コラム 2026.06.04

【コラム】自分らしくいられる場所でした。デーヴィッド・ブルブリング[クボタスピアーズ船橋・東京ベイ]

[ 明石尚之 ]
【コラム】自分らしくいられる場所でした。デーヴィッド・ブルブリング[クボタスピアーズ船橋・東京ベイ]
引退後は家族の待つ南アフリカに帰国し、父が興した工具の販売会社を継ぐ。「ドライバーなどの手工具が中心ですが、ドリルや脚立、ねこ車なども扱っています」(撮影:舛元清香)

 クボタスピアーズ船橋・東京ベイで広報を担う岩爪航さんが、これでもかと称えた。

 プレーオフ準決勝。15番のショーン・スティーブンソンがチョークタックルで試合を終わらせた直後、話題の人、デーヴィッド・ブルブリングは拳を突き上げるでもなく、膝を地面について噛み締めるでもなく、押川敦治に真っ先に駆け寄った。

 左手で肩をポンポン。右手で握手を求めた。ともすると、キックオフで逆転負けのきっかけとなり得るミスを犯した若き青年を気遣ったのだ。

 岩爪さんは続ける。
「グラウンド内外で大きな存在でした。僕ら事業スタッフとも、クラブハウスですれ違うと握手をするんです。それを後ろで見ていた(メルヴェ)オリヴィエたちも同じような行動を取るようになりました。背中で示すリーダーです。でも、普段はロッカールームでずっと冗談を言って笑っているんです」

「ディフェンスでは僕らが大事にしている『CARE』(思いやり)を一番に体現してくれます。その貢献は個人スタッツには現れません。それもまたラグビーって感じで、いいですよね」

 2019年に入団して7シーズン在籍。1年目からルアン・ボタとLOでコンビを組み、ツインタワーと称された。

 スピアーズの近年の成功を支えた功労者は、今シーズン限りでの現役引退を発表した。今年の4月だった。

 埼玉パナソニックワイルドナイツとの激闘を終えた後、岩爪さんは言った。
「DB(愛称)について、伝えたい話があるんです。取材当日に話しますね」

 それが今回の取材のメインテーマだ。待ちきれずインタビューの前日に電話すると、「実は…」と教えてくれた。

「準決勝の後のロッカールームで涙を流していたんです」

 199センチ、113キロ、3人の子を持つ36歳の大男が、人目をはばからず流した涙。そのわけを聞くことからインタビューを始めた。

「涙もろいタイプではありません。あの時は感情が溢れてしまったんだと思います。クボタでの時間を本当に楽しみましたし、この場所が大好きでした。本当にいろんな感情が込み上げてきました。クボタでの僕の旅は長いものでしたから。このシーズンをどう締めくくれるかを楽しみにしています。決勝戦が待ち遠しいです」

 現役ラストゲームを決勝で飾れる選手はそう多くない。「本当に楽しみ」と繰り返し言った。

「僕たちはこの場所にたどり着くために1年間ずっと努力してきました。良いパフォーマンスを見せたいです。最後の試合が決勝になり、ただただ幸せです。感慨深い気持ちはありますが、とても楽しみにしています」

 幕引きには申し分ない舞台だ。対峙するコベルコ神戸スティーラーズにはブロディ・レタリックがいる。世界最高峰のLOだ。

「彼のことはリスペクトしていますし、これまでのキャリアで成し遂げてきたことも素晴らしいと思います。ただ、決勝では自分たちがどういうプレーをするかに集中したい。もちろん、彼と対戦できることも楽しみです」

 ミドルエリアでのコリジョンに始まり、ラインアウト、モールでも意地のぶつかり合いとなるだろう。DBも頷く。

「間違いなく激しい戦いになると思います。そこにクボタは誇りを持っていますし、そのための準備もしっかりしていきます」

 優勝への思いは人一倍強いつもりだ。

 初優勝を遂げた3季前は、決勝戦をスタンドから見つめた。レギュラーシーズンの終盤に肋骨を骨折していたからだ。
 昨季は初めてリーグワンのファイナルに立つも、今度は東芝ブレイブルーパス東京に敗れた。

「3シーズン前に優勝したことは誇りに思っていますが、やはり決勝でプレーして優勝したい。こういう試合はそう何度も経験できるものではありません。接戦になると思いますし、その戦いを楽しみにしています」

