日本代表 2025.06.27

JAPAN XVで先発の小林賢太。日本代表入り前に見せたフロンティア精神。

[ 向 風見也 ]
JAPAN XVで先発の小林賢太。日本代表入り前に見せたフロンティア精神。
宮崎合宿で取材に応える小林賢太(筆者撮影)

 地獄の日々を思い出す。

 今年初めてラグビー日本代表に選ばれた小林賢太は6月24日、候補選手として参加した約2年前の代表合宿について話す。

 当時はワールドカップフランス大会へ向け、千葉県内での選考キャンプへ集められていた。

 ここでは、現在静岡ブルーレヴズでアシスタントコーチを務めるジョン・ドネヒュー氏が柔術のエッセンスを採り入れたタックルセッションを敢行した。

 ぶつかり合いから寝技に転じるバトルを繰り返させ、合間にひとりでも膝に手をつけていれば全員に罰として腕立て伏せを課した。

 あえて極端に過酷な鍛錬を乗り越えさせ、列強国と戦う自信と身体を育もうとしていた。

 参加者のひとりだった小林は、「この発言がどう(適切)なのかがわからないですけど」。紳士的な前置きのもと、その折は給水すら許されない状況だったことも匂わせた。

「そこのタフさ、フィジカルバトルは自分の糧になっている。『あれを超えるものはない』と言えるくらい過酷なトレーニングでした」

 代表は体制を変えて久しい。しかし、いまなおハードワークを貴ぶ。16日からの宮崎合宿では、高強度の実戦練習を重ねていた。

 約9年ぶりに復職したエディー・ジョーンズのもと、目指しているのは『超速ラグビー』だ。ハイテンポな連続攻撃を命綱とする。最前列で身体をぶつける左PRながらハンドリング、ランニングを長所とする小林は、まさにうってつけの存在にも映る。

 身長185センチ、体重115キロ。芦屋ラグビースクール、東福岡高、早大を経て22年に東京サントリーサンゴリアスに加入の26歳は、「ボールキャリー(突進)、プレーの判断スピード、シンプルなスピード感で他の1番(左PR)と差別化できる」。指揮官のジョーンズはサンゴリアスの要職者でもあっただけに、ボスのニーズや特徴を小林は理解する。

「自分の強みをしっかり出す」

持ち場のスクラムにも抜かりはない。

 6月上旬の候補合宿で好プッシュを重ね、アピールに成功した。正代表入り後はアシスタントコーチのオーウェン・フランクス氏のもと、低い姿勢のフォームを涵養している。7月5、12日に2連戦するウェールズ代表がスクラムにこだわるのを踏まえ、緊張感を持つ。

 押しつぶされ、反則を犯せば、劣勢に持ち込まれるからだ。

 キーワードには「芝」を据える。日本代表が世界的には小兵揃いなのを踏まえ、低さを意識する。膝を「芝」とすれすれに位置まで沈め、重圧に耐えたい。

「テストラグビー(代表戦)ではセットプレー(スクラムなど)が本当に重要になる。ひとつのペナルティーで自陣に入り込まれたら、自分たちの首を絞めるような流れになってしまうので。大きく重い相手に対して、自分たちの低さで対抗する。逆にここで優位に立てば、ゲームの流れでも主導権を握れる」

 23年のサバイバルは勝ち残れなかったが、ワールドカップと同時期に伝統的な連合軍のバーバリアンズに参加。現オーストラリア代表NO8のハリー・ウィルソンと親交を深めた。

 社員からプロ選手に転じていた24年7月には、サンゴリアスの許可を取ってウィルソンの実家にホームステイした。現地のクラブで汗を流した。

 自分の世界を自力で作る。
 
「向こうの文化に触れられたことで見聞を深められたというか、視野が広がりました」

 6月28日には東京・秩父宮ラグビー場で、JAPAN XV名義でのマオリ・オールブラックス戦に先発する。

 国内リーグワンでの活躍が代表入りに繋がっているのを踏まえ、「光栄に思います。ただ、ここで結果を出さないと、ここまで積み重ねたものは意味がないと言わないまでも…」。分岐点にいると自覚する。

「ここからが自分の成長するいいタイミング。(本番へ)1日、1日、積み重ねていけたら」

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