国内 2024.04.18

タイスコアの裏側。ブルーレヴズが昨季王者のスピアーズに迫った「プラン」。

[ 向 風見也 ]
タイスコアの裏側。ブルーレヴズが昨季王者のスピアーズに迫った「プラン」。
タフな戦いでプレーヤー・オブ・ザ・マッチとなったブルーレヴズのチャールズ・ピウタウ (C)JRLO


 7-31。静岡ブルーレヴズは24点ビハインドでハーフタイムを迎えた。

 4月13日、年に一度は使う本拠地の静岡IAIスタジアム。この午後は、昨季王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイから今季同カード2連勝を狙っていた。

 今季就任の藤井雄一郎監督は、「ひとつのことに長けていてもひとつのことはものすごく弱いという選手がたくさんいるので、彼らの強みだけを出せるように日々、考えています」。チャレンジャーの立場であるのを踏まえ、特徴的な陣形とオープン攻撃を標ぼうする。

 この午後は後半に入ると、ベンチに並べるパワーランナーを次々と投入。前半に防御が乱れたことは計算外だったとしながら、残る40分を計算通りに進めるのを目指した。

「後半のメンバーだけでどう戦うかのトレーニングも(時間をかけて)していた」

 スピアーズに大型選手が多いのを踏まえ、互いに体力の落ちる終盤にエネルギーのある面子を並べたら優位に立てると踏んだか。あるメンバーは、「後半、スピアーズの足が止まるのを予想していた」と証言する。

 ビジョンを具現化したひとりは岡崎航大。後半開始からSHに入った。

 14-31で迎えた50分頃はハーフ線付近でクラッシュとリサイクルの連続だ。10フェーズ目で敵陣のやや深い位置に進むと、11、17、19フェーズ目では自身と同じタイミングで入ったLOのヴェティ・トゥポウへ放る。強引に突進させた。

「もともと、後半はパワーのある選手を準備してそこにボールを集めていくプランを組んでいました。(防御が)揃っていても強い選手に当てれば(つなげば)前に出られる。それをずっと継続してやろう、と」

 ここでは計20フェーズの攻めが未遂に終わりまもなく中盤に戻されるも、55分にスピアーズのハイタックルにより陣地を挽回。まもなくトゥポウ、さらにはNO8のシオネ・ブナ、PRのショーン・ヴェーテーといった大砲に球を預けた。

 まもなくペナルティキックからの速攻で、CTBのチャールズ・ピウタウがフィニッシュ。19-31。22分を残し、2トライ1ゴールでタイスコアとなる12点差にした。逆転圏内に入った。

 追われる立場のスピアーズは、前節までに僅差での惜敗を重ねていた。同じ過ちを繰り返したくないから、この日はただで転ばぬ意志を示した。19-31となった直後のコンバージョンでは、WTBの根塚洸雅がキッカーにプレッシャー。失敗を誘った。

 しかし、当の根塚は「自分たちのミス、レフリーとうまくいかないところがあって…」それでも、」。タックラーの立ち遅れをはじめ反則がかさみ、スクラムでの圧力と判定にも苦しんでいた。傾く流れを止めるのは難しかった。

「前半にうまくやれたからこそ、後半も同じようなラグビーをしてしっかりと点差をつけないといけなかった。そこができないのが自分たちの弱さだった」

 CTBの立川理道主将は言う。

「プレッシャーがかかっていたのは間違いない。アタックでもディフェンスでも、皆が同じ絵を見て戦うことが必要でした。でも、なかなか最後まで(意思)統一することができなかった。規律(の乱れ)もあり、簡単に相手にボールを渡し、簡単に穴を抜かれることが多くなってしまった時間帯に、相手にペースが行ってしまった」

 スピアーズを統率するSOのバーナード・フォーリーがイエローカードで去ったのは、73分のことだ。

 その約1分後には、ブルーレヴズが「ゴー! ゴー! レヴズ!」の声を背にピウタウが杭になったり、防御を引き寄せてスペースにさばいたりして、WTBのマロ・ツイタマが左端でダイブ。止めを刺す。26-31。

 圧巻だったのは最終局面だ。2名の数的不利を背負っていたスピアーズは自陣の深い場所で時間の浪費に没頭。複数人で束になり、楕円の宝物を守る。

 終了のホーンが鳴り、万事休すかと思われたブルーレヴズだが、FLの大戸裕矢は「もう、頭を突っ込んで、相手をはがしてボールを獲るしかない。お互いきついシチュエーション」。走者と援護役の間に人員を殺到させ、カウンターラックを決める。スピアーズのペナライズにつなげた。

 ブルーレヴズはすかさず反攻。殊勲のトゥポウがトライラインを割った。

 敗軍の立川が「すごくフラストレーションがたまっていますけど、全てがレフリーのせいではなく自分たちにも非があるかもしれない。受け止め、次に向かうしかない」と唇をかみ、事実上の最終局面についてこう言葉を選ぶ。

「どういう状況でああいうペナルティになってしまったのかを話し合いたいです。レフリーの意見が納得できるものであればいいですし、自分たちの意見もあります。どういう意図があったかを聞いて、関係性を作っていくのが大事です」

 ブルーレヴズのカウンターラックを食らった際にスピアーズの突進役だったHOの江良颯は、「システム(パスをもらう前の自身のポジショニングなど)のところを自分のなかで明確にできたら、(被ターンオーバーを)防げたところもあった」。最後は、自身と同じくアーリーエントリー登録だったトゥポウのグラウンディングを防ぐべく身を挺すも、及ばなかった。

「自分がどういう仕事をするのか、どんなプランでセイムページ(同じイメージ)を見るのか(について)、コネクトして(改善して)いきたいです」

 ブルーレヴズは第3節でスピアーズとぶつかった際も、似たような攻守逆転からラストワンプレーでの逆転に成功していた。スピアーズが随所に披露したしぶとさを、生来的に持ち合わせていたように映る。SOの奥村翔はこうだ。

「後半に自分たちのプランがはまった。全員が同じ方向を見ていた」

 順位はホストから順に12チーム中7、8位と、残り3節でのプレーオフ行きへ苦境を強いられる。元日本代表チームディレクターでもある藤井は「目の前に来た相手にひとつずつ勝っていくのがうちのスタイル」と締めた。

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