![「自分もチームも弱い」から始めた。楢本幹志朗[筑波大/SO]](https://rugby-rp.com/wp-content/uploads/2025/09/KZIR3171.jpg)
「自分もチームも弱い」から始めた。楢本幹志朗[筑波大/SO]
ただ、この明大戦勝利にはまだ前段があった。
新チームの活動がスタートする年明けよりも前の話だ。
4年生たちは、対抗戦を6位で終えた前年の反省を始めていた。
「去年は個人としてもチームとしても思い出したくないぐらい辛いシーズンでした。ただ、こんな言い方は良くないけど、逆に対抗戦でシーズンが終わったから僕ら4年生は真剣に話し合えたと思います」
選手権出場を逃したチームをいかに立て直すか。
各々が本音をぶつけた。言いたくないことも言い合った。
筑波大には花園で優勝を経験したり、世代別代表常連の選手もいれば、高校からラグビーを始めたり、合同チーム出身だった選手も在籍している。
バックボーンが違えば、意見もやはり違う。
〈本気で日本一になる気があるのか〉
〈6位だったチームが日本一を掲げるのは無謀ではないか〉
といった具合に意見は割れた。それでも、キャプテンの高橋、バイスキャプテンの楢本らが日本一への熱い思いを伝えた。「最後はみんな納得してくれました」。
では、具体的にどうやって日本一になるのか。さまざまな視点から課題を洗い出した。その一つがウエートだった。
「帝京大にフィジカルで勝つためには、ウエートは避けられない。授業はあるけど、無理をしてでも早朝からやろうと」
選手たちが自主的に集まり、週に4回は朝の6時半からウエートに励んだ。
メニューはストレングス委員会のリーダーを担う髙木海斗が中心となって作った。時にはリーグワンのクラブに聞きに行き、新しいメニューや考えを仕入れた。
はじめは寝坊での遅刻や無断欠席をする選手もいたが、リーダー陣がその甘さを排除した。口酸っぱく声をかけ、妥協を許さなかった。
「髙木たちがやってくれていることに応えるには、僕らリーダー陣が嫌われたとしても厳しく言わないといけない。いまはそういう遅刻はほとんどありません」
楢本自身は、身体を万全な状態に戻すことから始めた。
右ふくらはぎの手術に踏み切る。実は2年前に肉離れを起こし、その状態が徐々に悪化していた。
「そのときは少し痛いくらいだったので続けていたのですが、肉離れの時に起きた内出血が固まって、筋肉の動きを邪魔していました。最後の方は直立もできない状態で…。軸足が定まらないまま、昨シーズンを過ごしてしまいました」
夏前までのリハビリ期間中は仲間と同じくウエートを追い込み、下半身の強化に成功。寮生活でない中、カロリーやタンパク質の量など食生活にも目を光らせ、体脂肪率を5%弱減らした。
「すごく動きやすくなりました。それがキックの安定感にも繋がっていると思うし、後半のきつい時間帯でもスプリントできるようになりました」
ただ、昨季の不調の原因はメンタル面にもあった。
上級生となって「チームを勝たせたい」という気持ちが強過ぎるあまり、余裕を失った。一つのミス、一つの負けに固執し、負のスパイラルに陥っていた。
「伊藤耕太郎さん(明大/現・BR東京)、髙本幹也さん(帝京大/現・東京SG)が卒業されて、3年生のときは対抗戦で10番をずっと背負ってきたのは僕しかいませんでした。絶対に対抗戦でチームを全勝させようと。でも、一度そういう思いは捨てました。やってきたことに自信はあるけど、僕が弱いという自覚、去年は6位だということを認めることから始めました」
嶋﨑達也監督から「もっと自分に矢印に向けていい期間もある」とのアドバイスを受け、チーム運営を他の4年生に託した。
おかげで自身のコンディションを心身ともに整えられた。
「春は佑太朗もJTS(ジャパン・タレント・スコッド)で不在だったので、オンフィールドでは前川(陽来/バイスキャプテン)が引っ張ってくれました。ジュニアやCチームも4年生がまとめてくれたし、外から一人ひとりの成長が見られて4年生を誇らしく思えました」
いまは秩父宮ラグビー場での慶大戦を控える(9月28日)。
昨季3位、全国4強のチームを破ったからといって、慢心はない。
「対抗戦の厳しさは4年生が1番知っています。一戦一戦、同じ気持ちで挑まないと勝てません。この1年、(前年の)6位から日本一まで駆け上がるストーリーをずっと描き続けてきました。周りから見ると無謀と思われるかもしれないけど、僕らだけは信じ切ろうと。そのためにどうすればいいかをずっと考えてきました。今年はみんなが自信を持てていますし、僕も信じています」
