モンペリエ加入の元スコットランド代表スチュアート・ホッグ、再生へのストーリー。
年が明けて後半戦に突入したフランストップ14は、今節も各スタジアムでドラマが繰り広げられた。
目につくのがモンペリエの躍進だ。モンペリエは昨季、現ジョージア代表ヘッドコーチ(以下、HC)のリチャード・コクリルをスタッフのトップに迎えたが、開幕戦でラ・ロシェルに勝利したものの、その後6連敗でコクリルはアシスタントコーチのジャン=バティスト・エリサルドと共に解任。
フィリップ・サンタンドレに代わってディレクター・オブ・ラグビー(以下、DOR)に就任した元フランス協会会長のベルナール・ラポルトが、「今、契約可能なコーチから2時間で決めた」と新たにHCに迎えたのが、当時プロD2のブリーヴを解任されたばかりのパトリス・コラゾだった。そしてFWコーチにクリストフ・ラビット、BKコーチにヴァンサン・エチェトと急ごしらえのスタッフで残りのシーズンを戦い、9勝17敗の13位でシーズン終え、入替戦に勝ってなんとか残留を決めた。
今季 は「クラブのアイデンティティを守ることが最重要」と、モンペリエのエスポワール(アカデミー)チームのHCだったジョアン・コデュロをHCに任命した。コデュロは自身もこのクラブの育成センターで育ち、プロとしてもモンペリエでプレーした。
さらに現役を引退したばかりのブノワ・パイヨーグがアタックコーチに、ジョフレー・ドゥメルがディフェンスコーチになった。ドゥメルはモンペリエ生まれのモンペリエ育ち。パイヨーグはラ・ロシェル生まれだが、モンペリエで13年プレーした『クラブの顔』で、「クラブのアイデンティティ」への思いは強い。
しかし、コーチとしての経験がない。コデュロにとってもプロチームのHCは初めての挑戦だったが、この若いコーチ陣の指導が実を結び始めたようだ。
前節は敵地に乗り込んで、今季ホームで無敗だったクレルモンに土をつけた。今節は4位だったバイヨンヌをホームに迎え、6トライを決めて42-10と大差で勝利。12月6日のチャレンジカップのドラゴンズ(ウエールズ)戦から5連勝で、トップ14の順位も翌日に行われた試合でクレルモンがヴァンヌで勝利を挙げるまで暫定6位になった。プレーオフ進出圏のトップ6が見えてきた。
「今週の目標は、『目標を変えること』だった」とコーデュロHC。
原点に戻り、ディフェンスとセットピースを強化した。ラインアウトコーチのアントワンヌ・バッチュもモンペリエOBでコーチ歴4年、スクラムコーチのディディエ・ベスはモンペリエでプレーを終えた後、コーチに転向しジョージア、クレルモン、リヨンを経て、モンペリエに帰ってきた超ベテランだ。
「勝てなくてもコーチがパニックにならず、僕たちを信じてくれていた。このスタッフのおかげで自分たちらしさを取り戻せた。この夏から本当に良いチームができていて、それが試合でディフェンスやモール、セットピースに現れているのが嬉しい」とFLアレクサンドル・ベコニエの顔がほころぶ。
今季のリクルートも当たった。ワラビーズのHOジョーダン・ウエレセ、イングランド代表のNO8ビリー・ヴニポラがラックを支配する。ヴニポラに至ってはゲームキャプテンを任されるほど、チームの中心人物になっている。
そして一際活躍が目立つのは、元スコットランド代表FBスチュワート・ホッグだ。ちょっとしたパスやキックに、スコットランド代表100キャップの実力を感じさせる。モンペリエでは10番での起用が続いており、巧みなゲームマネジメントでチームを操縦する。
ゴールキックも担当し、特に前節のクレルモン戦では、50mの距離からの2本を含めた7本中6本を成功させ、17点を叩き出してモンペリエの勝利に大きく貢献した。
その試合後、トップ14の会見に初めて姿を現した。
「チームメイトは信じられないぐらい温かく迎えてくれ、モンペリエで新しい人生を与えられました。ジョアン(コデュロHC)とベルナール(ラポルトDOR)が僕にチャンスをくれました。彼らにとても感謝しています。ベルナールから連絡を受けた時、『僕は身体的に問題がある』と言いました。するとベルナールは『身体じゃなくてメンタルだよ。モンペリエに来れば良くなる』と言ってくれた」
ホッグはメンタルの健康を優先するために2023年のワールドカップを辞退し現役から引退していたが、モンペリエの幹部が復帰させた。イギリスのタブロイド紙が、彼の夫婦間の問題や法廷闘争を盛んに報道していた時期だった。モンペリエに来てからは、10月26日のラ・ロシェル戦(16-0でモンペリエ勝利)で右手を骨折し、約1か月半グラウンドから離れることを余儀なくされた。
「多くの過ちを犯しました。でも、そこから多くを学びました。多くの人に助けてもらいながら、もっと良くなるために努力してきました。モンペリエにいるということは、僕がどんな人間なのかを証明するチャンスなのです。身体面、精神面、感情面で多くを学びました。この試合の後、涙が出てきた。この勝利には大きな意味があったのです。勝つチームの一員でありたい。本当に感謝しています」
「ずっとフランスでプレーしたいという気持ちがありました。だから最大の努力をしています。本当にここでの生活を楽しんでいます。新しい人生です」とさらに続けた。
FBではなく、SOでプレーすることについては、「SOは好きだけど、長い間このポジションでプレーしていませんでした。でもチームのためにできることはなんでもしたい。今日の試合も完璧ではなかったし、限界を感じる部分もあったけど、大きな喜びを感じています。もっとフランスのスタイルに適応しなければ。熱くなりすぎて叫びすぎるところがあるから、冷静にならなくちゃ」とコメントした。
ここまで書いて1月9日のホッグへの判決を待った。スコットランドの裁判所はホッグに、元妻へのハラスメントで罰金600ポンドと1年間の社会奉仕活動を命じた。
禁固刑は免れた。本人、クラブからのコメントはまだない。