【ラグリパWest】ラグビーで生きる。雲山弘貴 [花園近鉄ライナーズ/FB]
雲山弘貴はラグビーで生きることを決めた。
将来が可視化できる社員からプロになった。同時に東京SGから花園Lに移籍した。公式発表は今年8月。新しいチームの正式名称は「花園近鉄ライナーズ」である。
すべては出場機会を求めてのことだ。今年7月に25歳になった。
「自分では新人の賞味期限は3年だと思っています。価値を落としたくはありません」
東京SGではFBとして2年を過ごす。初年度のリーグワン出場は2。昨季は0だった。
今、雲山は明るい。シーズン前の4試合のうち3つに先発した。すべてFBだった。
「楽しいです。自分では試合ごとによくなっている感じがしています」
両の瞳は細長いカプセル状の印象で、笑う時には黒になり、むにゅーっと左右に伸びる。そんな愛嬌のある表情が多くなった。
その獲得には花園Lの若返りの意図もある。FBの軸は33歳の竹田宜純(よしずみ)と32歳で日本代表キャップ7を持つセミシ・マシレワ。昨季18の公式戦での先発は6試合ずつだった。ディビジョン2(二部)に降格直後という状況も獲得に拍車をかける。
雲山の魅力は187センチ、95キロの体を利した突破や60メートル級のキックだ。ヘッドコーチの向井昭吾はさらに重ねる。
「際(きわ)のパスも出せます」
身を挺して、ぎりぎりのところで放れる。人を生かすこともできる。
向井は63歳。現役時代は同じFBだった。東芝府中(現・BL東京)では技巧派としてならし、日本代表キャップ13を得た。その経験を雲山に伝える。グラバーキックは左オープンの場合、左ではなく、内側になる利き足の右で転がしても構わない。
「その方が次の一歩を早く出せます」
雲山は納得している。
花園Lのベテランファンの期待度も高い。東屋(あずまや)あさ子は試合を見た。
「あの子、走れるよ」
東屋は「花園ラグビー酒場」の女将だ。公式戦はほぼ毎試合現地で見る。眼は肥えている。
花園Lは関西のチームだ。雲山にとっては帰郷的な意味もある。ラグビースクールは5歳から西宮甲東に入り、中3まで過ごした。
「友だちがやっていました」
小2から小4の3年間は神奈川の田園に在籍した。父の転勤だった。
高校は報徳学園に決めた。
「強いチームだったし、家からも近かった。チャリ(自転車)で3分くらいでした」
2年からFBのレギュラーになる。3年の全国大会は97回(2017年度)。8強戦で優勝する東海大仰星に20-50で敗れた。
敗戦にも高校日本代表に選ばれる。3年間、キックを磨いたこともその要因になった。
「山北さんに、足をまっすぐに振りぬく、などつきっきりで教わりました」
山北靖彦はOBコーチ。神戸製鋼(現・神戸S)のSOとして、1988年度から始まる全国社会人大会(リーグワンの前身)と日本選手権の7連覇の前段階を支えている。
大学は明治に進む。報徳学園のよい選手は紫紺に集まる。BKでは、雲山の入れ違いに梶村祐介、2つ上には山村知也がいた。梶村は横浜EのCTBで主将。日本代表キャップは2。山村はBR東京のWTBである。
1年の大学選手権は優勝する。55回大会(2018年度)は決勝で天理を22-17で破る。この新人年、雲山にはほろ苦さが残る。
「早明戦でFBで先発させてもらったのに、ミスを連発しました。最後は僕のノット・リリース・ザ・ボールで終わりました」
関東対抗戦での対戦は27-31だった。
非難がSNSに投稿される。
「見返そうと思って頑張りました」
翌年度から正選手になる。2年と4年の大学選手権では準優勝。56回大会は早稲田に35-45、58回大会は帝京に14-27だった。
社会人のチームは東京SGを選ぶ。
「小さい頃からのあこがれでした」
親会社的なサントリーでは酒販店の営業を任された。担当は新宿や原宿、渋谷など山手線の西側だった。
東京SGのFBを含めたバックスリーには日本代表キャップ55を誇る松島幸太朗や南アフリカ代表で39キャップを持つチェスリン・コルビなどがいた。層が厚かった。
移籍に関しては中靍隆彰、尾崎晟也、箸本龍雅の先輩たちにも相談する。中靍は9、尾崎は4、箸本は1学年上だった。中靍と尾崎は同じバックスリー。箸本はNO8で、明治の寮では部屋っ子だった。
「最後は自分の思い通りにやれ」
3人とも口をそろえて言った。
サントリーは今でも好きだ。ウィスキー収集も続けている。花園Lの片岡涼亮の誕生日には入手が難しい「白州」を贈った。
「お世話になっていますから」
片岡は表情を緩めながら言った。
「うれしいですね。ただ、僕は練習に集中するために5月からお酒は飲んでいません」
関西らしいオチがつく。
花園Lでは高校の同期とまた一緒になった。FLの宮下大輝とPRの高橋虎太郎である。
「宮下とは毎日、2分だけだけど自転車で一緒に帰っていました」
通学3分間の2分は大きい。7年ぶりに戻ってきた関西には自分を知る仲間がいる。
紺×エンジのチームでの目標を語る。
「全試合フル出場して、ディビジョン1(一部)に負けないチームになることです」
1年での復帰はマスト。それを果たせば、個人的な目標である「日本代表」も近づいてくる。張りのあるシーズンはまもなく訪れる。