国内 2023.11.02
【連載】プロクラブのすすめ⑫ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] ふたりの上昇請負人

【連載】プロクラブのすすめ⑫ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] ふたりの上昇請負人

[ 明石尚之 ]
南アフリカ×トンガ戦での山谷社長。ブルーレヴズジャージーと富士山ヘッドで全力応援(撮影:谷本結利)

――10月21日には日本代表ナショナルチームディレクターを務めた藤井雄一郎・新監督もチームに合流した。

 私も宮崎のキャンプに3日間行って、練習を見てきました。
 新しい監督が来ると選手の評価はフラットになる。選手たちはかなり声を出して練習に取り組んでいると感じました。

 宮崎のキャンプでは、日本代表が浦安合宿でやっていたジョン・ドネヒューさんのタックルセッションをやっていました。ずっと見ていましたが、本当にしんどそうで。これを乗り越えれば、確実に選手の成長に繋がるなと思いました。
 そうした藤井さんが持っている豊富なネットワークを肌で感じた。日本代表のS&Cコーチをしていたアダムさん(キーン)にもスポットで入ってもらいました。
 藤井さんがチームに合流する前にも、イングランド代表の元コーチでキッキングのスペシャリストの方にもスポットで招いていました。家村(健太/SO)とか若い選手は特に刺激になったと思いますし、プレシーズンマッチでもその効果は感じました。キックはわれわれの課題でもありましたので。

――とはいえ、監督が合流してから開幕までの日数は短いです。

 開幕までの1か月でアジャストできると思うし、そもそも開幕戦を100%完成した状態で臨むチームはほとんどないですよね。
 アメフトやバスケに関わっていた時もそうでしたが、強いチームはシーズン中に成長できる。開幕戦と最終戦では見違えるようなチームになっているのが理想です。

――シーズン中に成長できるチームは、何が良くなっているのか。

 シーズンが始まればコンディションを整えることがメインになるので、ウエートをガンガンやってフィジカルを成長させる、みたいなことはできません。
 高められるのはプレーの精度であったり、共通認識のところです。状況に対する判断や認識がみんな同じであるか、相手が分析してくる中での対応など。
 あとは、ケガのメンテナンスも含めて良いコンディションを保てるかどうか。頭がクリアでも、体が疲れていればパフォーマンスは発揮できません。

――あらためてですが、今季は選手の補強というより、まずはコーチ体制を見直した。

 一度に両方着手できればいいのですが、お金は限られていますので、優先順位を考えれば、一番大事なことはラグビーをする上での方針づくりであったり、プランニング、選手のマネジメント。監督やコーチが大事になってきます。

 これまでのコーチが良くなかったということでは決してないです。いまの状況や戦績を踏まえると、われわれには新しい指揮官が必要でした。潤沢なリソースがない中で、それを乗り越える強さが(宗像サニックスで同様の経験をしてきた)藤井さんにはある。事業と強化のバランスへの理解も大切で、日本代表はまさにそこのせめぎ合いだったと思います。

 野球やバスケはGM(ゼネラルマネージャー)のスポーツだと思っていて、極端に言えば良い選手を獲得できればいい。特にバスケは5人しかいないので、1人の能力がゲームに与える影響は大きいです。

 一方で、ラグビーはスター選手がいてもその選手1人ですべてを変えることはできない。ラグビーやアメフトはコーチのスポーツだと思っています。良い選手を獲得しても、コーチがチーム作りをしっかりできるかどうかで結果は変わってくる。

 もちろん、良い選手がいるかどうかは大きな要素ですが、その選手をどう活かすかを考えた時にはとても緻密なことをしていく必要がある。
 スクラムでいえば、単純に体重の重い方が勝つわけではないことを日本代表がW杯で証明したように、細部へのこだわりやノウハウがあれば、選手の能力が劣勢でも互角で戦えたり、時には上回ることもできます。

――山谷さんもアメフトやバスケでそうした経験を。

 そんな経験ばかりでした。優勝するだろうと思われるチームにいたことは、選手としてもコーチとしても社長としても一度もありません。

 アメフトの時も、作戦を細かくチェックして、ビデオを見ながらみんなの意思統一を徹底的にやってきました。
 ただ、コーチは選手にあれもこれも求めてはいけないと思っています。選手一人ひとりはシンプルなことをしているけど、集合体になると複雑なことができていたり、いろんなことに対応できるようになっている状態に持っていくべき。自分のやることが、試合の時にはクリアになっているときが一番自分の能力を発揮できる状態ですから。

 アメフトにはチームのルールや戦術を書いたプレーブックというものがあって、分厚いものを作ってくるコーチはダメだと思っています。いかに選手にはシンプルなものを渡しながら、チームとしてはいろんなことにアジャストできるような状態になれるかが大事。
 100通り戦術があって100通り対応するのは難しい。3つだけ覚えておけば70通りくらい対応できる、みたいなことを編み出すのがコーチの力だと思っています。
 そうした考え方ができるコーチを連れてきたり、そうしたことにアジャストできる選手を見つけることが、GMや社長の役割だと思っています。

PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

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