日本代表 2023.07.24

敗戦でも気を吐いた李承信 好タックルの背景は

[ 向 風見也 ]
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敗戦でも気を吐いた李承信 好タックルの背景は
サモア代表を相手とした今年最初のテストマッチで10番を任された李承信(撮影:松本かおり)


 22-24。キック戦術の妙で概ね流れをつかんでいたサモア代表戦を、日本代表は落とした。要所で落球などのエラーが重なったためだ。

 7月22日、会場の札幌ドームで李承信は言った。

「一瞬の判断(の妙)、ひとつのミスというのが、テストマッチ(代表戦)、ワールドカップでは(一大事に)つながってくる。もっともっと成長していかないといけない」

 自分に矢印を向ける。

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 前半に2度、自陣の深い位置からのキックをタッチラインの外に出せないことがあった。

 いずれの局面でも、捕球した相手にカウンターアタックを許し、そのうちひとつは失点につなげてしまっていた。

 ふたつのシーンで共通するのは、攻守が切り替わった瞬間に球を託され、咄嗟に蹴っていたことだ。

 総じてエリア合戦を優位に進め、大外の走者を活かす好パスも配していたのだが、流れのなかでふいにパスをもらった時に判断を誤ったか。本人はこう悔やむ。

「(急場に)BKとしてうまくコミュニケーションが取れなかった」

 この日は持ち場のSOでスターターを務めた。15日に熊本・えがお健康スタジアムであった、対オールブラックスXV2連戦の2つ目から連続で先発した。

 進歩の過程を示した。

 というのも27-41で敗れた熊本の試合では、自身がタックルした際に相手に差し込まれることがあった。

 そのため週明けの練習では、防御時のポジショニングを見直したうえ、鋭く前に出て止めるよう再認識した。

 するとこの日の前半13分、自陣ゴール前で好タックルを決めた。相手のミスを誘った。直後の攻防では、グラウンド中盤左に転がるミスボールへ足をかける。自ら確保し、前進する。向こうの反則を引き出した。

 交代する約7分前の後半22分頃にも、効果的なタックルを繰り出している。

 今回の相手は、メンバーの平均体重が約8キロも重い。躊躇は厳禁だった。

「サモア代表はフィジカルが強いので待っていたら受ける(受け身になる)。ラインスピード(出足)を意識してできた。成長できたと思います」

 身長176センチ、体重85キロの22歳。大阪朝鮮高を経て入った帝京大を1年で退学し、2020年に現・コベルコ神戸スティーラーズに入った。2022年1月からの国内リーグワンで頭角を現し、同年、日本代表デビューを果たした。

 今年5月までのリーグワンでは、副将を務めるチームが12チーム中9位と低迷。自身も2月下旬以降、右眼窩底骨折で一時離脱した。

「チームメイトが練習やゲームで身体を張っている姿を見ると、自分のふがいなさを感じました」

 転んでもただでは、起きなかった。雌伏期間中、ブラウニーこと日本代表のトニー・ブラウン アシスタントコーチと定期的にミーティングができた。

 代表の首脳陣は当時、候補選手たちと頻繁に接点を持っていたのだ。李は感謝する。

「1~2週間に一度はZoomでいろんなディスカッションをしました。ブラウニーからは『自分がゲームに入った時にどうプレーするか』と置き換えながら(自軍の試合映像を)見て欲しいとフィードバックをもらっていました。いい時間は過ごせました」

 この対話で指摘されたもののひとつに、攻撃時のポジショニングがある。

 スティーラーズでの李は、おもに攻防の境界線の近くへ立つ。防御に迫りながらパスをもらうことで、得意のランニングをスムーズに繰り出したり、走ると見せかけて周囲にパスをさばいたりできる。

 ところが日本代表では、防御と間合いを取って動くように言われている。チームのコンセプト、国際舞台での現実を踏まえてのことだと、本人は説く。

「テストマッチでは相手のラインスピード(防御の出足)が速くて、フィジカル的なプレッシャーもある。どんどん外に(ボールを)運ぶという選択肢を増やすために、間合い、深さ(相手の届かない場所に立つこと)も大事になります」

 リーグワンの舞台には4月に戻り、6月中旬からの日本代表合宿に参加した。

「これだけ(の長期間)ラグビーから離れたことも初めてでした。復帰した時は、ラグビーボールに触るだけでも幸せでした」と強調するが、グラウンドでは「幸せ」と一緒に厳しさも感じる。

 キャンプ序盤は、午前中に約1時間ぶっ通しのタックルセッションを重ねた。膝や腰に手をつくのはご法度。ひとりの失敗により全員がやり直しを命じられることもあった。李は追い込まれた。渦中の発言。

「毎朝、皆が憂鬱になるくらいきついですね。…でも、その1時間だけで、試合の時以上の回数のタックルをしている。これを乗り越えると2~3倍は意識が高まるし、身体の変化も起こる。自分のためだと思って、取り組んでいます」

 サモア代表戦での好タックルは、オールブラックスXV戦で出た課題と向き合った結果でもあり、梅雨の時期から積み重ねてきた成果でもあった。

 いまは国内での試合期。ワールドカップ・フランス大会を9月に控え、李は松田力也らと定位置を争っている。淡々と「成長」し続ける。

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