【コラム】若きラグビーマンに捧ぐ「リレー日記のすすめ」
東大ラグビー部が、全部員スタッフ間で繋いでいる「リレー日記」を2011年に再開し、今年で15年目を迎える。
この青春の軌跡は、膨大なデータベースとしてホームページに蓄積されている。
書く内容は自由。ラグビーに対する情熱、苦悩に留まらず、個人の率直な思い、夢や主張、楽しいジョークなども差しながら、自己開示する本音も随所に垣間見られて、若者の素直なみずみずしい文章が、老境の筆者の心を刺激する。
あの頃の、土埃の中の暗闇を、もがきながら走っていた自分に戻れる瞬間でもある。東大リレー日記の抜粋から、学生スポーツの価値を考えてみた。
「副将Mからバトンを受け取りました。主将Kです。相手を青天させるタックル、吹き飛ばすキャリー。真のラガーマンである彼のことを本当に尊敬しています。試合で誰よりも身体を張ってくれました。彼の不器用なみんなへの愛が僕は好きでした。・・・シーズンに入る前に個人的なテーマを設定した。チームが勝つために主将としてあるために、そして自分が自分であるために、自分が誰よりもプレイヤーとして成長すること。・・・自分はあの状況において、その時できるベストを尽くしたと思う。・・・今の東大の中の尺度で自分の目指すプレイヤー像を決めるな。志を高く持て。トップレベルの選手のプレーを目標として、そこに絶対到達できると信じて日々成長しろ。・・・最後の京大戦を前にして思うことは、やはりラグビーは最高のスポーツである、ということだ。ここまで魂が震えるスポーツはない。こんなに仲間と、心を、魂を通わせることのできるスポーツはない。最後の80分、ラグビーに没頭して、仲間と魂を通わせて、死闘を制そう。」
「すでに最後のリレー日記を書き終えた4年生。そしてこれから書く4年生もきっと、それぞれラグビーという競技と、今年の東大ラグビー部というチームに真剣に向き合っていた。自分はどうだったろうか。本当の意味でのチームの一員、本当の意味での仲間になることができただろうか。・・・残されたのはあと2戦。このまま引退を迎えてしまえば、これから先も、何も成し遂げることのない、つまらない人生で終わってしまうことだろう。この4年間は、いったい何のための4年間だったのか。その答えの欠片を掴み取るために、走り、あたり、闘う。」
「入部当初から今日に至るまで、ラグビー部のリレー日記という文化がわたしにとってとても愛おしく、大切なものでした。・・・結局のところ、ラグビー部のスタッフって、わたしには難しかったなあ。・・・そんなことを考えながら、残り数回となった部活に日々足を運んでいます。
様々な視点の中に、簡単には形容できないそれぞれの苦しみや悲しみ、怒り、悔しさ、やるせなさ、違和感、劣等感など様々な感情があり、じゃあそれらはわたしの人生における自己成長のために絶対に必要なものだったのかと言われると、素直には頷けないものも多いです。今のわたしには、この東大ラグビー部という組織との出会いを「運命」などという単純で甘美な言葉では片付けられません。・・・ただ一つだけ言えるのは、今4年前に戻れるなら、絶対に東大ラグビー部には入部しないということです。
全部最初からやり直せるとしたらそうはしていないかもしれないけれど、目の前にある今この瞬間を最大限一生懸命に生きたからこそ辿りついた境地や感覚というものが、これまで部活を続けて来る上で幾度もありました。そしてそれを作り出してくれたのは、大体の場合広報でした。これほどまでにたくさんの方の力を感じた経験は未だかつてありません。本当にありがとうございました。
ラグビー部の広報には常に、わたしのやりたい何か、わたしをワクワクさせる何か、わたしを突き動かす何かがありました。それらにひとつひとつ取り組んでいるうちに4年間が終わろうとしています。」
以前取り上げた、同郷の佐々木凛も今春東大を卒業し、官僚の道へ歩をすすめる。
彼女がラグビーと出会い、幼少期のタグから、高校、大学と男子の中で、ラグビーと真剣に向き合ってきた。次は彼女のラストリレー日記である。
