【ラグリパWest】試練を越えて。林宙 [京都市立京都工学院高校/ラグビー部/CTB]
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ケガをした。
林宙(はやし・そら)は飛び級による「ラグビーU20日本代表」をあきらめざるを得なくなった。先月4日で18歳になった。
右の肩が軽く抜ける、いわゆる「亜脱臼」に初めて見舞われた。大阪・堺での候補合宿中だった。林は3つの選考試合の皮切り、4月23日のRH大阪戦に先発していた。
その前半である。
「逆ヘッドでタックルしてしまいました」
逆ヘッドとは頭が相手の太もも裏に行かず、前に入ることを言う。ケガの可能性が高くなる。林は遅れを感じたため、夢中だった。
攻撃時にも再度、同じ右肩を痛める。
「痛かったです」
前半で交替した。病院でMRIを撮った。
「肩と腕の間が広がっているね」
関節の状態を指摘された。
「あーあって、めちゃめちゃ落ち込みました」
ハンサム系は下を向く。楕円の輪郭の中にある切れ長の目、俳優の青木崇高似か。
林は京都工学院の3年生。最初の発表メンバー36人で高校生は2人のみだった。CTBの林とSHの荒木奨陽(しょうや)だった。周囲は大学の1年や2年生だった。
林の受傷の4日後、京都工学院は福岡の宗像に移動している。サニックスのワールドユース大会に参加するためだった。
「林は右腕をつっていました」
監督の大島淳史はその時の状況を話す。
国内外から16チームが参加した国際大会は京都工学院にとって、BKの二枚看板の一枚が欠ける。3勝2敗の13位に終わった。
二枚看板のもうひとりは杉山祐太朗だ。2人は昨夏、U17日本代表に選ばれた。韓国、中国などとの交流競技会で林は左WTB、杉山はSOで全3戦に先発し、全勝とした。
この代表チームの監督も大島だった。
「林が最高の評価を受けました。身体能力は抜群に高い。あのサイズで速く、強い。高校生で見たことはありません」
サイズは181センチ、95キロである。
林は50メートルを6秒2で走り切り、ベンチプレスとスクワットの最大値はそれぞれ130キロと200キロを計測する。
「U20の候補合宿でも、フィジカルは負けていなかったと思います」
それだけの鍛錬を積んできた。
林は7時からの1時間ほどの朝練習を欠かさない。火曜と木曜は部としての朝練習が30分ほどあるが、それ以外も自らを追い込む。
「設備がいいですし、鍛えることが好きです」
白い歯を見せる。
京都工学院のウエイト部屋はリーグワン並みの設備を誇る。ハンマーストレングス社製のウエイト機器がずらりと並び、スクワットは15人ほどが一斉にできる。機器の色はチームカラーの深紅に塗られている。
チームで林はアウトサイドCTBだ。
「パスをもらえて走れます。ディフェンスに行くレンジ(範囲)も広いから面白いです」
外側固定のCTBは接点により近くなるため、外へ逃げる速さと当たり強さも要求される。リーグワンでは外国人選手の定位置だ。大島の言う能力の高さはそのポジションによっても証明されている。
この京都工学院に入学した理由がある。
「違う人ともやってみたいと思いました」
林の出身中学は京都市立の洛南。ラグビー部からの進学はひとりだった。同級生は京都成章や新田、東海大大阪仰星などを選んだ。
この中学、そして高校で林は田中史朗の後輩になる。SHだった愛称「フミ」は、当時の伏見工から京産大、三洋電機(現・埼玉WK)と進み、日本代表キャップ75を得た。林もそうなる可能性を秘めている。
競技を始めたのは小4から。洛西ラグビースクールに入った。小6の1年間はアウル洛南ジュニアでプレーした。
「試合数が多かったです」
中学では洛南での部活に専念した。
「コンタクトやタックルが楽しい。体ぶつけるのが苦じゃありません」
ラグビーがもっともしっくりきている。小学校の時は野球、水泳、乗馬、相撲などもやった。6人兄弟の一番上ということもあって、多くの競技を経験させてもらえた。
その子供の頃からの好物は焼き肉と思いきや、果物のいちごだ。
「1箱くらいは全然いけます」
いちごはビタミンC、葉酸、食物繊維などを含み、健康維持や疲労回復にいいという。
旬の赤い実を食しながら、復帰をにらむ。
「6月の中旬には戻りたいです」
現在は隔日でリハビリを続けている。
「電気を当ててもらったり、チューブを使ってインナーマッスルを鍛えています」
走ることはまったく問題ない。
ケガの間、京都の府総体(春季大会)の決勝があった。5月25日、京都工学院は京都成章に10-7として優勝する。それは同時に雪辱になった。2か月前の全国選抜大会では8強戦で24-34と敗北した。京都成章は決勝で桐蔭学園に0-36で敗れている。
林不在でもチームはその成長を示す。攻撃はSO杉山とSH片岡湊志のハイパントで意思統一を図る。林が戻れば、得意プレーのひとつに「ハイボールキャッチ」を挙げるだけに、その奪還力が増すのは間違いない。
林は高校最終学年の目標を掲げる。
「日本一です」
試練を乗り越え、京都工学院として初めて、伏見工から数えて5回目の冬の全国優勝にチームを導きたい。
昨秋の府予選決勝では京都成章に10-8と競り勝ち、9大会ぶり21回目の冬の全国にこぎつけた。期待は高まる。その京都工学院の一員としてとして頂点を目指すことは、個人としての代表入りよりも、より団体競技らしい。素晴らしいことに違いない。