祝、太田の「速いおじさん」。トップリーグ100試合出場にみんな笑顔。
速いおじさん。
キャプテンのHO堀江翔太は、そう言った。愛着と尊敬の入り混じった表現と理解するのが正しいだろう。
9月21日に栃木県・足利でおこなわれたトップリーグ、パナソニック×宗像サニックス。この試合は、ワイルドナイツWTB北川智規のトップリーグ出場通算100試合目となる記念の80分だった。
「速いおじさん」とは試合後の記者会見にて、主将が先輩を短い言葉で表現したときに出たものだ。
「パナソニックには、社員選手とプロ選手がだいたい半分ずついます。智規さんは、その両方をうまくつないでくれる存在なんです。ついついプロ主体の方向に進みがちなスケジュールなどを、きちんと『社員選手はそれは無理やで』と言ってくれるから、あらためていちばんいいものに組み替えられる。プロはプロ間だけの関係、社員は社員間だけの関係になりがちですが、バランスをうまくとってくれる人です」
照れくさくて、なかなか本人の前では言えないであろう最上級の尊敬の念を、堀江主将は報道陣の前で語った。ロビー・ディーンズ ヘッドコーチも、「トモキは、経験、情熱、リーダーシップと、ワイルドナイツが自分たちのラグビーを体現する上でお手本になってくれる」と称えた。
記念の日を自らの4トライで祝った北川は、この日の集中力の理由をこう話した。
試合前に家族が花束を渡すセレモニーが催された。だから、「だれんようにしないと、と思った」。そう気を引き締めたことが高いパフォーマンスに結びついた。「若い頃よりはゲームが見えるようなったし、ラグビーを理解できている 」と語る31歳は、いまも飛び抜けたスピードを持ちながら、プレーの幅が広がっている。外から出す指示の声。それを聞いて仲間が落ち着く。ボールが有効に動く。この日自身が挙げた4トライのうちの多くは、北川の声が効いたのか、インサイドの選手がチャンスを作ってくれたもの。節目の試合に思ったのは「勝ちたいな」だけだった。周囲との共同作業で、それが最高の形で実現した。
80−7と大勝した試合後、主将の先輩評を伝えると、頬を緩めて言った。
「ヘッドコーチもプロですから、プロ主導で動きがちになりますが、社員選手としてはできないことはできないと伝えた方がチームとしてうまくいくと思っています。例えば試合の翌日にリカバリーの時間が入っていても、『その時間は僕らは会社ですよ』というときがある。限られた時間の中でやっている選手のことも考慮してもらいながら、みんながベストのものを出せるチームになればいいと思うので」
チーム・ファーストのスピリットは、年齢を重ねるごとに高まっている。
この日が入団4年目で公式戦初出場だったWTB酒井教全のことを喜ぶ。2006年の開幕戦、トヨタ自動車と戦ったトップリーグのデビュー戦はナイターだったと話し、「ホンマ懐かしいなあ」と駆け抜けた8年の重みを噛みしめた。
この日の試合後には、たまたまチームディナーが予定されていた。プレーオフ、日本選手権の出場も含めての通算キャップ100試合出場に到達したPR木川隼吾、NO8ホラニ龍コリニアシとは同期入社で、「3人まとめて(チームメートが)祝ってくれると思います」と言う表情からは、仲間思いの一面が伝わった。
太田のアニキは人間くさい。