関係にある。2024年シーズンにはグループB(現在のDiv2)では1勝1敗で共にAグループ昇格、2025年シーズンは26-24、34-32と拮抗した試合をかろうじて山梨が制した。
「今明治安田がやろうとしているラグビーは、音楽に例えるとジャズみたいなイメージです」。独特の喩えから明治安田長田悟ヘッドコーチは今シーズンの戦術面について語ってくれた。
「今のラグビーの主流は音楽で言えばオーケストラ。指揮者が緻密にタクトを振って、演奏者は譜面に忠実に演奏する。でもうちは少し違うことをやりたい。自由な発想で仲間の判断に他のメンバーがアジャストしてプレー継続する、いわばジャズのような考え方のラグビーです」
とは言え、明治安田も山梨と同じく今シーズンまだ結果を出せていない。開幕戦の東京ガスは7-34、秋田ノーザンブレッツ戦は26-33とこちらも2連敗となった。特に秋田戦は26-26で迎えた後半38分ゴール前50センチまで迫るも得点できず、逆に43分に逆転のトライを許すという悔しい負けを味わっている。
山梨はまさに長田HCの言うオーケストラのような緻密なラグビー。SO清水はさながら指揮者といったところ。果たして全く異なるラグビーの完成を目指す両チーム、現時点での答え合わせの意味を込めて、10月11日1時、キックオフの笛が吹かれた。

試合は山梨がリードする展開でスタートするも、前半20分からは明治安田の時間となった。ハイボールを奪って1トライを返した直後、ゴール前のブレイクダウンからFL小柳圭輝(早稲田大)が押し込んで明治安田が14-10と逆転。小柳は早稲田でAチームで出場した実績のある選手で、明治安田は他にも慶應大でキャプテンを務めた今野勇久、今年の新人古屋健太朗は東海大Aチームと、大学強豪校で見知った顔がずらりとならぶ。

こうした、個々のスキルもあり伝統校で鍛えられたディシプリンもしっかりした選手同士がお互いの意思を瞬時に通わせて「アレンジ」をし始めたら、相手チームはもう何をして良いかわからないうちに失点を重ねることになるであろう。長田HCが「ジャズ」という面白い喩えで語ったビジョンは、噛み合えば予測不能な破壊力を秘めたラグビーとなる。
しかし、後半に入って自分たちの理想とする形を体現したのは山梨だった。中でも注目は先にキーマンに挙げたヨラン・スクーンマーカー。豊富な運動量とフィジカルの強さで後半だけで3トライを挙げ、ディフェンスでも「バチン」という気持ちのいい音をグラウンドに響かせるタックルで明治安田の前進を止めた。
これに刺激されたのか、アマナキ大洋とトニシオの動きもシンクロを見せる。トニシオがペネトレーターとしてボールを前に運び、アマナキ大洋は3トライを叩き出し、日本代表キャップ保持者としての決定力を示した。

「山梨は所詮外国人頼み、そこさえ止めれば怖くない」
数年前、各チームからの山梨の評価にはこんな声が多かった。この日も結果として外国出身選手の活躍が目につくが、注目すべきはそのオプションの多彩さだ。FB具志堅竣祐(山梨学院大)、FL原田季弥(流通経済大)など、試合中相手チームから名指しでマークを受ける「やっかいな」日本人選手も出てきている。
「15人が一つのビジョンを共有する」という山梨小池善行HCの緻密に設計されたゲームプランを忠実に再現する山梨のラグビーがこの日はピタリとはまった。大型の外国人は有効なカードの一つとしてうまくいかされたにすぎない。終わってみれば76-26と、好敵手明治安田を大きく引き離す結果で今季初勝利を得た。
大きな手応えを得た山梨は、一応はそのスタイルの完成がようやく見えたかに思える。次戦は今回の明治安田と互角に戦った秋田戦。ここで真価が問われるだろう。
一方の明治安田は、この日まだその目指すスタイルの完成を見せることはできなかったと言わざるを得ない。しかしまだシーズンは2ヶ月を残す。12月5日には聖地秩父宮でのホーム戦もある。対戦相手は奇しくも同じ山梨だ。それまでにどこまで長田HCのラグビーが完成度を上げられるのか、その答え合わせをするまで明治安田のシーズンは終わらない。
試合後にはPlayer of the Matchのセレモニーが行われ、受賞者のスクーンマーカー(186cm)とほぼ同じ背丈の女性がプレゼンターとして現れ、会場がざわついた。女子プロバスケWリーグの山梨クイーンビーズのダラーメ・マレム・ドイ選手だ。山梨をスポーツで盛り上げるために両チームは交流があり、この日は選手全員がスタンドから声援を送っていた。
このほかにも、試合前には地元南アルプス市市長、富士川町町長を迎えたオープニングセレモニーがおこなわれ、この時期が旬の特産品シャインマスカットが両チームに贈られた。秋晴れの美しいラグビー場では、クリーンファイターズの試合に地域のさまざまな人が集う。これもまた美しい風景である。