「Sからバトンを受け取りました、佐々木です。1年生の頃から彼のラグビー愛がこの学年を引っ張ってきたように思います。彼は何も考えていないように見えて自分の信念と強い軸を持っているので、私が弱気になった時に背中を押してくれたところもありました。・・・東大ラグビー部に入部して、今振り返ると、私が一番幸運だったことは、この同期たちに出会ったことだと思う。彼らのモチベーションの高さやまっすぐさに驚いた。自分が働きかけたことに対して、それ以上の反応が返ってくることが多く、これは高校ではなかった経験で感激した。そして彼らとなら本気で頑張る意味がある、絶対にみんなと結果を出したいと強く思うようになった。・・・私の心の中には、自分たちの代で歴史を変えるためにはどうすればいいのか、ということが常にあり、それが部活を頑張る最大のモチベーションになった。・・・スタッフ新歓は2月から始動し死ぬ気でやれることをやった。そしてついにラストシーズン、スタッフ長になって、首脳陣や他の選手ともコミュニケーションをとっていくうちに、自分の役割は、単に自分の仕事に対して責任を負うのではなく、スタッフ組織全員の仕事に対しての責任をとる、ということだと気づいた。・・・春シーズン、夏合宿としんどい練習を選手とスタッフみんなで乗り越え、確かな手応えと周りからの期待を背負った対抗戦が始まった。しかし、東大は対抗戦B4位となり、入替戦という目標には届かなかった。この4年間、この同期たちと歴史を変えるということだけを目標にしてやってきたからこそ、明学戦後、武蔵戦後の悔しさと喪失感は言葉にできず、気持ちを切り替えることは非常に難しかった。正直今でも心の底から悔しいという気持ちを拭い去ることはできない。もう一回、もう一年チャンスがあれば、と思わないこともないが、学生スポーツというのは4年間限りのもので、この限られたチャンスで挑戦することに意味があるとも思う。・・・この4年間の意味は、今すぐには分からないだろうし、とにかく頑張ったからそれでよかった、というような薄っぺらい言葉では片付けたくない。でも今後の人生でこの経験や選択を正解にするのは自分自身だし、私はここを選んで正解だったということは、自信をもって言える。今の、そして未来の後輩に伝えたいことは、このラグビーという素晴らしいスポーツに出会い、東大ラグビー部に入るという選択をしたあなたは絶対に間違っていないということだ。・・・
最後に、私を4年間この部活に夢中にさせてくれた最高の同期たちに。みんなに出会って一緒に同じ目標を追えたことが、この4年間の一番の財産です。おっとりしていてゆるふわで、でもラグビーに対しては真面目で大学生とは思えないくらい純粋で素直なみんなとだったからこそ、私もここまで頑張ることができました。本当にこの代でよかったと心から思います。引退してもずっと大事な仲間でいましょう。
・・・次は見事面白さランキングNo.1の座に輝いたSにバトンを渡します。Sは普段は人の話を100倍は盛ってみんなに広めるし、いつも本気なのかネタなのか分からないトーンで絶妙に失礼なことを言ってくるふざけたやつですが、彼の部活に対する熱意や意識の高さは紛れもない本物で、練習中と練習外のオンオフがきっちりしているところはとても尊敬しています。肩が万全ではない中、チームを引っ張ってくれてありがとう。来年はみんなで旅行でも行きましょう、北朝鮮とルワンダはさすがになしです。」
現役でないと書けないピュアな文章の中に、青春の宝石のような光が散りばめられている。
ラグビーというスポーツの素晴らしさ。仲間と真剣に打ち込むことの尊さ、その熱い時間が、生涯を貫く掛け替えのない経験であることを改めて感じる。
青春のすべてを部活に注ぎ、高い目標と向き合い、練習と試合に明け暮れたあの頃を思い出すと、先輩や後輩とも、あまり話もせずに卒業してしまってはいないだろうか。
特に強い部活では、分刻みでトレーニングメニューが組まれているので、僕たちの頃は唯一、練習後のボール磨きの時間だけが心を許す対話の時間だった。
東大や京大などがおこなっている「リレー日記(ブログ)」は、自由な思いを発信し、チーム全体で受け入れ、共有する。ラグビーというチームの心がひとつになることを大切にする競技において、それぞれの個性、人間を深く知り絆を強めることは、目指す勝利に間違いなく近づくはずだ。大所帯の中で話せる部員は限られていても、この日記を通して相互理解は深まり、生涯、全部員との絆が繋がれていくような気がする。
この取組みを参考に、学生スポーツ最大の醍醐味でもある、生涯の友を作ること。志を一にする多くの同志と本音で語り合い、共に闘い、ラグビーの絆がそれぞれの人生を彩ることを願う。
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