「負けが成長に繋がっています」。稲場巧、日本代表初キャップ&初トライまでの競争。
ラグビー日本代表に微笑みのスクラメイジャーが加わった。稲場巧。身長175センチ、体重110キロの24歳だ。
所属する静岡ブルーレヴズのホームページでは、<試合前の勝負飯は?>というアンケートに<炭水化物>と回答。その心を問われると、大食漢の多い右PRの選手らしい回答で聞き手を和ませる。
「とりあえずエネルギーを入れようと、いろんな種類を摂ります。米だけじゃなく、パスタ、うどんも。PRなので味が濃いものが好きで、チャーハンとかも。…食べ過ぎたら怒られます」
9月5日、新潟・デンカビッグスワンスタジアム。カナダ代表戦で初陣を飾った。後半8分に投じられ、37分には代表初トライも決めた。57-12で白星を挙げた。
何より、見せ場のスクラムで低い姿勢でのプッシュを連発した。一線級にあって大柄ではないからこそ、大型選手にとって組みづらい高さで圧をかけられる。馬力がある。
強みを磨いた歴史を振り返ると、高校時代が頭に浮かぶ。出身の近大付属高では、高校のOBで花園近鉄ライナーズ(当時)の豊田大樹に師事。「スクラムの姿勢、見方について口を酸っぱくして言っていただいた。これが土台になっている」という。
「個の強さについて、教わりました。負けた時に、周りにではなく自分にベクトルを向けて、何が悪かったかを考えろと言われました。映像を確認し、自分の姿を見ることはいまでも大事にしています」
内部進学した近大でも持ち味を発揮し続け、卒業後はスクラムに強みと矜持と理論を持つ静岡ブルーレヴズ入り。今季からスクラムコーチという役職に就く長谷川慎氏が、かつてより独自のシステムを唱えた集団だ。長谷川は2016年からの約7年間、日本代表も教えた。
稲場も長谷川をはじめ、王国を築く面々の薫陶を受けた。
まずは長谷川が唱えるプラットフォームに触れた。組み合う8人が足の位置、バインドの仕方などが詳しく定められるなか、学びを得た。
「スクラムが好きなだけに自分で行きたがる(個人で前に出ようとする)癖があったなか、『スクラムは8人で組むものだ。前3人で頑張るより、後ろ5人の力を使ったほうが強いに決まっている。それをうまく使うことがいいPR(の条件)だ』と」
練習場でのトライアルアンドエラーでも伸びた。浮かぶ恩人の名前は数知れず。昨季おもにスクラムを教えていた田村義和アシスタントコーチ(現ライナーズ)、同じ位置で長らく主戦級だった伊藤平一郎、練習で対峙する左PRの山下憲太、同期入団のPRで高卒ルーキーだった本山佳龍…。
「練習中にむちゃくちゃ押されることもあります。ただ、そのたびに引き出しが増えているというか、負けが成長に繋がっています。平一郎さんのところに映像を持って行って『これどうですか?』と聞きに行くことも、山下憲太さんにその日の感触を聞くことも。あとは、負けたら佳龍と練習しまくります」
特に本山とは、競うようにウェイトトレーニングとタイヤ引きに没頭してきた。
「僕には5個下の妹がいて、4つ下の彼は弟を見ているような感じ。どん欲に成長しようという意欲が伝わってきて。うかうかしていられないな、とも。下からも突き上げがあるなか、上に追いつきたい気持ちも。その相乗効果が、自分にいい影響を与えています」
実質0年目の24年度から公式戦のフィールドに立ち、今年6月まであった直近のシーズンでは計14試合に出た。その流れでジャパンにのぼり詰め、チャンスを掴んだのだ。
12日は東大阪市花園ラグビー場に出向く。パシフィック・ネーションズカップのアメリカ代表戦でリザーブに並ぶ。「こういう環境でラグビーができるのが楽しくて…」と高揚感を隠さない。




