国内 2024.02.05

チームファーストと真摯な姿勢。リッチー・モウンガ(東芝ブレイブルーパス東京)

[ 松尾智規 ]
チームファーストと真摯な姿勢。リッチー・モウンガ(東芝ブレイブルーパス東京)
チームの力を引き出す人。(撮影/松本かおり)



 ラグビーワールドカップで2大会(2019,2023年)続けてオールブラックスの背番号10を身にまとった男の姿勢は本物だ。

 今季から東芝ブレイブルーパス東京に入団したSOリッチー・モウンガは、ボーデン・バレット(トヨタヴェルブリッツ)、アーディー・サヴェア(コベルコ神戸スティーラーズ)、サム・ケイン(東京サントリーサンゴリアス)などが利用している、ニュージーランド(以下、NZ)側の言葉で言われているサバティカル(ワンシーズンの契約)ではなく、3年契約での移籍だ。 

 オールブラックスの選手がピッチに立つのは、2月末に開幕するスーパーラグビーのシーズン途中になることが多い。
 レギュラークラスならなおさらだ。年末のテストマッチ(2023年はワールドカップ)終了後、年が明ける前にチームに合流することはまれだ。

 しかしモウンガは、2023年のワールドカップが終わり11月1日にNZに帰国。その後、少しの休暇を取っただけで来日した。
 リーグワンの開幕直前に来日してきたサバティカル組より数週間も早くチームに合流した。

 東芝ブレイブルーパスにともに加入したFLシャノン・フリゼルもモウンガと一緒に来日。2023年11月25日には、2人揃ってプレシーズンマッチに出場するなど、チームにはやく適応しようとする強い意志が感じられた。

 その本気の姿勢をいかんなく発揮したのが1月27日にトヨタスタジアムで行われたトヨタヴェルブリッツとの試合だっただろう(リーグワン今季第6戦)。
 対戦相手のトヨタヴェルブリッツにはワールドカップ3大会出場の経験があり、ニュージーランド代表キャップ100を超えるオールブラックスの超大物、SHアーロン・スミスとSOバレットのハーフ団コンビが揃って加わっている。

 この試合ではオールブラックスの大物4人が出場とあり、試合の注目度は高かった。その中でももっとも注目されたのは、モウンガ×バレットのオールブラックス司令塔対決だったのは間違いない。
 しかし、フリゼル×ピーターステフ・デュトイの6番対決、リーチ・マイケル×姫野和樹の8番対決などの見ごたえのあるマッチアップがあり、スタジアムには、2万人に近い観客を集めた。

 試合は、ホームのトヨタヴェルブリッツが、2023年のワールドカップ経験者のSH福田健太が自陣から速攻を仕掛けてWTB髙橋汰地のトライを演出したプレーで先制した。
 日本代表の指揮官に返り咲いたエディー・ジョーンズHCの掲げる「超速ラグビー」にぴったりでサクラのジャージの背番号9獲得に向けてアピールした。

 福田の活躍で、ワールドクラスの大物選手を多く擁するヴェルブリッツがブレイブルーパスに今季初黒星をつけるかと思わせる立ち上がりだった。
 しかし、その後バレットがひざを痛めて退場してからは、トヨタヴェルブリッツは、流れに乗れなかった。

 10-7。東芝ブレイブルーパスリードで競っていた前半こそ静かだったモウンガは、後半に入るとワールドクラスのプレーを連発した。
 東芝ブレイブルーパスのFW陣の激しさと強かさがボディーブローのように効いてきてトヨタヴェルブリッツの脚が止まりだし、そこから一気にモウンガ劇場が炸裂したのだ。

 後半のモウンガは、何度もラインブレイクをして観客を沸かせた。
 そして追いすがろうとするトヨタヴェルブリッツに対し、確実に、何度かPGを決めた。最後は、自身のカウンターアタックからビックゲインをしてトライを演出。とどめを刺した。
 この試合のプレーヤー・オブ・ザ・マッチにふさわしい活躍だった。

 同僚のFLフリゼルは身体の強さを活かしてディフェンスをひきつけ、再三チャンスを作り出してトライを演出。ゴール前では持ち味のパワーを見せつけてのトライも取った。
 モウンガに負けないくらいの大活躍ぶりだった。

 一方のヴェルブリッツはバレットが退いてからは、ゲームをうまく作れなかった。
 キッキングゲームにおいても効果的なキックをできず、逆にモウンガを走らせることになってピンチを招いた。
 バレットの退場が戦況に大きく響いたのは否めない。

 後半頭からSHスミスを投入するも、ブレイブルーパスのFWにプレッシャーを受けた。スミスの持ち味である素早いボールさばきを活かせず、ベンチスタートの作戦が機能しなかった。

 バレットの退場もあったが、なによりもブレイブルーパスは強いFW、BKで常に相手にプレッシャーをかけ続けた。その結果、トヨタヴェルブリッツのCTBシオサイア・フィフィタ、WTBヴィリアメ・ツイドラキと言う素晴らしいランナーを機能させなかった事が勝因のひとつとなった。

 結局ファイナルスコアは28-12で東芝ブレイブルーパスが勝利した。

 トヨタヴェルブリッツにもチャンスはあったが、それをうまく阻止した東芝が一枚上と思うような内容だった。

 開幕直前に近い日付で来日したトヨタヴェルブリッツのスミス、バレット。東芝ブレイブルーパスのモウンガ、フリゼルはシーズンの3、4週間前に来日してきて、プレシーズンマッチも経験してチームに早く溶け込んだ。
 この違いも今回の試合内容、チームの成績に表れていると言えるだろう。

 今季来日したどのスター選手よりもモウンガ、フリゼルがチームにフィットしているように思える。
2人の影響で他の能力の高い選手たちの実力が発揮できる環境が整った。

 今季の東芝ブレイブルーパスは、優勝が狙えるチームになった。

 モウンガは、シーズン前に『すべてを東芝のために費やす』と会見で語っていた。
 実際に戦いが始まった後その言葉を、本気の姿勢で証明している。それは、NZでプレーしている時と何ら変わらない。



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