タックルは勝ち負けに関係ない
若いみなさん、タックルしてますか?
「タックルは勝ち負けに関係なく、自分を表現できる最高のプレーです」
1980年代後半、同志社大学でFLとして活躍した谷口順一さんの言葉です。谷口さんは鋭いディフェンスを持ち味に1991年4月の日本代表北米遠征に参加しました。アメリカ、カナダとのテストマッチに出場できなかったため、キャップはありません。就職先は大手広告代理店の電通。強豪チームを選ばず、選手として第一線から退きました。
それでも、私は谷口さんの哲学が今でも忘れられません。
季節が進めば、練習試合や公式戦が多くなります。強豪校に在籍する選手以外は敗戦を味わうでしょう。時には連敗、さらには一方的な負けを経験するかもしれません。
そんな時でも、谷口さんが言ったようにタックルは勝敗に左右されません。
トイメンを吹っ飛ばす一撃は敗北の救いになるし、チームの士気を高めるのです。
どうすればよいタックルに入れるのか?
トップリーグ、近鉄ライナーズのFLタウファ統悦さんが解説してくれました。タウファさんは日本代表キャップ22。ハード・タックラーとして知られています。
そのポイントを列記します。
(1)基本的にはノミネート(指差し、声によるマーク確認)する相手の体半分内側に立ち、スピードを上げて間合いを詰める。その時、上半身はボクシングのファイティングポーズ。腕は広げたりせず曲げ、手は握り拳を作る。この姿勢が一番パワーを引き出せる。
(2)衝突する1、2メートル手前で素早く減速して、その場で小刻みに足踏みする。足の並びは平行。相手にステップを切らせる。
(3)左に逃げれば左足、右なら右足をすぐに踏み込む。自分の体前面を相手へできるだけ近づけ、踏み込んだ足と同じ側の肩で思いっきりヒットする。足と肩が同じタイミングで当てられると強さは増す。相手がまっすぐ進んできたらそのままぶちかます。
(4)目標は相手のへそ。腰にぶつかる。サイドタックルなら首は相手の背中に入れる。
(5)レッグドライブ(両足をかく)をして、相手を仰向けに倒す。その時、必ずボール保持者の上に乗る意識をつける。下敷きになると次の仕事、ボール奪取、あるいは相手の2人目に対するファイトができない。
――(1)の内側に立つ理由は?
「正面に立てば、アタック側にどちらにでもステップを切らせてしまうので、不利です。内側を抑えれば、相手は外側に動く可能性が高く追い込みやすくなります。マークが自分より明らかにスピードがあるなら外側に立つのもよいでしょう」
――(2)の足踏みをするのは?
「ステップの方向に素早く反応するためです」
――(3)ではなぜヒザ下へ入らない?
「動いている相手のヒザが自分の首や頭に当たり、ケガの可能性が高いからです。頭が下がっていれば相手の動きに対応できない。ハンドオフで地面に叩きつけられたりします」
――また(3)で、相手にできるだけ近づくのはどうして?
「近ければ近いほど力が相手に伝わります」
――(4)のへそを目標にするのは?
「へそは動きません。ステップに惑わされることがないからです」
タウファさんは理想的なタックルを身に着けるための練習も話します。
「(1)から(5)の動きを相手をつけてゆっくりやる。最初は数メートルの間隔で歩きながらで構いません。形を覚えれば、距離を広げ、スピードを上げていきます」
最後は体の強化部分を言います。
「一番大切なのは踏み込み。タックルは下半身主導だからです。重点を置くのは足の動きを作り出すコア(体幹)・トレーニング。腹筋や背筋ですね。あとはパワークリーン(地面に置いたバーベルを一気に胸元まで差し上げる)やスクワットなんかもいいと思います」
タックルで思い出すのは2004年度の第84回全国高校大会2回戦です。
福井の若狭が大阪朝高に挑みました。若狭は県立、野球県、初心者のみ。激戦区大阪を制したチームとの差は明らかでした。
若狭監督は朽木雅文さん(現若狭東監督)。兄に元日本代表CTBの英次さん(元トヨタ自動車監督)を持つ指導者は低く、激しいタックルを指示します。メンバーは60分間、ひたむきに相手に刺さり続けました。それでも結果は10-43。予想通り大差負けでした。
試合後、大阪朝高監督の金信男(きむ・しんなむ)さんは、わざわざ若狭のロッカーを訪れます。面識のなかった年下の朽木さんに両手で握手を求め、深々と頭を下げました。
「素晴らしいタックルでした。感動しました。私たち大阪朝高の原点を思い出させてもらいました。ありがとうございました」
勝者が敗者を讃える。そこにあったのは、見せかけではなく、心からの尊敬でした。タックルは勝負を超越したシーンを作り出すのです。
いいタックル、してみませんか?
チームのため、仲間のため、そして自分のために。
【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社)がある。
【写真】
タックルのやり方を身を持って教える近鉄ライナーズのタウファ統悦さん。
台になっているのは今季から広報になった京都大学アメリカンフットボール部出身の吉田悦朗さん。