日本代表 2025.06.23

【サクラフィフティーン PICK UP PLAYERS】辛い経験でまた成長する。大塚朱紗[SO/アルカス熊谷]

[ 編集部 ]
【サクラフィフティーン PICK UP PLAYERS】辛い経験でまた成長する。大塚朱紗[SO/アルカス熊谷]
父・三郎さん、双子の兄である隆史さん(秋田NB)、淳史さんもSO(撮影:長尾亜紀)

 大塚朱紗は昨秋から小型犬のキャバプーを飼い始めた。

 名前は「アン」。フランス語の「1」を意味する。

「私は練習を休めないタイプですし、ハードな練習が続く中で日々の癒しがほしかったんです」

 大学時代より長く在籍したRKUグレースから、アルカス熊谷に移籍した今季。所属会社の理解もあり、よりラグビーと向き合う時間を増やせている。

「ラグビーを見る時間に充てることが多いです。今シーズンのリーグワンは面白い試合が多いし、どの試合も満遍なく見ます。純粋にファンとして見たいんですけど、分析に近い感じで見てしまいますね」

 それがSOの性なのだろう。サクラフィフティーンが格上の相手を破るのであれば、僅差に持ち込むのがマスト。接戦の多い今季のリーグワンを参考にするという。

「自分たちのアイデアのひとつにもなります。こういう時はこう選択するのか、と知識が増える。競った試合は念入りに見ています」

 5月に26歳を迎えた大塚にとって、2024年シーズンは不本意な結果だった。サクラフィフティーンでは
依然として背番号10で試合に出続けるも、チームを勝たせられなかった。得意のランも鳴りを潜めた。

「自分の持ち味が出せた感覚はないですし、チームに合わせようという気持ちが強かったのかもしれません。あまり自信がなかったのかもしれない。苦いシーズンでした」

 激しく詰めてくる相手に対してランの選択は難しい。それならばと、外を生かすためのパスを放った。
 ただ、「SOは仕掛けられる方が相手に脅威」と思い直し、WXVの3戦目(ウエールズ戦)は意識的にランをチョイス。気持ちに揺らぎがあった。

「チームに合わせることも必要だし、その場での判断も大事。流れを読んで自分が自信を持って指示できれば。SOはキングでないといけない」

 やきもきすることも多かったが、いまはこう思える。「このシーズンがあったからこそ、また強くなれるんだろうな」と。そうやって、これまでも前に進んできた。

「過去にも辛い時期はたくさんありました。その辛い時をどう乗り越えるかが、アスリートにとって大事だと思っています」

 司令塔は生半可な気持ちでは務まらない。それをあらためて実感した。
 はじめ、その責任を背負うのは「めっちゃ嫌だった」と回想する。大学1年時、グレースの井上愛美HCにFBからの転向を言い渡された。

「でもやればやるほど、勝つことがこんなに楽しいんだと思えました」

 その味を知っているからこそ、悔しかったのは初参戦の前回W杯だ。全3試合に先発したが、未勝利に終わる。「勝たせるSOになる」と固く誓った。移籍の決断もそこにある。

「勝負の世界は甘いもんじゃないと、もう分かっています。勝つためにやらなければいけないことを考えながら、日々トレーニングしています」

 悔いのない日々を過ごす。

(文/明石尚之)
※ラグビーマガジン7月号(5月23日発売)の「女子日本代表特集」を再編集し掲載。掲載情報は5月15日時点。

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