国内 2024.06.15
【連載】プロクラブのすすめ⑰ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 自分たちで夢を描く。

【連載】プロクラブのすすめ⑰ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 自分たちで夢を描く。

[ 明石尚之 ]

――それでも赤字だったのは、思ったよりも利益が上がらなかったということでしょうか。

 スポンサー売上の伸び悩みも影響しましたが、それ以外の事業においても利益を高めていけなければいけないと感じています。その方法は、売り上げを上げるか、コストを減らすかの二つしかありません。
 コストに関しては3シーズンを振り返って、もう一度改善できるところがないか、まさに今、議論しています。

 ただ、今季は五郎丸くん(CRO/今季限りで退任)が知恵を出して、大きなコストをかけずとも、良い演出ができる工夫をしてくれました。
 自衛隊の方の協力を得て飛行機を飛ばすこともできましたし、ワイルドナイツとのOB戦も開催できました。もちろん出場していただいた方々に交通費はお支払いしましたが、お金をかけてゲストを呼ばなくてもお客さんに満足していただける企画を提供できました。

――そのほか、課題感を感じている領域は。

 スポンサー収入は伸びが鈍化しています。営業担当の社員を増やして臨んだシーズンだったのですが、県内企業へのアプローチの仕方を変えたり、商品のラインナップを広げることをやっていかないといけないと感じています。

 もう一つは広報戦略です。SNSはかなり頑張って情報発信をしてきたのですが、もっともっとメディアの皆さんに記事の売り込みをしていきたいと思っています。

 この4月から、北海道日本ハムファイターズで広報業務に従事していた笹村(寛之)さんが来てくれました。彼はファイターズが北海道に移転してまもない時からエスコンフィールドができるまでのチームの成長に貢献してきた。昨年は社会貢献活動の優れたロールモデルを表彰する「HEROs AWARD」にも、彼の手がけた社会貢献活動が表彰されました。

 まさか来てくれるとは思っていなかった人材ですが、ブルーレヴズのブランディングを再構築してほしいと思っています。選手一人ひとりやラグビーという競技にスポットが当たるようなやり方をプランニングしてもらっている最中です。
 情報発信の量だけでなく、クオリティもブラッシュアップされていくと感じています。

――スポンサー収入で苦労している要因は。バスケチームを経営してきた時との違いは。

 Bリーグの時は、リーグが年々発展していくのが目に見えていたし、バスケ人気も高まっていた。そうした環境要因も、スポンサー獲得には追い風だったと思います。

 ラグビーが好きな方や昔からのファンであればラグビーに触れる機会も多いと思いますが、あまり関心のない方にはラグビーの盛り上がりを肌で感じられていません。
 リーグワン決勝の日のニュース番組を見ていたのですが、19時のNHKのニュースでは大相撲とBリーグのみでラグビーは取り上げられていませんでした。夜のスポーツ番組も決勝の結果は少しの時間だけでしたし、他局ではそれなりの時間は確保されていましたが堀江(翔太)さんにフォーカスがあたっていて、優勝した東芝さんの取り組みなどはあまり語られませんでした。

 リーグワンのプレゼンスがもっと高まれば、ラグビーのチームをスポンサーするということに対して、ステータスを感じてくれたり、理解が高まると思っています。
 Jリーグのクラブのスポンサーをするとなれば、「そんなにすごいことできるのか」というイメージがありますよね。

 頑張っているから応援する、ラグビーが好き、スポーツによる地域貢献が大事と感じてスポンサーしてくれる方々がラグビーではほとんどで、ラグビーをスポンサーすることで大きな宣伝効果があったり、企業イメージの向上に繋がるという域まで達していない。試合数が少ないよね、と言われてしまうことも多々あります。

 18試合という歪なフォーマットを是正して試合数を増やしたり、ホストゲームは全試合ホストスタジアムで開催するようにルール化したり、完全プロ化、Bプレミアのような新たなリーグ創設などワクワク感や期待感が醸成されるような変化を起こしていかないと、クラブに投資しようとか、スポンサーが拠出するお金を増やそうという流れが作れないと感じています。結局、未来に対する期待がなければ先行してスポンサーしよう、出資しようとはなりませんから。
 またしても前回のテーマに戻ってしまいますが。

 当然、自分たちの努力でそうした期待感を作っていかなければいけないとも思っています。リーグワンの行く末がなかなか見えてこないとなれば、自分たちで夢物語を作っていくしかありません。

 新しい練習拠点や新しいスタジアム、新しい演出、海外クラブとのマッチメイク…。例えばスーパーラグビー加入を目指すなど突拍子もないことも含めて、スポンサーの期待感を高めていくことをやり続けるしかないと思っています。

 新しい練習拠点の話をすれば、今、土地探しをしている真っ只中です。ただドンピシャの土地がなかなか見つからないのですが。田舎は土地がありそうで、ないんです。土地があったとしても、その土地の用途区分が農地だと商業地に変えるのは相当難しい。5、6年、下手したら10年くらいかかります。農地を簡単に別のものに変えられてしまうと、国内の農地がどんどんなくなってしまうので、日本の規制はかなり厳しいんです。
 なので商業地と区分されている土地で空いている場所がないかを探したり、少し苦労はしています。

 ただ、期待感を高める一番の方法はチームが強くなること。来季こそは結果を出します。



PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

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