海外 2023.11.28

20年後の奥克彦記念杯。

[ 竹鼻智 ]
20年後の奥克彦記念杯。
昨年に続き、史上3度目の奥杯勝利を手にしたロンドン・ジャパニーズの現役チーム



 2003年11月、在英日本大使館の外交官であった奥克彦氏(当時45歳)がイラクへ派遣され、凶弾に倒れて20年の時が経過した。
 同氏をしのんで奥記念杯というラグビーイベントを開催し続けてきたレジ・クラーク氏は、秋の叙勲で旭日双光章を受章した。

 ロンドンに住む日本人ラガーと、国際都市ロンドンに住む様々な国籍のラガーたちで構成されるロンドン・ジャパニーズRFC。生前の奥氏もプレーしていただけに、この記念杯はチームにとってシーズンで最も重要な試合だ。

 2018年には、日本代表がイングランド代表と聖地トゥイッケナムでテストマッチを行うことになり、多くの日本人ラガーがロンドンまでやってきた。そこで、ロンドンジャパニーズは、35歳以上を対象としたベテランチームを結成した。

 政治家としても知られるクラーク氏はすかさず『Commons and Lords RFC』(英国国会議員ラグビークラブ)との試合をアレンジ。この年はロンドンジャパニーズベテランチームが勝利し、再び日本代表がロンドンへやってきた昨年は、英国国会議員チームが勝利した。

 今年はテストマッチはおこなわれなかったが、フランス、ドイツ、オランダをはじめとした欧州の日本人ラガーたちは今年もベテランゲームに出場するためにロンドンを訪れ、英国国会議員チームを49-5で破った。

招待選手を含めた35歳以上の選手で構成されたベテランチーム

 ベテランの試合はさておき、ロンドンジャパニーズの一軍の試合。今年は、奥氏がかつて所属したオックスフォード大と、ケンブリッジ大のOBで構成されるキュー・オケージョナルズと、オ大で奥氏が学んだハートフォードカレッジとの三つ巴でおこなわれた。

 ハートフォードカレッジを15-5で破った後、この日の最終戦でキュー・オケージョナルズと対戦したロンドン・ジャパニーズ。アマチュアの試合とはいえ、シーズン最高の大舞台に上がった選手たちは、キックオフ直後から激しい肉弾戦を展開。緊迫した試合は終了直前まで7-7と均衡した。

 ここで最後のペナルティーゴールを決め、ロンドンジャパニーズの勝利(10-7)を決めたのは、キャプテンの板橋英樹(SH)。イギリスで育ち、18歳でロンドンジャパニーズに加入した若者は今年で25歳。大学卒業後はロンドンの保険会社で働きながら、週末のラグビーを楽しみにする生活を送っている。

 見ている方が緊張感する試合終了前のペナルティキックだったが、「緊張などせずに、いつも通りに蹴りました」とは、大人になった英樹キャプテンの言葉。大事な試合の前にはチームにアドレナリンを注入し、巨漢選手たちを怒鳴り倒してチームを勝利に導くキャプテンには、誰もが尊敬の念を抱く。

 この日の一軍戦に出場した大藤勇太(FL/HO。在英日本大使館勤務)は、キュー・オケージョナルズの巨漢選手に強烈なタックルを見舞い鼻骨骨折という負傷を負ったが、その場にいた医療関係者が折れた鼻を元の場所に戻し病院送りが出なかった今年の奥記念杯。
 氏が生前に築いたラグビーを通じた友情と国際関係は、今もロンドンに生きている。


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