コラム 2014.12.25

文武両道の神戸高専 ワイルドに全国優勝狙う

文武両道の神戸高専 ワイルドに全国優勝狙う

 5年制の高等専門学校は、中学校卒業後の生徒が工学や技術系の専門教育を受けるために作られた。
 そのチャンピオンシップ、第45回全国高等専門学校ラグビー大会が来年1月4日、12チームが参加して、兵庫県神戸市のユニバー記念競技場などで開催される。
 開催県を代表する地元・神戸市立工業高等専門学校は2年ぶり10回目の優勝を狙う。

 神戸高専のモットーは他の高専がそうであるように「文武両道」である。
 日々の授業は午前9時に開始され、午後4時20分に終了する。5時前から開始される練習は約2時間。水曜と週末土日のどちらかがオフになる。週2日休みを入れる理由を監督の小森田敏(さとし)は話す。
「2日ほど勉強に充てる時間を作らないとレポート提出や課題がこなせない。練習に集中させるためにもこの方がいいのです」
 実験や実習などで練習に参加できない生徒もいる。神戸工専の場合、中学内申書9教科5段階の満点45で36は最低ライン。推薦入試では40が要求される。偏差値は高く、スポーツ推薦もない。
 高校ラグビーとの違いを小森田は語る。
「高専は選手を5年かけて育てる楽しみがあります。1〜3年時は高校と変わらない。でも4年生からワン・ステップ上がる子が多い。そういう大きな成長を見られるのです」

 部員数は32。最上級生、大学2年生にあたる5年生はおらず、逆に1年生は14人いる。3人いるラグビー経験の新入生が積極的に同級生に声をかけた結果である。宝塚、尼崎、西神戸などのラグビースクール経験者は10人。これは全国の高専でトップの数字だ。
 運動場は広い。土ながら縦100メートル、横70メートルのフルサイズのラグビーグラウンドが2面入る。照明塔もあり、夜間でも練習に支障はない。環境はよい。

 昨年度の大会は最多優勝回数11の仙台高等専門学校名取キャンパスに準決勝で12−31と敗北した。仙台高専とは順調に行けば7日の準決勝で再戦する。小森田は昨年の負けを経験不足と指摘した。
「昨年は5年生が4人に4年生が0。絶対的な経験値や体力が足りなかった。でも今年は1年生が14人も入って来てくれたので、試合形式の練習も多くできました」
 実戦に近い形のトレーニングを繰り返すことで、楕円球に深くなじんだ生徒たちを目の当たりにして手応えは感じている。

 中心メンバーは4年生主将のFB梶原正鶴(まさたづ)とSOの近藤和人だ。ランニング能力のある梶原は5年生0のチーム事情を逆手に取る。
「上級生がいない分、下の子たちに十分なチャンスをあげられます。1、2年生の成長は急激です。問題はありません」
 164センチと小柄ながら前が見られる近藤の兄はU20日本代表でもある東海大3年の英人。WTB、FBとして活躍する2学年上の兄に常にリスペクトがある。
「僕たちも兄のように全国で勝てるように頑張りたいです」
 梶原は8時に登校。1時間の予習をする。近藤は西宮市内から神戸市西区にある学校まで1時間30分をかけて電車通学する。車内ではテキストを開く。時間を無駄にせず勉強に励む姿が神戸工専の日常だ。

 学校創立は1963年(昭和38)。今年52年目を迎える。電気工学、機械工学など5学科から成る。1学年は240人構成で1200人が在校。約2割、200人強が女子である。
 卒業時には就職、大学3年時編入、2年制の専攻科(大卒と同等資格を得る)の3つの選択肢がある。小森田は高専の強みを語る。
「専門的な教育を早めにやるので、編入時に大学から始める子たちよりもレベルが高い。実験なんかにも慣れていますよね」
 昨年2013年度は京都大、大阪大、神戸大など地元国立難関校へ進む。ラグビー部も2000年入学組は主将が神戸大、副将が広島大、1人が長岡技術科学大、1人が専攻科を経て大阪大の大学院へ進学している。

 ラグビー部の創部は1959年。前身の市立六甲工業高校時代に作られた。今大会を加えると全国大会には26年連続42回目出場。高専史上最多出場回数を誇る。
 1995年に筑波大学大学院を出た小森田が保健体育の教員として赴任して力をつける。1968年生まれで46歳の小森田は、熊本県立熊本第二高校から筑波大に進学した。現役時代はSH。大学ではRWC2019日本代表戦略室長の薫田真広の1年下になる。一昨年は高校日本代表の総務としてイタリア遠征にも帯同。コーチングのレベルは高い。

 11月に5チームが参加して行われた近畿大会は決勝で国立奈良工業高等専門学校に12−18で敗れた。準決勝で仙台高専に勝てば、決勝で当たる公算が大だ。全国大会での雪辱を期する梶原は力を込める。
「全国優勝を目指します」
 チームのニックネームは「WILD BOARS」。神戸の街を形作る六甲山系に多く生息するイノシシからつけた。勉学とラグビーの両立を目指す神戸の理系男子たちは、全国の舞台で「猪突猛進」を見せたい。

(文:鎮 勝也)

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社)がある。

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