海外 2024.04.01

逆境を乗り越え今季初勝利。クルセイダーズの選手、ファンが笑顔に

[ 松尾智規 ]
逆境を乗り越え今季初勝利。クルセイダーズの選手、ファンが笑顔に
WTBジョニー・マックニコルのトライがチームに影響を与えた。(Getty Images)



「この数か月、特に感情的に厳しい時期であったことは間違いない」
 試合後にそう語ったのは、クルセイダーズの指揮官ロブ・ペニーだった。

 3月29日、クライストチャーチにあるアポロ・プロジェクツ・スタジアム(旧オレンジ—セオリースタジアム)でスーパーラグビー・パシフィックの第6節、クルセイダーズ×チーフスの試合がおこなわれ、クルセイダーズが37-26で今季初勝利を挙げた。

◆ケガ人続出で大ピンチのクルセイダーズ

 第5節を終了した時点で、12チームの中でクルセイダーズだけ勝ち星がなかった。順位は最下位。史上最低のスタートを切った昨年の王者は、自信を失いかけていた。
 昨年ワールドカップに出場したLOサム・ホワイトロック、SOリッチー・モウンガ、WTBレスター・ファインガアヌクが海外移籍、HOコーディー・テイラーは、シーズン途中まで休養。キャップホルダーのCTBジャック・グッドヒューもクライストチャーチを去った。

 この5人だけでも大きな戦力ダウンになる。それに追い打ちをかけるように、ケガ人が多発した。
 WTB/FBウィル・ジョーダン、CTBブレイドン・エノーの2人は、長期で離脱。FL/No8イーサン・ブラッカッダーもケガで出遅れている。

 シーズンに入ってからも負傷者が増えた。キャプテンの LOスコット・バレットが指の骨折。140キロの巨漢PRタマティ・ウイリアムズは、開幕戦でハムストリングを負傷した。
 第5節では、CTBデイヴィット・ハヴィリも負傷してケガ人のリストに入った。

 上記の選手たちは、すべて代表キャップを持っている。これほど多くの主力選手が出場できない状況は、クルセイダーズのファンでなくとも同情するだろう。

 そして、第6節のチーフス戦の試合当日には、この日のゲームキャプテンの予定だったSHミッチェル・ドラモンドの急遽欠場が発表された。不運が続いた。それが逆に選手を奮い立たせた。

ウォームアップでハドルを組むクルセイダーズのFW陣。(撮影/松尾智規)

◆逆境を跳ねのけ試合開始からエンジン全開のクルセイダーズ

 今季からクルセイダーズのヘッドコーチ(以下、HC)を引き継いだロブ・ペニー。開幕から5連敗とありプレッシャーを受けていた。
 しかし、試合直前のインタビューでは、意外にも明るかった。
「伝統的なクルセイダーズのパッションを持ち込む」という言葉を強調した。

 5連敗ながらも自信があるような表情。開き直ったとも言えるかもしれない。
 ちょっとしたボタンの掛け違いで物事が上手くいっていない事もあり、まずは基本に戻り、クルセイダーズ魂を復活させようという事だろうか。
 ピッチにいる選手たちに目を向けると、ウォームアップから気持ちが入っていた。試合に出ない選手も同じだった。2週前のハリケーンズ戦の試合前とは明らかに違って見えた。

 キックオフの笛が鳴る。あとのことなどまったく考えずに、キックオフからスイッチ全開だった。
 最初からクルセイダーズのパッションを出していた。それを感じた観客も力が入った。

 先制したのは、クルセイダーズだった。
 試合直前に急遽先発となった背番号9のノア・ホザムがラックサイドを抜けてチャンスを作る。インゴールに転がしたボールを15番チェイ・フィハキが競り勝って5ポインターとなった。(6分)

 勢いに乗ったクルセイダーズの攻撃は続く。
 12分には、今季ここまで存在感がなかったCTBリーヴァイ・アウムアがディフェンスを3人引きずってインゴールに迫った。クイックリサイクルからWTBのジョニー・マックニコルがインゴールに飛び込んだ。 

 クルセイダーズは、序盤で12−0とリードした。いいスタートを切った。当然スタジアムは盛り上がった。

 しかし、その後チーフスは、SOダミアン・マッケンジーの代役で背番号10を付けたジョッシュ・ジェイコムの積極的なランプレーで勢いをつけ逆襲に出る。
 17分、WTBエモニ・ナラワ、34分PRジョージ・ダイアーのトライで猛烈に追い上げる。
 一方のクルセイダーズは、24分にNO8カレン・グレイスがトライ。そして前半終了間際に司令塔ライリー・ホヘパがPGを決める。22−12とリードして折り返した。

 テンポの速い超エンターテイメントのラグビー。前半だけで両チーム合わせて5トライと、まさにスーパーラグビーだ。

◆後半も切れなかったクルセイダーズが今季初勝利!

 後半開始まもなく、スタジアムが一番盛り上がった瞬間がおとずれる。(42分)
 クルセイダーズの背番号2を付けたジョージ・ベルが、BKラインの間に走り込んでディフェンスの裏に出た。凄かったのは、ここからだ。FW第1列の選手がまるでWTBのようなスワーブでBKの選手を置き去りにしてトライを挙げた。ど肝を抜かれるとは、まさにこの事だ。
 このトライで27−12と再び突き放し、勢いから行くとクルセイダーズの勝利が近づいたと思われた。

 しかし、チーフスは59分にCTBアントン・レイナートブラウンが5ポインターとなり、ゴールも成功。27-19と追い上げる。
 8点差でセーフティーリードではあるが、勢いが増したチーフスがスコアーを挙げると試合が解らなくなる。スタジアムのファンはナーバスになっている様子だった。
 そんな不安を吹き飛ばしたのは、SOSを受けシーズン途中で8年ぶりに古巣に戻ってきたベテランのWTBマックニコルだった。 チーフスの攻撃を読んでパスコースに走り、見事にインターセプト。50メートルを独走してこの日2つ目のトライを挙げた。34-19と再び15点差とした(62分)

 この時点で試合が決まったかに思えたが、チーフスは諦めなかった。
 70分、途中出場のSHコーティス・ラティマがインゴールに飛び込み、34−26で8点差に迫った。再びナーバスタイムに入る。

 残り時間4分、チーフスが果敢に攻める。2週間前のハリケーンズ戦で最後に逆転された事が頭がよぎる。しかし、この日のクルセイダーズは、最後まで切れなかった。
 この試合、急遽キャプテンとなった背番号7トム・クリスティーがジャッカルでチーフスの攻撃を遮断した。その後クルセイダーズが1PG追加して、とどめを刺した。
 間もなく試合終了の笛が鳴る。6戦目にしてクルセイダーズの初勝利となった。
 苦しかった6週間。ピッチで選手たちは抱き合い初勝利を喜んだ。選手と共に苦しんだファンに笑顔が戻った瞬間だった。

 初勝利後に指揮官は、「間違いなく、とても良い気分だ。」と、素直に喜んだ。
 続けて、「私たちは、興奮しすぎることはできません、これは、始まりであり、繰り返す必要があります。」と、気を引閉める事も忘れなかった。
 この勝利で勢いがついた事は間違いない。今週末のバイウイーク明けのオーストラリア遠征からは、ブラッカッダー、SOファーガス・バーク、FL/No8クリスチャン・リオ・ウィリーが復帰予定。その後にキャプテンのLOスコット・バレット、PRウイリアムズ、HOテイラーなどが復帰してくる。

 ここから、逆境を乗り越えたクルセイダーズの反撃が始まる。今年のスーパーラグビーは、これまで以上に面白くなりそうだ。

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