 南アフリカのポートエリザベス出身。スポーツ好きの兄と同じように、さまざまな競技に触れた。

「水球、クリケット、サッカー、パデル(テニスに近いラケット競技)、あとはゴルフもやりました」

 ゴルフはスピアーズでも一番上手いと評判だ。その真意を問うと「いい選手も増えましたけど、おそらくまだトップです」。ハイスコアは「71」というから、プロ並みであることは間違いない。

「兄がいつも僕をもっと良くなれるように後押ししてくれました。本当に大きな存在でした。どんな競技でもベストを尽くして、一生懸命やろうとしていました」

 そのハードワークはそのままLOのポジションに生きる。高校を卒業した19歳でプロラグビー選手になった。
 翌年にはU20南アフリカ代表に選ばれ、日本にも遠征した(同僚にはサンウルブズにも在籍した元南ア代表のSHルディー・ペイジがいた)。

 ただ、順風満帆なラグビー人生ではなかった。

 ライオンズ、キングス、ブルズと国内で活躍の場を移したが、強豪のブルズではスーパーラグビーでの出場機会を掴めず。1年で地元のキングスに出戻りとなった。追い打ちをかけるように、キングスはその年に財政難に見舞われた。

 契約は打ち切りとなり、2016年からウエールズに渡った。3年の長期契約をスカーレッツと結んだ。
 しかし、当初の目標としていた同国の代表選手として2019年のワールドカップに出場することは叶わなかった。

「キングスでは家族や友人の近くでプレーできたので本当に楽しかったです。残念ながら資金難など厳しい時期もありました。
 スカーレッツでの時間も本当に楽しかった。ヨーロッパで異なる文化やラグビースタイルを経験できたことも良い経験でした。ただ、所属クラブが再編の時期で、契約を延長できませんでした。
 キャリアには浮き沈みがあります。ケガもありましたし、さまざまな困難もありました。でも本当に楽しんできたキャリアですし、振り返った時に満足できると思います」

 スカーレッツ退団後は母国に戻る可能性も残す中、スピアーズ入りを決める。結果的にそれが最良の選択となった。

「4年目のシーズンが終わった時にはもう(契約は)終わりかなと思っていたし、2シーズン前にはもう引退かなと思うこともありました。でもここを離れるのは本当に難しかった。来週の別れも簡単ではないでしょう。もちろん、最後は素晴らしいパフォーマンスをして優勝で終われればと思っています。でも仲間たちに別れを告げるのは寂しいです」

 苦労した時間が長かったからこそ、スピアーズでの日々がより濃いものになったのだろう。
 このクラブの良さに「人」を挙げた。

「チームメイトや友人たち。そして、良いカルチャーと素晴らしい環境があります。勝利を目指し、高い基準を求める文化がある。一方で、みんなで楽しく過ごすこともできる。だから本当に居心地の良い場所でした」

 自身が日本で長く活躍できたわけを聞いても、似たような言葉が返ってきた。

「本当に良いチームに恵まれたからです。良い文化が良いチームを作り、勝つ文化を生むと信じています。お互いを楽しみ、お互いを思いやるほど、仲間のためにもっと頑張ろうと思えるものです。それが成功に繋がったと思います。コーチ陣やクラブも素晴らしいスタッフと選手を集めてくれました。僕がここにいる間のほとんどのシーズンでプレーオフに進出できた。それは本当に素晴らしい経験でした」
 
 常に優しく、周りを巻き込むキャラクターだ。チームメイトからは「アニキ」と慕われ、みな「結婚するならDB」と口を揃える。

「そう言ってもらえるのはありがたいですね。僕は2人の姉と兄、そして働き者の父と優しくて思いやりのある母のもとで育ちました。小さい頃から冗談を言ったり、楽しんだりするのが好きでした。場を和ませることができますからね。クボタには家族と同じように自分らしくいられる環境があります」

 準決勝の後に流した涙のわけが、分かった気がした。

【筆者プロフィール】明石尚之( あかし ひさゆき )
1997年生まれ、神奈川県出身。筑波大学新聞で筑波大学ラグビー部の取材を担当。2020年4月にベースボール・マガジン社に入社し、ラグビーマガジン編集部に配属。リーグワン、関西大学リーグ、高校、世代別代表(高校、U20)、女子日本代表を中心に精力的に取材している。

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